第136回 行政事件訴訟法~取消訴訟の審理と判決

  取消訴訟の審理は、まず、前回の6つの要件の確認から始まります。今日は、行政訴訟事件の審理と判決について、①取消訴訟の審理手続き、②執行停止の制度、③判決の種類と効力――の順に解説します。

 

Ⅰ.取消訴訟の審理手続き

  取消訴訟が提起されると、まず裁判所は訴訟要件の有無について審理します。これを要件審理と言います。取消訴訟の要件に不備があることが判明した場合、訴えに対して補正を命じ、これに従わない場合は内容を審理することなく訴えを却下します。

  訴訟要件に問題がない、あるいは補正された場合は、本案の審理が開始されます。行政事件訴訟法は、審理について多くの規定がなされていないので、行政事件としての本質に反しない限り民事訴訟についての規定が準用されます。

  民事訴訟の審理に関する基本原理のうち、弁論主義は事案解明に関する原理として行政事件訴訟にも適用されます。しかし、取消訴訟では公益実現と関係する行政行為の適法性が審理の対象となるため、真実発見の必要性が高いのでいくつかの特則があります。

 特則としての大きなものは次の2つです。

①職権証拠調べ

②釈明処分

  まず、①の職権証拠調べは、必要に応じて裁判所の裁量で証拠の収集ができるとするものです(24条)。行政事件訴訟でも原則は当事者主義(弁論主義)が採用されます。しかし、当事者の主張する事実の証拠が不十分で裁判所が心証を形成できないときは、職権で証拠を調べることが許されているのです。ただし、判例によれば、当事者の提出した証拠だけで十分な心証が得られる場合は、必要ないので職権証拠調べはする必要がありません。

  また、行政不服申立てでは行政庁には職権探知(当事者が主張しない事実を取り上げること)が認められていましたが、行政事件訴訟では基本を民事訴訟としていることから、条文の定めがない扱いは認められないので、当事者が主張しない事実まで探査する職権探査は認められないとするのが判例です。

  同時に、当事者主義の建前をまったく無視することもできないので、裁判所による職権証拠調べの結果について、当事者の意見を聞くことが必要です。

  次に②の釈明処分として、行政庁に対して資料の提出を求めることもできます(23条2項)。資料とは裁決の記録や処分の理由を明らかにするためのものです。

  これから、少し応用編を扱います。

まず、相互に関連する訴訟が提起された場合、別々に審理することは当事者や裁判所は、審理の重複する負担を負うことになり、裁判の抵触も考えられるので、関連請求に係る訴えは取消訴訟と併合できます。

併合は主に4つの場合があります。

a請求の客観的併合

b共同訴訟

c第三者による請求の追加的併合

d原告による請求の追加的併合

  aの請求の客観的併合とは、原告が取消訴訟の提起に当たり、関連請求に係る訴えを取消訴訟に併合することです(16条)。ただし、この場合の被告は取消訴訟の被告と同じ行政主体であることが必要です。

  bの共同訴訟とは、複数の原告が請求する場合または複数の原告に対して請求する場合、取消訴訟の関連の請求であるときは、併合して訴えを提起することが可能というものです(17条)。

  cの第三者による請求の追加的併合とは、第三者が取消訴訟の口頭弁論の終結に至るまでに、訴訟の当事者の一方を被告として、関連請求に係る訴えを取消訴訟に追加的に併合できることです(18条)。

  dの原告による請求の追加的併合とは、原告が取消訴訟の口頭弁論の終結に至るまでに関連請求に係る訴えを追加的に併合し提起することができることです(19条)。

  次に、訴えが変更される場合を見てみましょう。

裁判所は、取消訴訟の目的たる請求を当該処分、または裁決に係る事務の帰属する国または公共団体に対する損害賠償その他の請求に変更することが相当と認めるときは、請求の基礎に変更がない限り、口頭弁論の終結に至るまでに、原告の申立てにより、決定をもって訴えの変更を許すことができます(21条1項)。
この目的は訴訟の効果的運営と原告の負担軽減です。

