第130回 行政救済の全体像

  前回までの講義では、国民の権利利益の侵害を防ぎ、逆にその利益を増進するために、行政が守らねばならないルールや、手続きについてどんなものがあるかを見てきました。しかし、行政が必ずこのルールを守るとは限りません。ルールが守られないとなると、国民に被害が出たり、そのおそれが出てくることが考えられます。

  今回からは、そういった場合に行政による救済処置として、適法な状態を回復するための方法を学んでいきます。行政救済法第1回目は、①行政救済の必要性、②行政救済の手段――と、行政救済法の総論的なものを勉強していきます。

 

Ⅰ.行政救済の必要性

  突然ですが、行政救済が必要な場合ってどんな時と思いますか? 
例えば、ある飲食店に対して違法に営業停止処分がなされたらどうでしょう? 
営業ができなければ利益を上げることができず、業者にとっては死活問題です。そんな場合、営業停止処分を取消すことで、営業できる状態を回復することが行政救済に当たります。

  また、適法な状態が回復されても、これ以上被害が拡大しないというだけで、すでに国民に与えた損害が回復しない場合が多くあります。
例えば、飲食店への営業停止処分を取消すだけだと、営業停止中に得られたはずの利益は回復されませんし、風評被害などで離れてしまったお客さんが帰ってこないことが考えられます。
そのような場合には、すでに発生した損害を金銭の支払いなどの方法で行政庁に賠償させることで、国民を救済することが考えられるわけです。

  つまり、行政救済とは、違法な行政活動により被害を受けた国民を救済するために、

①違法な行政活動を除去したり、適法な状態に戻すこと

②すでに発生した被害を回復するため賠償をすること――という2つの手段と言えます。

  ①に対応する制度を行政争訟、②に対応する制度を国家補償――と言います。

  以上の行政救済制度の内容と、救済に当たって守るべきルールを定めたものが行政救済法です。

 

Ⅱ.行政救済の手段

  行政救済の手段には、上記でお話しした

①行政争訟

②国家補償のほか、

③行政上の苦情処理制度

④オンブズマン制度

⑤行政審判――などがあります。

  ①の行政争訟について、もう少し詳しくお話ししましょう。行政争訟とは、違法状態を排除・是正するためのものです。行政活動に違法があり、国民の権利が侵害されているときには、私人と行政主体との間に紛争が生じたと言えます。行政争訟は、紛争に巻き込まれた国民が、しかるべき国の機関に、違法状態の排除・是正を求めることができることです。

  ただ、この場合、行政主体にも適切な言い分があると思われますし、国民の主張にも間違いがあるかもしれません。そこで、私人の要求が適切であるか、国の機関が審理したうえで、私人の請求がもっともである、救済の必要があると判断された場合、違法な行政活動を排除・是正すべく措置をとることになります。

  つまり、行政争訟とは、行政上の法律関係に関する紛争について、国家機関がこれを審理・判断したうえで、違法・不当な行政活動の排除・是正を行うための制度と言えます。

この制度として、救済を求めた場合の方法は、

①必要な措置をとるのが行政機関である行政不服申立て

②必要な措置をとるのが裁判所である行政事件訴訟――の2つがあります。

  ②の国家補償は、行政作用により国民に生じた損害を補償し、金銭による救済を図るための制度です。

そのような制度として

a国家賠償

b損失補償――の2つがあります。

  aの国家賠償は違法行為により発生した損害賠償をするもので、bの損失補償は適法な行政活動により発生した損失の補てんをする制度です。

  ③の行政上の苦情処理制度は、行政不服申立て以上に簡便な制度として用意されているものです。
例を挙げると、行政庁が自主的なサービスとして提供している各種行政相談、各行政機関の業務等に関する苦情の申出に必要な斡旋(総務省設置法)――などです。

  いずれも簡易な手段として、取次ぎ、斡旋、勧告、行政運営の改善のすべての点において迅速なものが期待できるものです。ただし、行政からの自発的なサービスである以上、適正さ、公平さや実効性の面で限界があると言っていいでしょう。

  次に④のオンブズマン制度です。オンブズマン制度は、直接の苦情申立てなどに基づいて、行政の実態を調査し、改善等の意見表明・勧告を行う権限を広く持つもののことです。学識経験者など1名または数名で構成され、議会等に設置される独立の形態の機関で、地方公共団体の一部で導入されている例があります。
中立性が要求される事項について、第三者的立場で審査を行うことで、行政活動の適正さを図ることがオンブズマン制度の目的です。

  ⑤行政審判と呼ばれる制度もあります。行政審判は、通常の行政組織から独立した行政委員会その他これに準ずる機関が、準司法手続に基づいて行う紛争解決のための制度のことです。具体的には、特許審判、海難審判のほか、公正取引委員会など行政委員会による審判が挙げられます。

  行政不服申立てと何が違うのか、考えてみたいと思います。行政審判の特徴は、行政不服申立てより、いっそう行政事件訴訟に近い厳格さや公正さが備わっている点にあります。行政審判は、系統的な行政組織から独立した地位を持つ行政機関が担当し、審判に当たっても職権行使の独立が認められる――という組織面からの公正さ・中立性の保障がされています。

  また、手続きにおいても、口頭審理の途が開かれていたり、当事者が聴聞の手続きに直接参加できるというように、司法審理と類似の手続きが採用されています。

  このほかの行政審判の特徴は、

a憲法の論点で取り上げられる実質的証拠法則が認められること

b行政事件訴訟に移行する際の一審の裁判権について東京高等裁判所に専属管轄があること――などの特徴があります。

  aの理由は、司法審査類似の厳格な手続きがとられ、専門機関による認定であることから、その事実認定を最終のものとすることが合理的であることや、裁判所は事実認定に拘束されるかを自ら決定する権利がること――などです。

  の理由は、行政審判は事実上、司法裁判所による第一審のような役割を果たすことが期待されているからです。

行政法130-1

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