第135回 行政事件訴訟法~取消訴訟の機能と要件

  行政事件訴訟の概要と類型を前回にお話ししましたが、今回からは、一つひとつの類型を見ていくことにします。

  今日は、行政事件訴訟の中心である取消訴訟について、①取消訴訟の機能と他の行政争訟の手続きとの関係、②取消訴訟の要件――について解説します。

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Ⅰ.取消訴訟の機能と他の行政争訟手続きとの関係

  主観訴訟の一つである抗告訴訟、さらにその一つであるの取消訴訟は他の抗告訴訟と同様に、国民の権利の救済だけでなく、法治国家原理の担保という機能を有しています。

また、取消訴訟の機能をさらに細かく、

①原状回復

②適法性維持

③第三者との関係も含めて法律関係を合一にすること

④違法な行政活動の差止め

⑤行政庁に再度の考慮を促すこと

⑥処分の反復を防止すること――などと分類することも可能です。
しかし、これらは、国民の権利の救済と法治国家原理の担保に集約できると言えます。

  ここで、取消訴訟と不服申立ての関係をもう一度整理しておきます。すでに説明したのが、自由選択主義です。審査請求できる場合でも処分の取消しの訴えが提起できるのでしたね(8条1項)。
例外は、不服申立前置主義で、法律に不服申立ての先行を要求する定めがある場合でした(8条1項但し書)。

  それを踏まえたうえで問題となるのが、取消訴訟と審査請求の競合した場合です。実は法律上、同一の処分について取消訴訟と審査請求とは独立しているので、いずれでも選べるだけでなく、いずれも共にすることも可能です。しかし、双方同時になされたときは、審査請求の裁決があるまで裁判所は訴訟を中止することができます(8条3項)。それは、裁判所と審査庁の審理が並行して行われるのは無駄であるだけでなく、まずは、専門知識がある行政庁による迅速な解決が望ましいと言えるからです。

  また、訴訟の中止中に取消しの裁決があったときは、審理をする意味がなく訴えの利益がなくなるので、訴えは却下となります。

  これに対して、審査請求の裁決の前に裁判所による取消しの判決が確定した場合には、取消判決の形成力によって処分の効力がなくなります。この場合、関係行政庁は判決に拘束され、判決に対応する措置を採らなければならなくなります(32条1項、33条1項)。

  ところで、取消訴訟は、

①処分の取消しの訴え

②裁決の取消しの訴え――に分類することができます。

  ①の処分の取消しの訴えとは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為の取消しを求める訴訟のことです(3条2項)。

一方、②裁決の取消しの訴えとは、審査請求・異議申立てその他の不服申立てに対する行政庁の裁決・決定その他の行為の取消しを求める訴訟を言います(3条3項)。

裁決・決定などの取消しの訴えでは原処分主義がとられ、裁決の取消しの訴えでは、処分の違法を理由として取消しを求めることができません(10条2項)。

  仮に、処分の取消しの訴えと裁決の取消しの訴えとが別々に並行して提起され、いずれの訴えにおいても処分の違法について審理された場合は、いずれを先に審理するか、裁決が違法となったら処分の効力がどうなるか――などの問題が生じて混乱するおそれがあります。

そこで、裁決の取消しの訴えでは、裁決の手続きに違法があったなどの裁決固有の違法のみを主張できることとし、処分に関する違法の主張は処分の取消しの訴えで集中させるのが原処分主義です。

なお、特別な法の定めがある場合には、例外として裁決に対してのみ出訴が認められる裁決主義がとられることがあります。
例えば、弁護士から弁護士への懲戒に関する弁護士法61条2項や、特許庁の審判に関する特許法178条6項などがその例で、裁決に実質的な最終処分の性質があるというのがその趣旨です。

  仮に、このようなルールを知らないで、処分の違法を主張する際に裁決の取消訴訟を起こしてしまった場合、この訴えに処分の取消しの訴えを合わせてすることに、16条2項の被告の同意はいりません。しかも、処分の取消しの訴えも裁決の取消しの訴えを提起したときに提起したものと見なされます(20条)。つまり、誤って裁決の取消しの訴えを起こした人も救済される――というわけです。

