第149回 商行為のルール~商法独自の制度~

  前回は、民法を修正した内容の商法について解説しましたが、今回は商法独自の制度について解説していきます。①交互計算、②匿名組合、③運送営業、④場屋営業――です。

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Ⅰ.交互計算

  交互計算とは、継続的に取引をしている当事者間において、一定期間(交互計算期間)に生じる債権・債務につき、ここに決算せず、計算期間経過後に一括して決済し、残額についてのみ支払する契約のことです。

  交互計算には、

①決裁簡易化機能

②担保的機能――があります。

  ①の決裁簡易化については、当事者間で債権のやり取りを相殺して決済するので、すぐにご理解いただける機能と思います。

  ②の担保的機能は、少し解説が必要です。次の例を頭の中で思い浮かべてください。
250万円の債権の弁済期において債務者が無資力だったとします。すると当然債権者は債権の回収を行うことができませんが、200万円の担保権を設定しておけば、損失は50万円で済みます。

実は、これと同じことが交互計算でも言えるのです。同じように弁済期において債務者が無資力だった場合、債権者は本来は250万円の損失が出るところ、自己の債務と相殺することによって損失を50万円にとどめることが可能です。

この担保的機能には、交互計算不可分の原則という原則があります。
交互計算が機能するためには、債権と債務の対立関係が全体に維持されていなければなりません。そこで、交互計算に組み入れられた個々の債権は、その一定期間中はその効力が停止され、独立性を失い、期間終了化まで不可分な一体として取扱われ、当事者は、その期間中個別の債権について、これを行使したり譲渡・質入などの処分をすることはできませんし、差し押さえも許されません。

 

Ⅱ.匿名組合

  匿名組合とは、当事者の一方が相手方の営業のために出資をし、相手方がその営業から生じる利益を配分することを約束する契約です。片方が名前を隠すので、匿名(とくめい)と呼ばれます。この制度は、お金は持っているものの自分の名前が表に出ることを望まない者と、経営能力はあるものの資金の乏しい商人とを結びつける制度です。
この場合、出資者を匿名組合員、営業を行う者を営業者と言い、契約の当事者はこの2当事者のみです。

  また、匿名組合員の出資の目的物は金銭その他の財産に限られます。営業者の利益配分が匿名組合契約の重要な要素で、これを欠く匿名契約はあり得ません。

匿名ですので、当然、第三者との法律関係に立つのは、営業者です。ただし、匿名組合員が、営業者の商号に出名を許した場合は、その使用以後に生じた債務については、第三者に対して連帯して責任を負います。

 

Ⅲ.運送営業

  運送営業には、

①物品運送

②旅客運送――があります。

読んで字のごとく、物品運送の対象は物、旅客運送の対象は自然人です。ここでは、②物品運送が、問題となるテーマです。

  物品運送とは、運送人がその保管のもとに物品の運送を行うことを引き受ける契約のことですが、運送契約では、運送人は、不可抗力による滅失の場合を除き、荷送人に対しての運送費・費用請求権を有します。
また、それに対して、運送人は運送実行義務はもとより、

①貨物引換証交付義務

②損害賠償責任――を負います。

  ①の貨物引換証交付義務とは、運送人は、運送に対する運送物品引渡請求権を表章する有価証券である貨物引換証を、荷送人の請求があるときは交付しなければならないという義務です。有価証券が発行された当事者間においては、証券上の関係と原因関係の2つの法律関係が発生します。

 
物品運送では、運送契約が原因関係で、貨物引換証(有価証券)が発行されます。そして、運送物品引渡請求権の内容は、貨物引換証の記載によって決定されます。

この貨物引換証が問題となる場合を見てみましょう。①空券や②品違いの――の場合です。空券とは、品物を受け取らないのに証券を発行した場合、品違いとは、品物と証券の記載とが相違する場合で、これらの場合に貨物引換証が有効か無効かが問題となります。

判例によれば、①空券の場合は、まったく原因関係が存在しない場合には、貨物引換証は無効になり、②品違いの場合には、原因関係が存在する以上、貨物引換証の記載に従って判断すべきとしています、つまり、貨物引換証は有効であり、記載物品の引渡しを請求することができるのです。

  次に、②の損害賠償責任について解説します。
運送人は、運送契約の本旨に従って運送をなすべき義務を負い、これに違反したときは債務不履行に基づく損害賠償責任を負います。

債務不履行の一般原則によれば、故意または過失によって他人に損害を与えた者は、自己の行為と相当因果関係が認められる全損害を賠償しなければならないとされます。
また、自己の営業のために他人を利用している者は、信義則上、その人の故意または過失によって生じた損害についても賠償しなければなりません。

では、運送営業な場合はどうなのでしょう?
運送人は、自己またはその使用人その他運送のために使用した者が運送に関して注意を怠らなかったことを証明しなければ、運送品の滅失、殷損、延着について損害賠償しなければなりません。

債務不履行に関する一般原則を運送人について具体的に明確化したものとして注意したい規定です。

  さらに、商法では運送人保護のために、①賠償額の定額化、②高価品の特則――を規定しています。

①の賠償額の定額化とは、運送人が運送物品を滅失・毀損した場合は、その物品の引渡し日などにおける到達地の時価で賠償するというものです。時価が、相当因果関係理論に基づく損害額より多くても少なくても時価で賠償します。賠償額を定額化することにより、運送人に予測可能性を与え、運送人を保護する目的です。

また、容積または重量の割に著しく高価なもの(例えば、貨幣や有価証券など)を高価品と言いますが、②の高価品の特則とは、荷送人が運送を委託するに当たって、高価品である旨の明告を怠った場合には、運送人はその滅失・毀損について責任を負わなくていいという決まりです。これも、運送人を保護する趣旨の決まりですから、運送人が悪意の場合、特則の適用はありません。

  ところで、この高価品の特則(商法578条)と民法709条の不法行為責任の関係を見て見たいと思います。具体的には、明告のない高価品を運送人が過失で毀損した場合の損害賠償はどうなるか――です。
商法による高価品の特則に着目すれば、損害賠償責任は発生しないことになります。一方、過失で他人の権利を侵害した点に着目すれば、民法709条で損害賠償の責任を負うことになります。つまり、商法の高価品の特則、民法709条のどちらが適用されるかということが、ここでの問題です。

判例によると、商法578条と民法709条は競合し得るから、運送人は商法578条で責任を免れたとしても、民法709条の責任を免れることはできないとしています。

 

Ⅳ.場屋営業

  商法最後の項目です。場屋営業(じょうおくえいぎょう)とは、公衆の来集に適する設備を設けて、これを利用させることを内容とする営業のことで、旅館やホテルがその例です。

場屋主人の責任には非常に厳しい規定が設けられています。その理由は、場屋営業は多数の客が出入りし、その設備を利用することから、来集する客の携帯品が紛失・盗難する危険が大きいためです。

まず、客から寄託を受けた物品に関しては、不可抗力による滅失・毀損であることを証明しない限り責任を免れることができません。
また、客から寄託を受けていない物品に関しても、自己または使用人の故意・過失による滅失・毀損については責任を負わなくてはなりません。なお、高価品については、運送人と同様です。

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