第133回 行政不服審査法~執行停止制度と教示制度

  前回、行政不服申立ての審理手続きなどを勉強しましたが、ある処分が不服申立ての対象になった場合、その処分はそのまま執行されるのでしょうか? 

例えば、建物撤去の処分が違法であると審理中に、建物の強制取り壊しが進んでしまったのでは、判断がなされたころには、建物はとっくに撤去済みということが考えられます。これでは、処分の効力を争った意味がないばかりか、不服申立てされたから急いで撤去してしまうということにもつながりかねません。

  そこで、今回は、そのあたりをしっかり確認したいと考えています。まず、①執行停止制度、②裁決・決定の種類、③教示制度――と解説します。

 

Ⅰ.執行停止制度

  さて、先ほどの建物撤去の話に戻ります。先ほどの例を見ると、不服申立てがあった場合、処分の執行が停止されるだろう……と思われた方が多いと思うのですが、皆さんはどうでしたか?

  実は、行政不服審査法では、執行は停止されないのが原則なのです。第34条に次のように規定されています。

第34条(執行停止)
審査請求は、処分の効力、処分の執行又は手続きの続行を妨げない。

  条文のとおり、審査請求を含め、行政不服申立てをしたとしても、処分はそのまま執行されることになります。これを執行不停止の原則と言います。
不服申立てを提起することで常に執行が停止されるとなると、理由がなくても取りあえず不服申立てをすれば、時間稼ぎができると考えて、行政活動を妨害する手段とするなどの不服申立ての濫用が頻発するおそれがあります。そこで、行政の円滑な運営と公益を確保するためには、執行不停止の原則が必要と言えるのです。

  ただし、先ほどの例のように、執行が常に停止しないとすると困ったことになることもあります。そこで、必要に応じて条件を満たした場合には、例外的に執行の停止を認めることになっています。

  では、審査請求における執行停止が認められる場合を見ていきましょう。

  まず、①審査庁が上級行政庁の場合です。上級行政庁である審査庁は、必要があると認めるとき、審査請求人の申立てまたは職権で執行停止を行うことができます(34条2項)。

この場合の執行停止とは、処分の効力の停止、処分の執行の停止または手続きの続行の全部または一部の停止その他の措置を指します。そして、その他の措置とは、免許の取消しの執行を停止する代わりに、営業停止処分をする――などがその例で、公共の福祉を実現し、同時に権利救済の要請も満たすような柔軟な措置を採ることが可能になっているのです。
その他の措置は審査庁が行政庁である行政不服審査ならではの措置で、行政事件訴訟では認められていません。

  次に、②審査庁が上級行政庁以外の行政庁の場合です。この場合は必要があると求める場合には、審査請求人の申立てにより処分庁の意見を聴取したうえで、執行停止をすることができます(34条3項)。もっとも、処分の効力、処分の執行または手続きの続行の全部または一部の停止以外の措置を採ることはできません。

行政法133-1

  上記以外に、行政庁に執行停止が義務付けられている必要的執行停止が存在します。

  まず、積極的要件としては、審査請求人の申立てがあった場合に、処分や処分の執行または手続きの続行により重大な損害を避けるために緊急の必要がある場合には、審査庁に、原則として執行停止をする義務が発生します(34条4項)。

  執行停止をする義務を負う場合の損害の重大性の判断には、損害の回復の困難さの程度が考慮されます(34条5項)。

  一方、消極的要件である

①公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき

②処分の執行もしくは手続の続行ができなくなるおそれがあるとき

③本案について理由がないと見えるとき――は、執行停止をする義務は生じません(34条4項但し書)。

しかし、執行停止義務が生じないだけであり、執行停止をしてはならないというわけではありません。

  また、いったん執行が停止されても、執行の停止が取り消されることもあります。執行の停止により公共の福祉に重大な影響が生じるとか、または、処分の執行・手続の続行が不可能になることが明らかであるとか、その他事情が変更したときとされています(35条)。

  義務的執行停止の場合の例外で執行停止の義務が発生しない場合と条件が一部共通しますので、注意してください。

  最後に審査請求人が死亡した場合の地位の承継と、特定の権利が譲渡された場合の地位の承継についてお話ししましょう。

  まず、自然人である審査請求人が死亡した場合、原則として相続人が審査請求人の地位を包括継承します。また、審査請求人たる法人等に合併があった場合、合併後存続したり、合併により設立された法人等が審査請求人の地位を包括承継します。
審査請求の目的である処分にかかる権利の承継について分割があったときは、当然ですが、審査請求の目的である処分にかかる権利を承継した法人等が、審査請求の地位を継承します。

