第147回 営業譲渡と商業使用人

  今日は、①営業譲渡と②商業使用人――について学習します。どちらも定義を覚えて、事例で確認していきましょう。

行政書士講座

Ⅰ.営業譲渡

  営業譲渡とは、

①一定の営業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産の全部または重要な一部を譲渡し、

②これによって譲渡人が営業活動を譲受人に受け継がせ、

③譲渡人が法律上当然に競業避止義務を負う結果を伴う――ものを言います。

会社の場合は、営業譲渡ではなく事業譲渡と言います。

  ここでいう有機的一体としいて機能する財産とは、土地・建物などの不動産、自動車・工業機械類といった動産のように、目に見えるものだけでなく、債券・債務、営業権や特許権などの無体財産権、老舗・暖簾といった事実関係も含まれます。
一括して譲渡する営業譲渡が認められているのは、個々の財産をばらばらに譲渡するより高い価値を維持することができ、社会的損失を回避できること、および、企業結合・企業分割の方法となる得ること――からです。

  また、競業避止義務とは、譲渡人は同一の市町村の区域内および隣接する市町村の区域内において、20年間は同一の営業を行えないという義務です。この競業避止義務は特約がない限り当然に負うもので、20年間という内容は30年間まで加重することができます。

  営業譲渡の移転は、営業自体を一体として一括して移転させることはできません。営業を構成する財産それぞれについて各別に移転し、対抗要件を具備する必要があります。
例えば、不動産については、所有権移転登記をする――などです。

  そして、営業上の債務については、債務引受などの手続が必要です。債務引受とは、例えば借金を肩代わりするようなことで、債務引受には債権者の同意が必要です。

  次に、第三者に対する関係を見ていきましょう。まず、営業上の債権者に対する関係からです。

商法147-1

  X氏がX商店を営業するに当たって、M氏は500万円の融資をしていたとします。この状態で、X氏がY氏に営業譲渡すると、通常、営業上の債務もY氏に移転するのでしたね。

しかし、XY間の特約によって債務だけは移転させないことも想定できます。このような特約がなされた場合、外形的にはY氏が債務者に見えますが、本当の債務者はX氏です。すると、M氏は、請求先を間違える場合もありますし、もし、X氏が債務を弁済できない場合に担保として期待していた営業財産もY氏に移転しているために、不利益を被ることも予想されます。

そこで、商法・会社法では、一定の要件を具備した場合は、M氏は、X氏だけでなくY氏にも債務の請求をできることにしました。一定の要件とは、①譲受人が商号を引き続き使用する場合、②譲受人が営業上の債務を引き受ける広告をした場合――です。

  次に、営業上の債務者に対する関係を見ます。

商法147-2

  X氏の営業するX商店から材料を仕入れていたN氏に、仕入れの債務が500万円あった場合、X氏がY氏に営業譲渡すると、営業上の債権もY氏に移転するのが通常です。

しかし、XY間の特約によって債権だけ移転させないことも想定できます。このような特約がなされた場合、外形的にはY氏が債権者に見えますが、実際はX氏が債権者です。N氏が誤ってY氏に弁済してしまった場合、債権者に弁済したことにならないので、N氏には不利益と言えます。

そこで、一定の要件を具備した場合には、Y氏に対する弁済も有効になるようにしました。一定の要件とは、譲受人Y氏が商号を引き続き使用し、かつ、債務者N氏が善意・無重過失の場合です。

  話は少し外れますが、ここで営業所の話をします。営業所という名称は皆さんよく耳にすると思いますが、営業所とは、商人の営業活動の中心となる一定の場所のことです。商法上でいう営業所は、内部的に指揮命令が発せられるだけではなく、外部的にも営業上の主要な活動がなされる場所でなくてはなりませんし、営業所に当たるかどうかは、客観的に判断され、商人の主観的意思で決められるわけではありません。すなわち、例えば、工場や倉庫などは営業所には当たりません。

そして、商人が一つの営業について複数の営業所を持つ場合、主たる営業所を本店、従たる営業所を支店と言い、商法上の営業所は本店と支店に限られます。大きな企業などでは、出張所や派出所という名称の出店も目にしますが、本店や支店の組織活動の構成部分にすぎず、商法上の営業所には当たりません。

 

Ⅱ.商業使用人

  特定の商人である企業に雇用され、その営業を補助する企業補助者は、

①商人に従属する商業使用人、

②独立した商人――の2つに分かれます。

そして、商業使用人は、その有する代理権の範囲の広狭によって、

a支配人

bある種類・特定の事項の委任を受けた使用人

c物品の販売等を目的とする店舗の使用人――に分かれます。

  また、独立した商人は、特定の商人を補助する

d代理商

不特定多数の商人を補助する

e仲立人

f取次商――に分かれます。

 

1.支配人

  支配人とは、商人に代わってその営業に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有する商業使用人です。支配人という名称がついているか否かが問われるのではなく、商人から包括的な代理権である支配権が与えられているか否かが問題で、与えられていない場合は、支配人という肩書が与えられていても、商法・会社法上の支配人ではありません。

  支配人の選任は、商人またはその代理人が行います。株式会社の場合には営業主は会社ですから、取締役会設置会社では取締役会で意思決定をし、代表取締役が選任行為を行います。
また、取締役会非設置会社では、取締役が選任します。
このとき、支配人は、監査役設置会社の監査役、委員会設置会社の取締役・監査委員を兼任できません。また、支配人は自然人でなければなりません(取締役会等については後述します)。

  そして、支配人は商人とは雇用契約を締結している商業使用人なので、雇用契約が終了すれば支配人としての地位も終了しますし、雇用契約が存続していても支配人に与えられた代理権が消滅すれば終任します。そのほか、営業の廃止や会社の解散、営業譲渡も終任原因となります。