 

Ⅱ.取消訴訟の要件

  取消訴訟における要件=訴訟要件は、訴えが適法であるために必要な条件です。これを欠く訴えは不適法なものとして却下されます。

  訴訟要件には、まず特別の法律の定めがあるときは審査請求の前置が求められますが、それ以外の一般的な要件は次の6つです。

①処分性

②原告適格

③訴えの客観的利益(狭義の訴えの利益)

④被告適格

⑤出訴期間

⑥裁判所の管轄に属することなど
 

1.処分性(取消訴訟の対象)

  ①の処分性とは、取消しの対象になる行政活動に処分性が認められること、つまり、取消しの対象は、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に限るということです。具体的には、許可、認可、下命、禁止――などがこれに当たります。

  一方、行政行為の中でも公証や通知は、必ずしも新たな権利変動を発生させるものではないので処分性が認められるとは限らないとされています。しかし、判例では、通知のうち、これに引き続き確実に処分がなされる代執行の戒告などについては、通知の時点で争わせる必要性が高いこととも併せて処分性を認めています。

  行政行為のうちでも通達などの行政の内部行為、行政指導などの非権力的な事実行為については原則として処分性は否定されます。

しかし、判例は例外を認めています。通達では、その通達が

①国民の権利利益に重大なかかわりを持ち、その影響が外部に及んで国民の権利義務に変動をきたすこと
②通達を争わせなければ権利救済がまっとうできないこと――などの条件が整う場合には処分性を肯定できるとしています。

また、行政指導についても、指導に従わない場合、相当程度の確実性をもって国民に重大な不利益がおよぶおそれがある場合には、例外的に処分性を認め、取消訴訟の対象としています。

  事実行為や行政計画の処分性についても意見が分かれるところです。判例を見てみると、処分性については国民の権利義務を一方的に形成ないし確認する法律効果を伴うものか(=権力性)、その行為が当事者の権利義務を最終的に決定する終局段階のものと言えるか(=成熟性)という2点から、総合的に判断していると言えます。しかし、国民が一方的に実質的不利益を受け、しかもその行為の取消しのほかに適切な救済手段がない場合には、処分性を緩和したり、弾力的に運用し、処分性を肯定する傾向にあると言えます。

  判例においての処分性の有無の判断を下表にまとめましたので、参考にしてください。

行政法135-1

 

2.原告適格

 

  次に、取消訴訟を提訴するにも取消しの対象となる処分との関係で、提訴する資格が必要です。これを②原告適格と言います。
具体的には、法律上の利益がある者のみが提訴できます(9条1項)。つまり、取消訴訟は救済の必要がある本人しか提訴できないということです。

  ところで、原告に法律上の利益が認められるかどうかは、どう判断するのでしょうか? 
判例は、法律上の利益とは法律上保護された利益、すなわち当該行政処分の根拠となる法規が保護した一定の私人の利益のこととしています。
言い換えると、処分の根拠になる法律が確保しようとしている利益の中に、原告が害されたと主張する利益が含まれていれば、原告に法律上の利益が認められるということです。ここで、処分の根拠になる法律は、公共の利益を確保するために行政に権限を与えると同時に、国民の利益を守るため行政行為を規制するものだったことを思い出してください。

  このように法律上の利益が原告に認められるかどうかは、法律を基準として判断できるので明確であると言えます。しかし、反面、原告適格が認められる範囲が法律によって限定されるということは、立法の不備により、救済の必要がある場合に取消訴訟の対象から外れてしまうおそれも出てきます。

  そこで、2004年の行政事件訴訟法の改正では、9条2項に法律上の利益の解釈規定を置くことで、原告適格の実質的拡大が図られました。そこには、処分または裁決の相手方以外の者、つまり第三者が法律上の利益を有するかどうかについて規定しています。ポイントは4つ、以下のとおりです。

①当該法令の趣旨及び目的

②当該処分において考慮されるべき利益の内容および性質

③当該法令と目的を共通にする関係法令の趣旨及び目的

④当該処分または裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容および性質ならびにこれが害される態様および程度