  また、特定の権利が譲渡された場合、譲渡人は審査請求に関心がなくなるのに対し、譲受人は審査請求手続きに参加人として参加するしかないとなると、手続き保障に欠ける状態に置かれます。そこで、審査請求の目的である処分にかかる権利の譲受人は、審査庁の許可を得て審査請求人の地位を特定承継することができます(37条6項)。

  特定承継の場合に、審査庁の許可が必要なのは、承継関係に争いが生じる可能性があるので、許可を通じて明確にするためです。これに対して包括承継の場合、原則として審査請求人としての権利義務も承継するので、審査庁の許可は不要です。

 

Ⅱ.裁決・決定の種類

1.処分についての措置

  行政不服申立ては、不服申立人が申立てを取下げたり(39条、48条、52条、56条)、行政庁の裁決・決定により終了します。審査請求および再審査請求に対する行政庁の判断を裁決と言い(40条、55条)、異議申立てに対する行政庁の判断を決定と言います(47条)。

  裁決・決定には、

①認容

②却下

③棄却――の3種類があります。

  まず、①認容とは、処分に対する不服申立てに理由がある場合で、さらに

a取消決定・裁決

b撤廃決定・裁決

c変更決定・裁決――の3種類があります。

  aの取消決定・裁決は、事実行為を除く処分の全部または一部の効果を失わせます(40条3項、56条、47条の3項)。

  bの撤廃決定・裁決は、事実行為についての不服申立てに理由があるときで、審査請求または再審査請求の場合は、審査庁・再審査庁が処分庁に撤廃を命じて裁決でその旨を宣言し(40条4項、56条)、異議申立ての場合は、処分庁自ら撤廃し、決定でその旨を宣言するものです(47条4項)。

  cの変更決定・裁決は、事実行為であるかどうかに関わらず、処分庁が変更することです(40条5項、56条、47条3項・4項)。処分庁が変更するものですが、審査庁や再審査庁が処分庁の上級行政庁であれば、指揮監督権を有しているので裁決で当該処分を変更したり、処分庁に対して当該事実行為を変更すべきと命ずるとともに裁決でその旨を宣言することも可能です(40条5項、56条)。

しかし、不服申立制度が救済手段であることから、不服申立人の不利益に変更することはできません。これを不利益変更禁止の原則と言います。

  次に②の却下とは、不服申立てが不適法な場合に、本案審理に入ることなくこれを排斥する裁決・決定を言います(40条1項、56条、47条1項、50条1項、51条1項)。

  また、③棄却とは、本案審理を行った結果、不服申立てに理由がないとして、不服申立てを排斥する裁決・決定を言います。特殊なものとして、処分が違法または不当ではあるものの、これを取消しまたは撤廃することで公の利益に著しい障害を生ずる場合に、不服申立てが棄却されることがあります。これを事実裁決・事実決定と言い、処分庁は当該処分が違法または不当であることを宣言しなければなりませんが、処分の効力は維持されます(40条6項、48条、56条)。
 

2.不作為に対する措置

  今まで処分に対する不服申立ての裁決・決定を見てきましたが、不作為に対する裁決・決定が認容された場合には、また異なったルールが妥当します。

まず、異議申立ての場合、不作為庁は異議申立てのあった日の翌日から20日以内に、申請に対する何らかの行為をするか、異議申立人に対して書面で不作為の理由を示さなければなりません(50条2項)。

また、審査請求の場合で審査庁が審査請求を却下しない場合は、審査庁は不作為についての審査請求に理由がなければ裁決で棄却し(51条2項)、理由があるときは当該不作為庁に対して速やかに申請に対する何らかの行為をすべきことを命ずるとともに裁決でその旨を宣言します(51条3項)。
 

3.裁決・決定の方法

  裁決・決定は書面で行い、そう判断した理由を付記し、審査庁(処分庁が行った場合には処分庁)が記名押印しなければなりません(41条1項、48条、52条、56条)。さらに、審査庁が再審査請求をすることができる裁決をする場合には、裁決書に再審査請求ができることや再審査庁・再審査請求期間を記載して、教示しなければなりません(41条2項)(教示については次回解説します)。

