第145回 商行為と商人の意味

  前回、商売については、民法の特別法である商法が適用される――とお話ししましたが、もっと、法的に言った場合にどのような場合に商法が適用されるかは、商人という概念と商行為という概念によって決められると言えます。
 

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  まず、民法と商法ではどのくらい違いがあるのかをお話しします。
例えば、消滅時効を例にとると、商法上の消滅時効期間は5年で資金を借りた場合の法定利息は6%です。一方、民法上では、消滅時効期間は10年で、法定利息は5%です。

したがって、契約をする人にとって、商法、民法どちらを採用するかで、利益は大きく異なります。契約金額が大きくなればなるほど影響は大きくなるのです。そして、契約当事者の一方にとって商行為なら、契約当事者双方に商法が適用されることになっていますから、商行為の概念をしっかり知っておくことは大切ですね。

なお、当事者双方にとって商行為である行為を双方的商行為、一方にとってだけ商行為である行為を一方的商行為と言います。

  ここから、今日の本題に入ります。

  商行為と商人の概念には、次の2つの解釈が存在します。

①商事法主義

②商人法主義

  ①の商事法主義とは、商行為とは何かを明確にして、商行為を行った人を商人とする考え方で、②の商人法主義とは、商人とは何かを明確にしてから、商人の行った行為を商行為とする考え方です。そして、日本の商法の考え方は、商事法主義と原則として、足りない部分では商人法主義を採るという折衷主義が採用されています。

商法145-1

  商行為は、その行為の性質や態様に注目して

①絶対的商行為

②営業的商行為

③附属的商行為――に分けることができます。

  ①の絶対的商行為とは、行為自体の客観的性質によって商行為とされる行為のことです。
例えば、

a高く売るために安く買う行為や、そのようにして購入した物や有価証券を売る行為(1号)

bまず高く売っておいて、後に安く買い入れる行為(2号)

c証券取引所・商品取引所で行われる有価証券・商品の取引(3号)

d手形の振出し・裏書・引受け・保証等の証券上の行為(4号)

――で、商人でない人の1回限りの行為であっても、商行為として商法の適用を受けることになります。

  ②の営業的商行為とは、営業として反復継続して行うことによって初めて商行為となる行為のことです。絶対的商行為のように行為そのものの性質上当然に商行為とされるものではありません。営業的商行為として下表の13の行為が定められています。

商法145-2

  商法では、①②合わせて17の商行為を基本的商行為と規定しました。ここまでが、商事法主義による考え方です。

  ③の附属的商行為とは、商人がその営業のためにする補助的行為のことです。ここからは商人法主義の考え方です。
商人が、基本的商行為を始めるためにする準備行為(開業準備行為)も商人の附属的商行為の最初となります。また、直接、営業のためにする行為でなくでも、営業に関連して営業の維持便宜を図るためにする行為も含みます。

例えば、運送業者がトラックを購入する行為は、運送取引でないので直接の営業行為ではありませんが、附属的商行為として商法が適用されます。つまり、商人の行為は常に営業のために行うとは限りませんが、商人が行う行為は、その営業のためにするものと推定されるのです。

  次に、商人の概念を解説します。

  自分が名義人となって商行為をすることを業としている人を、本来の商人という意味で固有の商人と呼びます。ここでいう商行為は基本的商行為のことです。業とするとは、営利目的で計画的・反復的・継続的に行うことを意味します。行為自体は1回しかしていなくても、計画的にしたと見なされれば商行為に当たります。つまり、固有の商人とは、自己が名義人となって基本的商行為を営利目的のもとで反復継続する者と言えます。ここまでは、商事法主義の範疇です。

  これから先は商人法主義です。まず、擬制商人についてお話しします。

擬制商人は、17個の基本的商行為を行うことを目的としていませんが、経営方式や企業の形態から商人と見なされる者のことで、

①店舗営業者

②鉱業営業者――の2つの種類があります。

  ①の店舗営業者は設備商人とも呼ばれ、店舗で販売する物は、農業・林業・漁業などで得た物ですが、いわゆる行商は含みません。
例えば、農業生産者が自作の野菜を持ち歩いて売るときは商人とはなりませんが、農道沿いに店舗を設けて販売するときは、擬制商人となることが注意点です。

  ②の鉱業営業者については、基本的商行為の17個に原始生産者が入っていないけれど、鉱物を掘る場合は、通常大規模設備を伴うからです。

  商行為と商人の定義が分かったところで、次の図を見てください。

商法145-3

  Aさん、Bさん、Cさんの間の取引は、基本的商行為ですから、この3者の間では商法が適用になるところまでは理解できますね。では、この場合にBさんがAさんから商品を仕入れるに当たって資金が不足したので、Dさんからお金を借りたとします。Dさんが銀行でない場合はこの両者の取引は基本的商行為に当たらないため民法の消費貸借契約に当たるように思えます。

  しかし、AさんBさんCさんの間の商行為には商法が適用されているのに、BさんとDさんの消費貸借契約には民法が適用されるのでは、バランスを失うことになってしまいます。

  そこで、投機売買を行うことによって商人であるBさんが、その営業のために行った行為は附属的商行為として、商法が適用されます。つまり、BさんDさん間にも商法が適用されるのです。まず商人ありきです。

  この例で、日本の商法の考え方は、まず、基本的商行為を規定し、それを業としている者を商人とする商事法主義と原則として、足りない部分では商人法主義を採るという折衷主義を採用していることが理解していただけましたでしょうか?

  ここでもう一つ、いつの時点で商人と判断されるのかについてお話しします。法的に言うと、商人資格の取得時期のお話です。

  まず、会社の場合は簡単です。法人格を取得した時点、つまり、会社の設立登記が済んだ時点が商人資格の取得時期です。

  では、自然人の場合はどうなるのでしょう? 
商人とは自分が名義人となって商行為をすることを業とする人のことですから、基本的商行為を開始した時点で商人資格を取得すると考えられますね!

  しかし、基本的商行為を準備する開業準備行為も附属的商行為として成り立つわけですから、開業準備行為の開始をもって商人資格の取得というべきなのです。

  ここまでは、何ら問題ないのですが、何を開業準備行為と見るかについては争いがありました。現在では、下記の判例が基準となっています。

Xさんが、映画館開業の準備資金とする旨を告げて、Yさんから金銭を借りたという事案です。

開業準備行為が商行為となるには、それが客観的に見て開業準備行為と認められ得るものであることを要し、単に金銭を借り入れるような行為は、特段の事情がない限り、これを商行為とすることはできない。ただし、営業を開始する目的を持ってする単なる金銭の借り入れも、取引の相手方がその事情を知っている場合には、これを附属的商行為と認めるのが相当である。

  つまり、単なる借り入れは開業準備行為に当たらないが、相手方が開業準備のためと知っていれば例外として開業準備行為に当たる、ということです。したがって、この判例の場合、Yさんが知っていたわけですから、商法が適用されました。

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