第159回 資金調達

  株式会社は、営業行為をするためには多額の資金を必要とします。資金調達の方法は、後日返還の必要性のない自己資本と、後日返還の必要性がある他人資本――の2つに大きく分かれます。さらに、自己資本は募集株式の発行等と利潤の社内留保、他人資本は社債の発行と借入金――に分かれます。

  これらの手続きには、共通点が多いので、比較しながら勉強することが大切です。

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  では、①募集株式の発行等、②募集株式の発行等に関する瑕疵、③新株予約権、③社債の発行――と順に詳しく勉強しましょう。

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Ⅰ.募集株式の発行等

  募集株式の発行とは、株式引受人を募集することによって、新たに株式を発行することです。新たな株式の発行と自己株式の処分は、どちらも株式引受人を募集し、引受人から金銭等の払込みを受けて、引受人が株式を取得するという点で共通しているため、会社法では、両方の手続きを一体化して規定しています。

  また、授権資本制度と言って、定款によって、将来会社が発行する予定の株式数を決め、その授権の範囲内で会社が適宜株式を発行することのみが認められていますが、これにより、市場の状況などに応じた機動的な株式の発行が可能となりました。

  株式は、株式会社の社員の地位を表すものですから、新株の発行をすることにより、当然、会社の社員が増加します。また、新株を発行することによりそれに見合う対価が会社に入るため、会社資金も増加します。つまり。新株の発行により、人的・物的に会社が拡大します。

  募集株式発行の方法には、次の3つがあります。

①公募

②株主割当

③第三者割当

  ①の公募とは、広く一般から株主を募集する方法で、会社で募集するa直接募集と、証券会社に委託して募集するb間接募集――があります。

  ②の株主割当とは、発行予定の株式を既存の持株数に比例的に割り当てて発行することで、株主に募集株式を優先的に引き受ける引受権を与える方法で行われます。つまり、発行済株式を1000株と500株持っている2人の株主がいた場合には、新株を、その持株割合に応じて2対1の割合で割り当てます。

  ③の第三者割当とは、募集株式を既存の株主の持株数に比例的に割当てるのではなく、特定の第三者、例えば、会社の取締役や従業員、取引先、連携先――などに割当てることです。ここで、気を付けなければならないのは、株主に割当てるのでも、持株数に比例的に割当てるのでなければ、第三者割当になることです。

  次に、募集株式を発行した場合の影響をお話しします。

  まず、既存株主が被る不利益は、主に2つ、①持株比率の低下と②保有株式価格の下落――です。

  新たな募集株式の発行により、既存の株主以外に新株が発行されると、当然、既存株主は持株比率が相対的に低下するので、会社に対する支配力が弱まります。

このような持株比率の低下を防ぐには、既存株主に募集株式の引受権を与えて、株主割当の方法によることになります。

  また、既存株主以外の者に、市価を下回る価額で募集株式を発行すれば、すでに存在する株式の価格は下落するので、既存株主は経済的損失を被ります。このような保有株式の下落を防ぐには、やはり、株主割当の方法によることです。

  つまり、募集株式の発行によって既存株主が被る不利益を回避するには、株主割当の方法で募集株式の発行を行うしか方法はありません。しかし、株主割当の方法に限定してしまうと、会社が有利に資金調達を行う利益を損なうおそれが出てきます。その理由は、募集先を株主に限定させるより、広く公募した方が、割当引受価格が高くなる可能性があったり、企業結合の場合では、提携先などの第三者割当の必要性が高かったりするからです。

  そこで、募集株式の発行は、既存株主の保護と会社の資金調達の便宜という対立する利益を調整しながら、行うことになります。そして、その調整は、会社の規模や公開性によって方法が異なり、会社経営の手腕によるとも言えます。

 

1.募集事項の決定

  では、実際に、会社の種類別株式の募集事項の決定はどのようになっているのでしょう?