  さらに、係属中の訴訟に当事者以外の第三者が自己の権利利益を擁護するために参加することができ、これを訴訟参加と言います。
裁判所は、訴訟の結果により権利を侵害される第三者があるときは、当事者またはその第三者の申立て、または職権で、決定をもって第三者を訴訟に参加させることができます(22条1項)。また、他の行政庁を訴訟に参加させることが必要と認めるときは、当事者もしくは行政庁の申立てまたは職権で、決定をもって、行政庁を訴訟に参加させることができます。(23条1項)。

 

Ⅱ.執行停止の制度

  行政事件訴訟でも、行政不服申立てと同じく審理の開始により処分が続行される場合もありますが、停止される場合もあります。
行政事件訴訟も執行停止されないのが原則ですので、一定の条件が満たされた場合にだけ執行停止制度があります。これは、行政不服申立てと同様に、濫訴を予防し、行政の円滑な運営を確保するためです。これらのことは25条1項に「処分の取消しの訴えの提起は、処分の効力、処分の執行又は手続きの続行を妨げない」と規定されています。また、行政庁の処分、その他公権力の行使に当たる行為は、民事保全法44条に規定する仮処分をすることもできません。

  そこで、代償措置として、処分の効力、執行、手続きの全部または一部を停止させる執行停止制度が設けられているのです。これは、執行不停止の原則の例外です。

  ポイントをまずお話しすると、執行停止ができるのは行政不服申立てにおける必要的執行停止と類似の要件を満たしている場合です。裁判所には行政権がないので、行政裁量は認められず行政活動への介入も最小限でと考えられているからです。

  また、同じ理由で、執行の一部または全部の停止しかできず、それ以外の処分もできないということも覚えておいてください。

  では、要件から見ていくことにしましょう。要件は25条に定められ、まとめると次のとおりです。

①原告、利害関係を有する第三者からの申立てがあること

②重大な損害を受けるために緊急の必要があること

③執行停止によって公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがないこと

④本案について理由がないと見えないこと

  まず、①の執行の停止には訴えの提起が必要です。民事保全のような提訴の前の執行停止制度はありません。そして、執行停止には申立てが必要です。つまり、行政不服申立てと異なり職権による執行停止はありません。

  執行停止の要件として重要なのが、②の処分等により生ずる重大な損害を避けるための緊急の必要があるということです。重大かつ緊急の場合には、処分の執行等により原状回復が不可能となり、勝訴の意味が失われるおそれが認められることに執行停止ができる理由があります。

ここでは、重大な損害=償うことのできない(回復困難な)損害と比較すると穏やかな要件であることに注意が必要です。

  重大かつ緊急の要件は、事案に照らして一体的に判断されます。
また、重大かつ緊急の要件をみたすかの判断に当たっては、

a損害の回復の困難の程度

b損害の性質・程度

c処分の内容・性質――を考慮するとされています。

  a~cの要件が整う場合とは、行政処分により取消訴訟を待っていれば事業再建の機会が失われる場合(損害回復の困難性が認められる)、代わりを求める時間的余裕がない場合、情報公開条例に基づく開示決定の取消しを求める場合(情報が公開されれば、回復されるべき利益が失われる)――などが挙げられます。

執行停止の申立ての前に執行が完了してしまえば、執行停止は認められません。停止をしても原告が救済されることが何にもないからです。

  以上の要件が整うことを申立人が立証できた場合には、原則として執行の停止ができます。ただし、次のように行政主体が主張し、それが明らかとなった場合は、執行停止ができません。これは、③④の要件に当たります。

  まず③の執行停止によって公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある場合は、執行停止はされません。執行を停止してしまうことで、行政行為が確保しようとしている利益が害され、処分が違法でなかった場合に取り返しがつかない結果となるからです。つまり、執行の停止により確保される利益以上の不利益の発生が予想される場合、執行停止はできないわけです。
この例として、集会やデモ行進の不許可、土地収用に対する執行停止の申立てなどが挙げられます。

  また、当然ですが、救済する必要がないので④本案について理由がないと見える場合も執行停止がなされません。

  次に執行停止の手続きについてお話しします。

執行停止は、原告、利害関係(申立人適格)を有する第三者からの申立てをきっかけに審理され、決定によって判断されます。申立人の主張を認める決定により処分の効力、処分の執行または手続きの続行の全部または一部が停止されます。

