第146回 商業登記と商号

  前回の講義で、商人資格の取得の時期について会社は設立登記の時点とお話ししましたが、今回は、その登記について、詳しく見ていくこととします。本日のメニューは、①商業登記、②商号、③名板貸人の責任――です。

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Ⅰ.商業登記

  商業登記とは、商法、会社法その他の法律の規定により商業登記簿に登記することです。商人の取引活動は大量で反復的に行われ、利害関係を有する第三者も多数です。その取引をするたびに相手方の調査をしたり、自社のことを知らせたりするのでは、迅速性や安全性に問題があると言えます。

そこで、商人に関する取引上重要な一定の事項を公示することによって、取引の相手方を保護するとともに商人自身の社会的信用を維持するために設けられた制度が商業登記です。

  登記手続きは、原則として当事者の申請で行われる当事者申請主義です。申請がなされると、登記官は申請事項を審査し、問題がなければ登記が認められます。もっとも、登記官には、形式的審査権つまり申請書類に不備がないかを確かめる権限しかないので、登記事項と真実が異なる場合もあり得ます。

  登記の効力には、

①一般的効力

②不実登記の効力――とがあり、①の一般的効力はさらに

a消極的公示力

b積極的公示力――とに分けられます。

  aの消極的公示力とは、登記すべき事実が発生しているにも関わらず未登記だった場合、登記申請者は第三者に対して、登記事項の存在を対抗することができないことです。
例として次の図を見てください。

商法146-1

  代表取締役の氏名は登記事項ですから、X氏を代表取締役から解任した場合、解任登記をしなければなりません。この場合、X氏は代表取締役から解任されたという事実が登記事項です。7月1日にB氏がX氏と交わした売買契約を元にA株式会社に代金請求してきた場合、A株式会社はX氏解任の事実を知らない善意(そのことを知らなかった)のB氏に代金を支払わなければなりません。もし、B氏が解任の事実を知っていたなら、「Xは代表取締役から解任されたのだから、XB間の取引はA株式会社に帰属していないので、代金を支払い必要はない」と主張ができ、B氏はA株式会社に代金請求できません。

  次にbの積極的公示力とは、登記申請者が登記すべき事項を登記した後に利害関係を持った第三者は、悪意(そのことを知っていた)と見なされることです。ただし、正当な事由で登記簿を閲覧できないときは悪意とは見なされません。上記の図の時系列を変更しててみます。

商法146-2

  7月1日にB氏がA株式会社に代金請求してきた場合、B氏は悪意と見なされます。したがって、「Xは代表取締役から解任されたのだから、XB間の取引はA株式会社に帰属していないので、代金を支払い必要はない」というA株式会社の主張が認められ、B氏の代金支払い請求は認められません。

  しかし、風水害・洪水・地震などの天災などで、登記を知ろうとしても知ることができないような正当な事由があるときは、悪意とは見なされません。病気や旅行・出張などの個人的事情は正当な事由とは言えません。

  次に②の不実登記の効力とは、登記申請者が故意または過失によって、不実の事項を登記した場合には、登記が不実であることを善意の第三者に対抗することができないことです。
では、下の例で見てみましょう。

商法146-3

  B氏がA株式会社に対して代金請求をしてきたときに、A株式会社は善意のB氏に対して「Xが代表取締役というのは虚偽でるので、XB間の契約はA株式会社に帰属していないから代金を支払えません」という主張はできないのです。これを、権利外観法理と言い、次の3つの要件が必要です。

①外観の存在:不実の登記が存在すること

②帰責性:不実の登記がなされたことについて、登記申請者である会社に故意または過失があること

③外観の信頼:相手方が善意であること(過失の有無は問わない)

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Ⅱ.商号

  商号とは、商人が営業上、自己を表示するために用いる名称のことです。簡単に言えば、会社名や店名です。商号は名称ですから、文字で表示でき、発音できるものでなくてはなりません。ですから、図形や文様、記号などは商標(トレードマーク)にはなっても商号にはなりません。

  商人は、原則として自由に商号を選ぶことができます。これを商号選定自由の原則と言います。

ということは、山本さんが花屋を営業しようとして「山本旅館」という商号を選定することもできることになります。しかし、一般的に、第三者は商号を見てその企業主体などを判断することが多いので、取引の安全を確保するためには、商号による表示と実際の企業主体や内容を一致させる必要があります。

そこで、会社法・商法では次のような5つの制限を設けました。

①会社商号の制限(会社法6条3項)

②会社商号の不当使用の制限(会社法7条)

③営業主体を誤認させる商号使用の禁止(商法12条、会社法8条1項)

④商号単一の原則

⑤名板貸の制限(商法14条、会社法9条)

  ①の会社商号の制限とは、会社の場合、会社の種類によって、a株式会社、b合名会社、c合資会社、d合同会社――の文字を用いなければならないというものです。その理由は、会社の種類によって社員の責任形態が異なるからです。