  裁決・決定の効力は、不服申立人に送達することで発生します(42条1項、48条、52条、56条)。裁決書の謄本の送付ができないときは、公示送達の方法が採られます。

  また、裁決・決定の持つ効力は、裁決・決定が行政行為の一種であり、無効と認められる場合を除き、一般の行政行為と同様、①公定力、②自力執行力、③不可争力――などを有するとともに、争訟の裁断行為の特性としての下記のような効力もあります。

行政法133-2

 

Ⅲ.教示制度 

  教示とは、処分庁が処分の相手に対して、不服申立てに関する事項を教え示す制度のことで、

①必要的教示(57条1項)

②請求による教示(57条2項)――の2つがあります。

  ①の必要的教示とは、書面で教示する義務が発生する場合です。この義務は、処分を書面でして、かつその処分が不服申立てをすることができるものであるときに発生します。つまり、不服申立てができない処分をするときは、教示の必要がないことになります。

  原則的な教示事項は以下の3つです(57条1項)。

a不服申立てができる旨

b不服申立てをすべき行政庁

c不服申立てをすることができる期間

  次に、②請求による教示です。必要的教示が必要ない処分であっても、利害関係人から教示を求められたときは、行政庁には、求められた事項を教示する義務が発生します。

求められ得る事項とは、

a不服申立ての可否

b申立てが可能な場合不服申立てをすべき行政庁

c期間――の3つです。

また、この場合に教示を求めたものが書面による教示を求めれば、書面による教示が必要です(57条2項、3項)。

  ただし、地方公共団体その他の公共団体に対する処分については、いずれの教示も必要ありません(57条4項)。その理由は、教示制度は広く国民に不服申立てさせる制度ですし、教示の可否、相手、期間は公務を担当する者として、地方公共団体などなら当然知っているか、知らなくても調べられるからです。

  ところで、教示をしたものの間違った教示がされる場合もあり得ます。教示された期間内に不服申立ての手続きをとったのに、教示が間違っていて不服申立期間が過ぎてしまっていたという場合です。この場合に、「残念でした。もう遅いです」では、ひどすぎますよね! そこで、そのような場合などには、救済する措置があります。

  まず、①処分庁が57条の規定による教示をしなかったときは、当該処分について不服がある者は、当該処分庁に不服申立書を提出することができます(58条1項)。不服をどこへ持っていけば分からなかったら処分庁へということです。

  そして、その処分が異議申立てなど処分庁が不服を受け付けるべきものであった場合は、不服申立書が提出されたときに異議申立てなどがあったこととなります。処分が審査請求できるときは、処分庁は速やかに当該不服申立書の正本を審査庁に送付しなければなりません(58条3項)。その上で、不服申立書の提出の時から、当該審査庁に審査請求がされたものと見なされます。

  次に②の誤った教示がされた場合についてお話しします。

  まず、a不服申立てができない処分について不服申立てができると教示をした場合をお話しします。さすがに、不服申立てが可能になるというわけにはいきませんが、教示を信頼した人が不服申立ての手続きを踏んだために出訴期間を経過して、取消訴訟出訴の途が閉ざされることのないよう、当該処分に関する取消訴訟の出訴期間が、原則として却下裁決があったことを知った日から6カ月以内または当該裁決の日から1年以内に提起しなければならないこととされています。この法的根拠は行政事件訴訟法なので注意してください。

  次に、b不服申立ての相手として誤った行政庁を教示した場合で、教示された行政庁は速やかに審査請求書の正本および副本を権限を有する処分庁または審査庁に送付して、その旨を不服申立人に通知します。これで、正しい審査庁で不服の審査がされますが、この場合権限がある行政庁に初めから不服申立てされたものと見なされます。その理由は、権限がある行政庁に送付するなどの手続きをしているうちに、審査請求できる期間が過ぎてしまうのを防ぐためです。

  上記のように誤った教示がされた場合には、なるべく不服を申し出た者に不利益がないように配慮されたものです。

  さらに、c不服申立期間を誤って長く教示した場合には、教示された期間内に不服申立てすれば、法定期間内になされたものと見なされます(19条、48条)。

  また、d処分庁が異議申立てが可能なことを教示しなかった場合は、直ちに審査請求できることになっています(20条但し書)。この2つは、誤った内容を正しいことにするということです。

  3回にわたって解説してきた行政不服審査法ですが、それらをまとめて一覧にしましたので、覚える参考にしてください。

 行政法133-3

行政法133-4

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