  また、執行停止には、

①効力の停止

②執行の停止

③手続きの続行の停止――があります。

  ①の効力の停止は処分がなかった状態の回復、②の執行の停止は強制手段によることの停止、③の手続きの続行の停止は後続処分の停止です。③→②→①の順に効力が強くなります。そして、法令では、他の手段によって目的が達成できる場合には、執行の停止ができないとしているので、③で目的が達成できれば②によることはできません。また、②で目的が達成できれば①によることはできないのです。

ということは、例えば農地の売渡しを受けた債権者には元所有者に対しての農地立ち入り禁止の仮処分の効力は残ります。

  決定に不服がある者は、高等裁判所への即時抗告ができます(25条7項)。即時抗告とは、一定の不変期間内(この場合1週間)にしなければならない抗告のことです。ただし、決定された執行は停止されません(25条8項)。執行停止の決定があった場合は、即時抗告だからといって停止を免れることはできないわけです。

  また、執行停止の後も執行停止の理由が消滅するなど事情が変更した場合には、裁判所は行政庁の申立てにより執行停止の決定を取消すことができます(26条1項)。停止により確保すべき利益が失われた場合には公益の確保を優先するために柔軟な対応ができる仕組みになっています。

  裁判所による執行の停止ができない場合に、内閣総理大臣の異議の制度があります(27条)。異議が申し述べられた場合、裁判所は執行停止をすることができず、または執行停止の決定を取消さなければなりません。

裁判所は行政権の枠外ですから、行政上の利益の確保について十分な判断ができない可能性があるので、行政判断の適正が害され、公共の福祉が失われるのを防ぐことが目的です。異議は、執行停止決定の前後を問わず述べることができます(27条1項)。

しかし、異議の制度にも制限があります。異議を述べるのはやむを得ない場合に限ります。また、その際には執行の停止が公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるという事情を示す(理由を付す)必要があります。恣意的な制度の運用を防ぎ、慎重に異議するかどうかを判断させる趣旨です。

さらに、異議を述べた場合は、内閣総理大臣は次の通常国会において国会に報告する必要があります。民主的コントロールを通じて、行政権の濫用を防ぐ趣旨です。

  この内閣総理大臣の異議の制度は、行政不服申立てにはない、行政事件訴訟特有の制度です。

行政法136-1

Ⅲ.判決の種類と効力

  審理が終結すると判決が下されます。訴訟手続は民事訴訟と同様に、取下げ、放棄・認諾、和解によっても終了しますが、ここでは、判決による終了についてお話しします。

  まず、判決の種類は3つ、①却下、②棄却、③認容――です。

  ①の却下は、必要な要件が整わない場合に、本来の審理を拒絶する判決です。原告の請求が認められたわけではありませんが、棄却とは異なり、処分が適法と判断されたわけでもありません。

  次に②の棄却の判決は、請求に理由がないとするものです。この場合、原則として、処分の効力は維持され、かつ処分が適法であることが確定します。しかし、処分の効力が維持されるものの処分は違法であると確定する場合もあります。これが、事情判決で、行政不服申立てでも取り上げました。

いったん行政行為がなされると、これを基礎に現状が変更されることがありますが、引き続き新たな事実的・法律的秩序が形成されることになります。
例えば、土地改良事業が施行されたり、土地の区画整理計画が策定され、実施されて、現状が変更される場合です。この場合に、行政行為を取消して元の状況に回復すすることは大変な手間と費用がかかり、また合理的な土地利用ができる状況を元に戻してしまうことは現実的ではないので、処分が適法でないと確定されても、効力は維持されます。

このとき、処分(または裁決)が違法であることを宣言しなければならないものとされています(31条)。この宣言により、後に原告が国家賠償請求による救済を求めた場合に、請求が認められやすくなることが期待できます。

  また、裁判所は相当と認めるとき、最終的な判決前に判決をもって処分が違法であると宣言することができます(31条2項)。これは、中間違法宣言判決と言い、違法であるという判断が終局判決で変更されることはありません。そこで、この宣言によって行政庁が違法であることを覚悟して、損害賠償など原告に対する救済手段を採ることを促進する効果を狙ったものです。また、あえて、中間違法宣言をするということは、事情判決になる可能性判断をさせることにつながるとも考えられます。つまり、両者に和解を促すことにもなるのです。