  ②の会社商号の不当使用の制限とは、会社でないのに会社であることを示す文字を使用してはならないというものです。つまり、個人商店なのに株式会社という商号はNGと言うわけです。これも個人商店と会社とでは責任形態が異なるからです。

  ③の営業主体を誤認させる商号使用の禁止とは、不正の目的をもって、他の会社や商人であると誤認されるおそれのある名称や商号を使用してはならないというものです。例えば、ソフトバンクス株式会社はNGです。これについては、後述の商号権で詳しく解説します。

  ④の商号単一の原則とは、会社(企業)は1つの商号しか使用できないというものです。法人の一つである会社の商号は自然人と同様、全人格を表すものだからです。

これに対して、個人商人が数種の営業を営んでいる場合には、それぞれの営業ごとに異なる商号を使用することができます。

  ⑤の名板貸(ないたがし)の制限とは、個人に対して自己の商号を貸した者は、借りた者と連帯して責任を負うことです。詳しくは後述します。

  さて、商号が無事決まったとして、この効力はどのようなものなのでしょうか?

  商人がその商号について有する権利を商号権と言います。

商号権には、

①登記の有無に関係なく他人に妨害されることなく商号を使用する商号使用権

②他人が同一または類似の商号を不正に使用することを排斥する商号専用権――があります。

  商号専用権を具体化したものが商号選定自由の原則の③、誤認的名称・商号の使用禁止です。何人も不正の目的をもって、他の商人・他の会社であると誤認されるおそれのある名称または商号を使用してはなりません。

また、これらの規定に違反する名称または商号の使用によって営業上の利益を侵害されたり、侵害されるおそれがある商人・会社は、営業上の利益を侵害したり侵害するおそれがある者に対して、侵害の停止または予防を請求することができます。この請求は、商号を登記していない者でも行えます。そして、この規定に違反した者は100万円以下の過料に処せられます。

 

Ⅲ.名板貸人の責任

  名板貸とは、ある商人(名板貸人)が、他の商人(名板借人)に自分の商号を使って営業または事業を行うことを許諾すること、いわゆる名義貸しです。名板貸人は、自己を営業主と誤認して取引をした者に対して、取引によって生じた債務を名板借人と連帯して弁済する義務を負うことがあります。この債務には、取引によって直接生じた債務のほか、名板借人の債務不履行による損害賠償債務も含まれ、契約解除による原状回復義務・手付金返還義務も含まれます。

  一方、名板借人の不法行為による損害賠償債務は、原則として、名板貸人の責任に含まれません。したがって、名義貸与を受けた者が交通事故やその他の事実行為である不法行為に起因して負担する損害賠償債務は含まれないのです。

また、名板貸人の責任が成立するには、以下の3つの要件が必要です。

①外観の存在:名板借人が名板貸人の商号を使用すること

②帰責事由:名板貸人の許諾

③外観への信頼:第三者の誤認

  ①の外観の存在の場合、名板貸人の商号をそのまま使用しないで、付加語を加えたり、簡略化しても、営業主の誤認が生ずる限り、名板貸人の責任は発生します。
例えば、下図でY商店をX商店B支店とする場合です。また、特段の事情がない限り、名板貸人と名板借人の営業の同種性が必要です。なぜなら、異種業種ならば、名板貸人の営業であるという外観自体がないからです。

  ②の帰責事由とは、名板貸人が商人であり、かつ商号の使用を許諾したことが必要ということです。商号使用の許諾は明示すればもちろんですが、黙示の許諾でもOKです。これは、名板借人が名板貸人の商号を使用していることを知りながらこれを放置していた場合も、名板貸人に帰責性があるからです。ただし、単に手形行為をなすについて商号の使用を許諾したに過ぎないという場合には、名板貸人の責任は生じません。

  なお、名板貸人がいったん商号使用を許諾した後、これを撤回したとしても、単に撤回を名板借人に通知しただけでは足りず、例えば、新聞広告で許諾した場合には、新聞広告で撤回するというように、許諾と同等以上の方法が要求されます。

  ③の外観への信頼とは、相手方が名板貸人を営業主体や取引主体と誤認して名板借人と取引した場合に限るということです。つまり、相手方が善意かつ無重過失であるということです。

  では、以上を踏まえて、下の図を見てみましょう。

商法146-4

  この場合Zさんはどのように損害を回復すればいいのでしょうか?

普通に考えると、契約によって発生した損害の賠償は契約の相手方にしかできないので、ZさんはY商店に対してしか損害賠償請求できないことになります。もし、Y商店に十分な資力がない場合は、Zさんは泣き寝入りすることになります。

そこで、ZさんがX商店の名板貸によって営業主をX商店と誤認していた場合には、Zさんは、Y商店だけでなくX商店にも損害賠償請求を行えることにしたのが、名板貸人の責任です。

商法146-5

  商号選定の方法から考えると、商号選定は自由なのが原則であり、他人の名称を使用することも自由なはずですが、Zさんのような第三者を保護するために名板貸人に一定の責任を負わせて、商号選定主義を制限していると言えます。

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