第158回 役員等の損害賠償責任

  前回まで、株式会社の機関をいろいろ見てきましたが、今日は、株式会社の取締役などの役員に瑕疵があった場合について、①役員等の義務と利害衝突防止、②役員等の会社に対する責任、③役員等の第三者に対する責任、④株主の責任追及等の訴えと差止請求――と勉強しましょう。

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Ⅰ.役員等の義務と利害衝突防止

  役員等とは、取締役・会計参与・監査役・執行役・会計監査人――の総称です。役員等と会社は委任契約を締結します。したがって、民法の委任契約の規定が準用されるので、役員等は会社に対して善良な管理者としての注意義務(善管注意義務)を負います。善管注意義務とは、「最善の注意を払え!」という義務でしたね。

  しかし、善管注意義務というのは委任契約をした者なら誰でも負う義務です。会社の役員の義務はそんな程度でいいのでしょうか? 

というわけで、会社法は、善管注意義務の役員バージョン「忠実義務」を負わせることにしました。「取締役・執行役は、法令・定款・株主総会決議を遵守し、社会のため忠実にその職務を行わなければならない」と規定したのです。

したがって、役員等の義務は、以上の善管注意義務と忠実義務の2つが一般的な義務です。しかし、どちらも抽象的な義務なので、より具体的な①競業避止義務、②利益相反取引禁止――という義務や規定を設けています。

1.競業避止義務

  競業避止義務とは、取締役(執行役:以下省略)が自己または第三者のために、会社の事業の部類に属する取引を行う場合には、事前に株主総会・取締役会の承認を受けなければならないという義務です。当然、株主総会などは会社にとって不利であれば承認しませんので、結果として当該取締役は競業できないことになります。

 競業には、次の2つの場合が該当します。

①自己または第三者のためであること

②株式会社の事業の部類に属する取引であること

  ①の自己または第三者のためというのは、自己または会社以外の第三者に経済的な利益を与えることになるためという意味です。簡単に言えば、自分か会社以外の誰かが儲かるということです。

  ②の株式会社の事業の部類に属する取引というのは、会社の営業と市場で競合する可能性のある取引という意味です。営業品目がまったく同じでなくても競合する可能性がある取引はこれに相当します。

  もし、取締役が競業を行うとしたら、とらなければならない手続は次のとおりです。

①事前に取引について、相手方、所在地、期間、規模、目的物などを開示したうえで、株主総会・取締役会の承認を得る。

②取引終了後、取締役会設置会社・委員会設置会社の場合には、取引をした取締役は、取引について重要な事実を取締役会に報告する。

  株主総会・取締役会の承認を得ずに、取締役が取引を行ってしまった場合でも取引は有効となります。それは、取引の相手方が会社外部の第三者であるので、第三者の利益は保護しなければならないからです。一方、取締役に対しては、会社は損害賠償責任を追及できます。なお、競業避止義務違反は、取締役の正当な解任事由となります。

2.利益相反取引

  利益相反取引とは、取締役と会社間の取引のことで、①直接取引、②間接取引――2つの場合があります。

  ①の直接取引とは、取締役が自己または第三者のために取引(具体的には、会社からの財産の譲受け、金銭の譲受け、会社への財産譲渡など)などをすることで、当該取締役が代表取締役であるときはもちろん、他の取締役が会社を代表する場合でも、会社の利益を害するおそれがあります。

具体例で見てみましょう。

商法158-1

  上の図の場合、X氏が代表取締役としてA株式会社を代表してこの取引を行うと、X氏が単独で契約できることになります。ということは、土地の売買価格はX氏が勝手に決めることができるので、通常の取引で1億円の価格の土地を1000万円(極端には1万円で)で購入することも可能なわけです。つまり、会社の利益を大きく害し、一方、X氏には利益となります。たとえX氏が代表取締役でなくても、代表取締役と結託すれば、この取引は可能です。

そこで、会社の利益を守るため、取締役会設置会社では、このような直接取引については、重要な事実を示して取締役会(取締役会非設置会社では株主総会)の承認を受けなければならないことになっています。

  次に②の間接取引は、会社が取締役の債務について取締役の債権者に対して保証や債務引受をする場合です。

これも具体例を見てみましょう。

商法158-2

  上の図で取締役X氏がY氏から借金する場合に、A株式会社がその保証人になる場合です。この場合は会社と取締役間の直接取引ではありません。しかし、会社とY氏は保証契約を結ぶわけですから、X氏が弁済できないときは、会社が肩代わりしなければなりません。このことは、会社にとって不利益でX氏にとっては利益になります。

そこで、やはり、会社の利益を守るため、このような間接取引の場合にも、重要な事実を示して取締役会(取締役会非設置会社では株主総会)の承認を受けなければならないことになっています。

  このように、利益相反となる取引とは、会社と取締役との利害が衝突し裁量により会社に不利益を生じさせるおそれのある取引と考えられています。この判断は、行為の性質により異なります。例えば、取締役が会社に対して自己の財産を無償で贈与する場合は、これに当たらないとされています。

  利益相反取引を取締役会などの承認を得ずに行った場合は、その取引は無効となります。ただし、第三者が入る間接取引の場合は、第三者が善意の場合は有効です。上の図では、A株式会社とY氏との保証契約は有効です。この場合に、会社は取締役に対して損害賠償責任の追及ができます。

  競業避止義務と利益相反取引についての違いを把握することは重要なので、下表で確認してください。

商法158-3

  競業避止義務違反や利益相反取引違反があって、会社が取締役を相手に訴訟を提起する場合、あるいは、逆に取締役が会社を相手に訴訟を提起する場合、会社を代表するのはどの機関になるのでしょう?