  さて、③の認容の判決です。取消訴訟の場合は、取消判決、つまり全部または一部を認容したら、これに応じて処分または裁決の全部または一部を取消す判決をすることになります。この場合、判決の直後の意味としては、行政庁の行為が違法であり、処分の効力を否定するというものにすぎません。関係行政庁に一定の処分または裁決をすべきという意味はありませんし、その旨の給付判決をすることもできません。

  しかし、取消訴訟は関係行政庁を拘束する効力が発生するので、関係行政庁は判決の趣旨に沿った措置を採る必要があります(33条1項、2項、3項)。つまり、改めて取消判決の趣旨に従った処分や裁決をしなければならないということです。

  認容の判断が下されるのには、当然処分が違法との判断がなされる必要があるのですが、行政処分から判決までの間に法令が制定・改廃や事実状態が変動する場合、裁判所の違法判断は、いつの時点で行うのでしょうか? 
例えば、建築確認の拒否がなされた時点では拒否に理由がなかったけれど、その後法改正がされたり、建物を建てようとする地区が建築制限の指定を受けたりして、建築確認を拒否すべき状況になることがあります。この場合に拒否の時点を基準にするのか、判決の時点を基準にするのかは、大きな問題点です。

判例によれば、基準の時点は、処分当時の法令・事実を前提とするとしています。これは、取消訴訟は行政処分の事後審査で、行政行為が行われた時点で違法か適法かを審査する制度だからです。

  ところで、判決が下され確定すると、行政事件訴訟の目的を達成すべく、次のような様々な効力が発生します。

①既判力

②形成力

③拘束力

  ①の既判力とは、当事者は判決の内容と矛盾する主張はできず、裁判所も矛盾する裁判ができなくなるという効力です。

取消訴訟の場合、裁判所の判断対象である訴訟物は処分の違法性一般とされていることに対応する効力です。この結果、取消判決がなされた場合、被告行政庁は、次のステップである国家賠償請求訴訟でも当該処分が適法である旨の主張・判断はできなくなります。

一方、棄却判決の場合は、当該処分が適法であると確定するので、原告が後の国家賠償請求訴訟等で処分の違法性を主張することはできなくなります。

しかし、この場合にも、行政庁が棄却判決の対象となった処分を撤回することは許されます。行政庁が処分を不当と考えた場合や、後の事情の変更で処分の効力を否定するのが適当だと判断できるなら、公益の確保と国民の利益救済のいずれの観点からも効力を維持する必要がないからです。

  次に②の形成力です。特に取消判決が確定した場合には、当該処分の効力は当初から失われることになります。また、形成力の特徴は、第三者にも効力が及ぶことです(32条1項)。

この結果、例えば農地の買収の取消しは、農地の転得者にも及びます。そのため、売渡しを受けた人は、農地返還義務を負うことになります。このような場合に第三者に利益確保の機会を与えるために第三者には訴訟参加の機会が与えられています(22条1項)。また、判決効を否定するため、再審の訴えの提起も許されています(34条)。

  そして、もう一つ、取消判決に与えられる重要な効力に③拘束力があります。これは、取消判決の趣旨に行政庁は従って行動することが義務付けられるという効力です(33条)。

取消判決は、処分の違法性を確認しつつ、処分の効力を否定する意味がありますが、処分の効力が否定された場合に、改めてまったく同じ処分が繰り返されたらどうなるでしょうか? いつまでたってもキリがない、言い換えればいつまでたっても原告の救済ができません。その救済が必要というのが取消訴訟の趣旨であったはずなので、訴訟の実効性を確保するために、拘束力が認められているのです。

この結果、行政庁は、同一人に対して同一の処分をすることができません(反復禁止効)。

  また、行政庁には、判決の趣旨に従い、改めて措置をとるべき義務が発生することがあります。
例えば、申請の却下・棄却や、審査請求の却下・棄却をしたところ、これらが取消された場合、処分や裁決をやり直す必要が出てきます。このときは、判断がまだなされていない状態になります。このことは、私人が改めて申請や審査請求をしなくても、行政庁は処分や裁決をしなければならないということです。この場合には、反復禁止効も働くので、行政庁は同じ理由で申請や審査請求の却下・棄却はできません。

  さらに、違法状態を除去する義務も発生します。例えば、租税賦課処分が取消された場合、後行処分である滞納処分も取消す義務が発生します。

行政法136-2

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