なお、支配人の選任・就任については登記しなければなりません。

  次に、支配人の有する支配権について詳しく見ていきます。

  支配人は、包括的・不可制限的な代理権を有します。
包括的とは、商人に代わって営業に関する一切の権限を、裁判の内外を問わず有することです。裁判の内とは訴訟行為、外とは取引行為です。
また、不可制限的とは、包括的権限を内部で制限しても、その制限の存在を善意の第三者には対抗できないということです。
例えば、社内規定で、支配人の借入限度額を規定していても、相手方にはその規定は通用しないということです。

  包括的な代理権を持つ支配人の権限と代表取締役の権限の違いは、支配人の代理権は、特定の営業及び特定の営業所を単位として認められているのに対し、代表取締役の支配権は、会社の営業全般に及ぶということです。この差に注意してください。

  一方、支配人の義務は、主に3つあります。

①善管注意義務

②競業避止義務

③営業避止義務

  ①の善管注意義務とは、雇用契約上の義務で、事務処理の状況などを報告したり、労務に服することです。

  ②の競業避止義務とは、支配人は商人の許可を受けなければ、自己または第三者のために商人と同種の営業取引をすることができないことです。

  また、③の営業避止義務とは、自ら営業を行ったり、他の商人または会社の使用人になることができないことです。②と③は精力分散防止義務と言われます。

  取締役は、競業避止義務はあるものの営業避止義務はなかったので、この点でも異なります。取締役と会社との関係は委任契約です。そして、委任契約は自由裁量を伴うものなので、取締役の行為の自由はできる限り制約すべきではないとの考えでした。
一方、支配人と商人との関係は雇用契約で、被用者である支配人には自由裁量はなく、商人の利益のために専心勤務が求められます。そこで、支配人は営業避止義務も負うのです。つまり、支配人は商人の許可を受けなければ、次の4つの行為はできません。

①自ら営業を行うこと

②自己または第三者のためにその商人の営業の部類に属する取引をすること

③他の商人または会社もしくは外国会社の使用人となること

④会社の取締役、執行役または業務を執行する社員となること

  以上のように支配人制度は、支配人に包括代理権を与え、営業活動の拡充の要請に応えるものです。もし、現実には包括的代理権を有する支配人ではないのに営業所の主任者であると他人に思わせるような名称(例えば、支配人、支店長、支社長など)を肩書に持つ商業使用人(表見支配人)がいたとしたら、取引の相手は思いもよらぬ損害を受けることが想定できます。

  そこで、営業所の営業の主任らしき名称を付けた表見支配人は、裁判外の行為に対しては、善意の第三者との関係では支配人と同一の権限を有するものと見なすことにしています。つまり、表見支配人がその営業所の営業に関して行った行為は、裁判上の行為を除き、相手方が表見代理人であると知らなかったときは、支配人がしたのと同じ効果を生じることとしました。

  表見支配人とされる要件は3つです。

①外観の存在:本店または支店の営業の主任であることを示す名称が存在すること

②帰責性:本店または支店の営業の主任者であることを示す名称の存在について商人に責任があること

③外観の信頼:相手方は善意・無重過失であること
 

2.ある種類または特定事項の委任を受けた使用人

  ある種類または特定事項の委任を受けた使用人とは、具体的には、部長、課長、係長――などです。
自己に権限が与えられた特定の業務について、一切の裁判外の行為をする権限があります。この代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗できません。
 

3.物品販売店舗の使用人

  販売店の店員で、最も狭い代理権が与えられている商業使用人です。
自分が使用人として勤務する物品販売店舗の商品について、相手方が悪意のときを除き、商品を販売する権限があると見なされます。
 

4.代理商

  代理商とは、使用人以外で一定の商人のために、平常、その営業の部類に属する取引の代理または媒介をする者です。
例えば損害保険会社の代理店などが典型的な例です。
商業使用人は自然人に限られましたが、代理商は法人でもOKです。また、代理と媒介は兼任できます。

代理商は、商人の許可を受けなければ、自己または第三者のためにその商人の営業に部類に属する取引をしたり、同種の事業を行う会社の取締役・執行役・業務執行社員――になることはできません。

  また、代理商には、

①契約を自身で締結する締約代理商

②契約の媒介を行う媒介代理商――の2つがあります。

  ①の締約代理商は、一定の商人である本人を代理して契約を締結する代理商です。代理商自身が法律行為を行い、その法律効果は本人(商人)と相手方に帰属します。

商法147-3

  ②の媒介代理商は、一定の商人である本人に契約締結の相手方を媒介・斡旋する代理商です。代理商自身は事実行為を行うのみで、法律行為は本人(商人)が行います。

商法147-4


5.仲立人

  仲立人とは、他人間の商行為の媒介をなすことを業とする者のことです。不動産仲介業が典型例で、一般に周旋業者とも呼ばれます。媒介代理商と類似しますが、媒介代理商は一定の商人のために継続的に取引の媒介を行うのに対して、仲立人は不特定多数のために随時、取引の媒介を行います。
 

6.取次商

  取次商とは、自己の名をもって他人の計算で一定の法律行為をなすことを業とする者のことです。

取次の目的がなんであるかによって、

①問屋(といや)

②準問屋

③運送取扱人――の3つに分かれます。

問屋を例にお話ししますと、問屋は自己の名をもって他人のために物品の販売または買入れを業としています。証券会社が典型です。一般的に言われる問屋(とんや)は、卸売商のことで、商法上の問屋(といや)とは異なりますので、気を付けてください。

問屋などの取次商は、他人の計算においてとはいえ、自己の名で契約を行います。したがって法律効果は、本人(商人)ではなく、取次商と相手方間に帰属する点が特徴です。

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