  非公開会社の場合には、会社の資金調達の便宜よりも、既存株主の保護が重要です。株式には譲渡制限が付けられているので、既存株主は株式を譲渡することで不利益を回避することが不可能だからです。

そこで、非公開会社の場合、募集事項の決定で原則となる手続きは、株主総会における特別決議です。通常の発行の募集事項は、①募集株式数、②募集株式の払込金額、③現物出資の場合は、内容・価額、④払込・給付期日、⑤株式を発行する場合は、増加する資本金・資本準備金――です。

なお、例外として、株主総会決議で募集事項の決定を取締役・取締役会に委任する場合があります。

  次に、公開会社の場合は、既存株主の保護よりも、会社の資金調達の便宜の方が優先されると言っていいでしょう。公開会社には、大規模会社が多く、大規模会社では有利な資金調達の要請が大きいし、既存株主には株式譲渡という不利益の回避の方法があるからです。

公開会社の募集事項の決定についての手続きは、原則として取締役会決議で足ります。ここが、非公開会社との大きな違いで、これが授権資本制度です。授権資本制度とは、会社は、定款所定の発行可能株式総数の範囲内では、株主総会の決議によることなく、取締役会の決議だけで募集株式を発行できるとした制度です。本来、株主総会の決定事項である、会社の重要事項の募集株式の発行を取締役会の決定だけで行えるとした理由は、株主総会の決定では迅速な意思決定が行えず、必要なときに必要な資金調達ができなくなるからです。会社設立時に発行する株式の総数は、発行可能株式総数の4分の1以上でなければならないとされています。残りの分の発行については、取締役会が随時決定できるというわけです。

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  なお、通常の発行の場合の、取締役会で決議される募集事項は、①募集株式数、②募集株式の払込金額(ただし、市場価格ある株式の引受人を募集する場合は、金額を決定しなくてもよい)、③現物出資の場合は、内容・価額、④払込・給付期日、⑤株式を発行する場合は、増加する資本金・資本準備金――と、非公開会社の株主総会による決議と、ほぼ同様です。ただし、④については、払込給付期日の2週間前までに、株主に対して募集事項を通知または公告しなければならないことになっています。

また、公開会社の場合にも、有利発行という方法があります。

  有利発行とは、株主以外の第三者に特に有利な金額で募集株式を発行することです。株主以外の者に市価を下回る価額で募集株式を発行すれば、既存株主は株価の下落による経済的損失を被りますが、会社の資金調達の必要性などから、このような募集株式の発行をする場合があります。

  しかし、株主には、有利発行による募集株式の発行を認めるかどうかを慎重に判断する機会を与えなければなりません。そこで、公開会社・非公開会社を問わず、取締役は株主総会でその必要性を説明したうえ、株主総会の特別決議を経なければならないとされています。

2.申込みから出資まで

  申込みの際には、まず、

①会社は申込者に対して、a会社の商号、b募集事項、c払込みの取扱いの場所、d法務省令で定める事項

――を通知しなければなりません。

    

②通知を受けた申込者は、a氏名・名称・住所、b引受ける募集株式の数――を記載した書面を会社に交付しなければなりません。なお、株主割当の場合に、期日までに株主が申込まない場合は、当然権利を失います。

  次に、

③会社は、割当てる募集株式の数を申込者に通知します。割当数に応じて、申込者は引受人となります。

   そして、

④引受人は、払込期日またはその期間内に、会社が定めた払込みの取扱い場所に全額を払込まなければなりません。現物出資の場合は、現物全部を会社に給付しなければなりません。出資を履行しなかった引受人は、当然に失権します。また、引受人は、会社に対する債権を有していても、出資をする債務との相殺を行うことはできません。

  そして、

⑤出資の履行をした日に株主となります。

 

Ⅱ.募集株式の発行等に関する瑕疵

  募集株式の発行等の手続き等に法令または定款違反がある場合、その効力はどうなるのでしょう?

この場合、募集株式の発行等の効力が発生する前後に応じて、事前の手段として①募集株式の発行等の差止め、事後の手段として②新株発行・自己株式処分無効の訴え・不存在確認の訴え――という救済の手段があります。

  ①の募集株式の発行等の差止めとは、会社が、法令・定款違反または著しく不公正な方法で募集株式を発行したり自己株式を処分した場合に、株主が会社に対して発行等の差止めを請求することです。

  ②の新株発行・自己株式処分無効の訴え・不存在確認の訴えは、募集株式の発行等が効力を生じた後にその効力を否定しようとする場合の手段です。募集株式の発行等の効力が発生した後には、法律関係安定等の観点から、無効の訴え・不存在確認の訴えという方法でしか、その効力を否定することはできません。

新株発行等の無効の訴えは、提訴権者は、新旧両株主・取締役・監査役等に限られ、提訴期間は、公開会社で効力発生日から6カ月間、非公開会社で効力発生日から1年間で、被告は会社です。判決の効力は、対世効はありますが、遡及効はありません。

新株発行等の不存在確認の訴えについては、株主でない者には新株発行が存在しないことの確認を求める利益はないとしているので、訴えを提起できるのは、株主のみです。また、出訴期間の制限はありません。