  ①の当該法令の趣旨及び目的、②の当該処分において考慮されるべき利益の内容および性質――が考慮されるのは、裁判所が処分または裁決の根拠となる法規の文言を重視した形式的判断を行うことにより、原告適格が狭められることを防ぐものです。

  ③の当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨および目的も参酌されるのは、根拠法令の文言のみに着目した解釈をすると、法令関係の趣旨目的が勘案されず、原告適格が狭く解釈されるからです。

  ④についても、原告適格を広く解釈するためです。

具体例は、判例をまとめた下表で確認してください。

☆原告適格を肯定した判例

行政法135-2

☆原告適格を否定した判例

行政法135-3

3.狭義の訴えの利益

  狭義の訴えの利益とは、訴訟を維持する客観的事情・実益のことです。前述の処分性や原告適格とも存否の判断が難しいものでしたが、狭義の訴えの利益についても判断が難しいと言えます。

  訴訟は当事者に現実的な救済を与えることを目的として、判決により侵害されていた権利や地位が回復されるものでなければ、訴えの利益を欠き却下判決が下されるのが原則です。ただし、原状回復が社会通念上不可能=訴えの利益がなくなるというわけではありません。

訴えの利益がない例としては、すでに行政庁が取消した処分、例えば、課税の減額再更正などは納税者に不利益がないので訴えの利益がないと言えます。

  また、訴えの開始時において訴えの利益が認められていたのに、事情判決により後から訴えの利益が消滅することも問題となります。

  これらの判例については、下表にまとめましたので個々によく確認してください。

行政法135-4

4.被告適格

  原則として、処分の取消しの訴えは処分をした行政庁の所属する国または公共団体を、裁決の取消しの訴えは裁決をした行政庁の所属する国または公共団体を被告として提起しなければなりません(11条1項各号)。その理由は、私人がどの行政庁を被告とすべきか調べたり、誤った行政庁を相手として提訴しやり直している間に、出訴期間が過ぎてしまうのを防ぐためです。

  また、処分や裁決をした行政庁がいずれの行政主体にも所属しない場合(たとえば弁護士会など)には、当該行政庁を被告として提訴します(11条2項)。さらに、被告とすべき行政主体または行政庁がない場合は、当該処分または裁決に係る事務の帰属する行政主体を被告として提訴します(11条3項)。
 

5.出訴期間

  訴えが適法であるというためには、出訴期間が遵守されることも必要です。処分や裁決の効力を長時間未確定にしておくのは不当であるとして、一定の期間を経過した行政行為には不可争力が与えられていることに対応した要件です。

  具体的には、処分または裁決があったことを知った日から6カ月(14条1項)、処分または裁決の日から1年(同条2項)を経過しないことが原則ですが、正当な理由があるときはこの限りではありません。正当な理由がある場合とは、災害、病気・けが、教示が誤った場合――などが考えられます。

  また、審査請求など行政不服申立てを経た時の出訴期間は、裁決・決定があったことを知った日または裁決・決定があった日から起算されます(14条3項)。審査請求のため行政事件訴訟の出訴期間が経過し、司法的救済が受けられなくなることを防ぐためです。

 

6.裁判管轄

  出訴は、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所または処分等をした行政庁の所在地を管轄する地方裁判所にします(12条1項)。原則として、事物管轄は第一審は地方裁判所が、土地管轄は被告行政庁の所在地にある裁判所に行います。

  ただし、特則があります。
原告の出訴を容易にし、証拠調べ等の便宜を図ることを狙い、不動産または特定の場所に係る処分または裁決に係る処分は、不動産または場所の裁判所に管轄が認められます。

  また、取消訴訟については、事案の処理に当たった下級行政機関の所在地の裁判所にも管轄が認められます。

  そして、国を被告とする取消訴訟は、原告所在地を管轄する高等裁判所所在地の地方裁判所にも管轄が認められます。これは、国を被告とする取消訴訟は、上記の原則によるとどうしても東京地裁が管轄になることが多くなるので、地方在住者による提訴の便宜を図るためです。

行政法135-5

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