  本来、対外的にも会社を代表するのは代表取締役のはずです。しかし、会社と取締役間の訴訟で、代表取締役が会社を代表したのでは、馴れ合いから正当な訴訟が行われないおそれがあります。そこで、会社法では、この場合を次のように修正しています。

①取締役会非設置会社では、株主総会が定めた者が会社を代表できる

②取締役会設置会社では、株主総会または取締役会が定めた者が会社を代表できる

③監査役設置会社では、監査役が会社を代表する

④監査役非設置会社では、監査委員などが会社を代表する

  なお、特別利害関係人となる取締役が、取締役会などの決議に参加できないのは、言うまでもありません。

 

Ⅱ.役員等の会社に対する責任

  役員等がその任務を怠ったときは、会社に対して、そのことで生じた損害を賠償する責任を負います。これを任務懈怠責任と言います。また、責任を負う者が複数いる場合は連帯責任となります。

 まず、利益相反取引があった場合は、次の者に任務懈怠責任があったと見なされます。

①利益相反関係にある取締役・執行役

②利益相反取引を決定した取締役・執行役

③利益相反取引を承認した取締役会で賛成した取締役(取締役会決議に参加し、議事録に異議をとどめなかった取締役は、賛成したものと推定されます)

①~③の取締役・執行役は、任務懈怠がなかったことを立証しない限り責任を免れることができません。

  次に、取締役・執行役が手続に違反して競業を行った結果、会社に損害が生じた場合は、会社の損害額は、取締役・執行役・第三者が得た利益の額と推定します。

利益相反取引や競業取引に係る責任は、いずれも任務懈怠責任であるため、原則として過失責任ですから、総株主の同意があれば責任の免除を行うことが可能です。ただし、自己のために直接、利益相反取引をした取締役・執行役については、無過失責任とされ、責任の一部免除や責任限定契約の適用も認められません。

  また、次の場合にも、取締役・執行役は、無過失責任を負います。

①自己取引:自己取引の結果、会社に損害が生じた場合の取締役・執行役の責任は、無過失であっても免除を受けることはできません。

②利益供与:株主権の行使に関して利益を供与した取締役・執行役の責任も無過失責任です。

 

Ⅲ.役員等の第三者に対する責任

  役員等が、その職務を行うに当たって悪意または重過失であったときは、当該役員等はこれによって不利益を生じた第三者に対して、損害賠償責任を負います。

例えば、取締役の放漫経営で会社が倒産した場合に、会社の債権者に対して取締役も損害賠償責任を負います。この責任の性質は、第三者を保護するための特別の法定責任です。

つまり、この場合、第三者と取締役は直接の契約関係にはありません。ですから、第三者は、債務不履行による損害賠償を取締役に求めることができません。そこで、考えられる手段は、不法行為による損害賠償請求ですが、不法行為を立証するのはそう簡単ではありません。裁判をしても認めてもらえない場合が少なくないのです。

そこで、こうした第三者保護のために会社法では、不法行為より要件を緩和した特別の決まり429条の規定を設けました。これを特別法定責任と言い、法律で特定の者に責任を負わせることにしたのです。

 

Ⅳ.株主からの責任追及等の訴えと差止請求

  役員等が会社に損害を及ぼすような行為を行ったり、行おうとしているのに責任を追及しない場合に、株主が自ら会社の利益を保護するために責任を追及する手段として、①責任追及等の訴え、②違法行為の差止請求――があります。

  ①の責任追及の訴えは、個々の株主に認められています。責任追及の訴えの対象は次の3つです。

a発起人・設立時取締役・設立時監査役・役員等・精算人――の責任追及

b違法な利益供与を受けた者に対する利益返還請求

c不公正価額で株式等を引き受けた者に対する差額支払い請求

  責任追及等の訴えを請求することができるのは、6カ月前から引き続き株式を有する株主です。なお、責任追及等の訴えが当該株主や第三者の不正な利益を図ったり、当該株式会社に損害を与えることを目的としている場合は、責任追及等の訴えを会社に請求することはできません。

  株主からの請求があると、会社を代表して当該取締役などに訴えの提起するのは、原則として代表取締役・代表執行役です。ただし、取締役の責任を追及する訴えの場合は、監査役が会社を代表します。

ただし、株主による請求の日から60日以内に、会社が責任追及等の訴えをしない場合には、請求した株主みずからが訴えを提起することができます。

  次に、②の違法行為の差止めについてお話しします。

  取締役や執行役の違法行為がなされる前にその行為をやめさせることができれば、それに勝ることはありません。そこで、会社法では、一定の要件の場合、個々の株主に取締役や執行役の違法行為を差止める権利を認めています。違法行為差止めの手続きは、責任追及等の訴えと異なり、株主が直接裁判所に提起できます。また、裁判外でも行えます。

  取締役や執行役の違法行為に対して株主の差止請求権が認められるためには、次の3つの要件を充たすことが必要です。

①取締役または執行役が会社の目的の範囲外の行為その他法令・定款違反の行為をするか、これらの行為をするおそれがあること

②当該行為によって会社に著しい損害が生じるおそれがあること

(監査役設置会社または委員会設置会社では、回復することができない損害が生じるおそれがあること)

③6カ月前から引き続き株式を有する株主であること(非公開会社以外の株式会社の場合)

  また、会社の業務執行に関して、不正の行為や法令や定款に違反する重大な事実があると思われる時にも、株主は、会社の業務や財産の状況を調査させるために、検査役の選任の申立てを裁判所に対して行うことが可能です。ただし、この申立てを行えるのは、①総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主、または、②発行済株式の100分の3以上の数の株式を有する株主――です。

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