また、取締役や執行役と通じて、不公正な払込金額で株式を引受けた者は、会社に対して公正な価額との差に相当する金銭を支払わなければなりません。現物出資した者の現物出資財産の価額が決定価額に著しく不足する場合にも、原則として、会社に対して当該不足額を支払わなければなりません。

 

Ⅲ.新株予約権

  新株予約権とは、新株予約権者が会社が新株発行をしたときに、会社から株式の交付を受ける権利のことです。その発行は、有償の場合と無償の場合があります。新株予約権の行使で、株式が交付されるので、新株予約権の発行は、潜在的な募集株式の発行と言え、募集株式の発行と類似した規制が設けられています。

  新株予約権の発行の目的は、①敵対的買収に対する防衛策、②取締役等に対するインセンティブ報酬――のほか、新株予約権付社債として③社債とともに発行する場合、④将来行う第三者割当による新株発行の払込金額を確定させる場合――のように資金調達を果たすことも考えられます。

新株予約権の発行手続きは、募集株式の発行の場合と同様です。ただし、申込者は、払込みを待たず、割当日に新株予約権者になります。ただし、払込期日までに全額の払込みをしない場合は、募集新株予約権の行使が行えず、その新株予約権は消滅します。

  また、新株予約権者は、当該新株予約権を行使した日に、当該新株予約権の目的である株主となります。新株予約権は、原則として自由に譲渡することができますが、募集する新株予約権が新株予約権付社債に付されたものである場合、新株予約権のみの譲渡はできません。

 

Ⅳ.社債の発行

  社債とは、会社法の規定により会社が行う割当てにより発生する当該会社を債務者とする金銭債権であって、会社法676条各号に掲げる募集事項についての定めに従い償還されるもののことです。

  社債と株式の大きな違いは、社債はあくまで負債であり、社債権者はあくまで債権者にすぎませんが、株式は会社の構成員、つまり株主としての地位を有するということです。具体的には、利益・利息の配分、残余財産の分配、払込金の払戻し、経営参与権――などが異なります。

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  社債の発行は、取締役会非設置会社においては取締役の決定により、取締役会設置会社では取締役役会決議により行います。社債権者を保護するため、原則として社債管理者を設置し、弁済の受領等の社債の管理を委託しなければなりません。社債管理者は、銀行、信託会社などで、社債権者の利益を確保するために、一切の裁判上または裁判外の行為をすることができます。さらに、裁判所の許可あるときには、社債発行会社の業務・財産の状況を調査することもできます。

  一方、社債管理者の義務は、社債権者に対する、①公平誠実義務と②善管注意義務――です。社債管理者が義務に違反して債権者に損害を与えたときは、社債権者に対して損害賠償責任を負います。

  また、社債権者は社債の期限が到来したときに償還を受け、それまでの間は発行時に定められた内容の利息の支払いを受ける権利を有します。

  会社が社債を発行するには、発行のつど募集事項を決定しなければなりません。社債の発行は、借入れという業務執行行為の一つですから、取締役・取締役会で決定します。

  申込みをしようとする者に対して会社は、会社の商号・募集事項等を通知し、募集社債の引受けの申込みをしようとする者は、氏名・名称・住所等を記載した書面を会社に交付して申込みます。

会社は申込人の中から任意の者に対して社債を割当てることができます。

  社債にも株式における株主名簿に相当する社債原簿が存在します。会社は、社債を発行した日以降、遅滞なく社債原簿を作成しなければなりません。社債原簿は本店に置かれ、営業時間内であれば、社債債権者はいつでも閲覧・謄写できます。なお、社債原簿への記載には、資格授与的効力、免責的効力、確定的効力が、株主名簿同様に認められます。

  また、社債にも株式における株券のような社債券があり、社債券が発行される場合と発行されない場合があります。社債券が発行されない場合の社債の譲渡は、当事者間の意思表示のみで行えます。会社や第三者への対抗要件は、社債原簿の名義書換です。

一方、社債券が発行されている場合の社債の譲渡には、当事者間の意思表示と社債券の交付が必要です。会社に対する対抗要件は、社債原簿の名義書換、第三者に対する対抗要件は、社債券の継続占有です。

  社債権者には、株主における株主総会に相当する社債権者集会があります。社債権者集会は、会社法に規定のある事項や社債権者の利害に関する事項についてのみ決議することができます。社債権者集会の決議は、裁判所の認可を受なければ効力が生じません。裁判所の認可を受けた社債権者集会の決議は、社債債権者に対して効力を有し、社債管理者または代表者債権者が執行します。

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