第128回 行政指導手続

  行政指導とは、行政機関がその任務または所掌(しょしょう)事務の範囲内において一定の行政の目的を実現するために、特定の者に一定の作為または不作為を求める指導、勧告、助言――その他の行為のことで、処分に該当しないものを指します。したがって、行政指導は、行政処分ではなく、事実行為です。

  今回はこの行政指導について、①行政指導の一般原則、②各種行政指導への手続き、③行政指導の方式、④意見公募手続――に分けてお話しします。

行政書士講座

Ⅰ.行政指導の一般原則

  行政手続法の規制の中で、行政処分に次いで重要なのが、行政指導です。行政指導に関する行政手続法の定めの目的は、不透明・不公正な行政指導が行われることを防止することです。

  行政指導の一般原則は、行政手続法32条に規定されています。

第32条(行政指導の一般原則)
一 行政指導に当たっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の任務または所掌事務の範囲を逸脱してはならない※1こと、および行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ※2実現されるものであることに留意しなければならない。
二 行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない※3

  まず、行政庁は行政指導をするに当たっては、※1当該行政機関の任務または所掌事務の範囲を逸脱しないことが求められています。任務以外の目的を達成するために行動することは、法律による権限配分に反するからです。

  また、行政指導は国民の自発性に本質があります。そこで、※2任意の協力によって実現されるものであることを忘れることがないよう気を付けることが求められています。また、※3行政指導に従わなかったことを理由に不利益な取扱いをすることも禁止されています。

  以上の行政指導の任意性や不利益な取扱いによる事実上の強制を禁じることは、行政指導は処分でないという定義から当然に導かれることで、行政手続法が定められる以前から、判例上承認されてきたことです。

有名な判例として、新たなマンションの建築に当たって教育施設負担金の寄付を求める指導要綱について、マンション建設の業者が指導要綱に従わないことを理由に水道供給契約の締結を拒否したことが違法となった例があります。

この事例の指導要綱は、制裁措置を背景にして事業主に一定の義務を課すようなものでしたので、行政指導の任意性を損ない、限界を超えるものと判断されました。

  同様に、行政指導に従わない場合に、法的義務を発生させるものではありませんが公表された者がイメージダウンや悪評判を嫌って行政指導に従うことを狙った、氏名を公表することにも問題があります。公表の方法、内容、公表に至った事情などによっては、行政指導の任意性を損なうものとして違法になることも考えられます。

  ただし、任意とはいっても、行政指導に応ずるべく説得を重ねることまで一切否定しているわけではありません。
例えば、マンションが急にたくさん建設された場合、人口も急に増加し、インフラや学校・病院など住民の生活に必要な設備の整備が追いつかないことがあると思います。マンションの建設が合法的なものであるとしても、現実的にはそのまま建設を放置すると、住みよい街づくりは達成できないでしょう。

このような場合、住環境に支障が出ることを食い止めるために、行政指導に頼ることもあります。この場合には、指導にある程度の実効性がなければ目的の達成はできないと言えます。

  つまり、行政指導の違法性は、行政が行政指導に従うべく働きかけることが、どの点まで達すると、任意性を損なうことになるのかを慎重に判断するより仕方ないわけです。この判断の目安となるのが、行政指導の相手が、行政指導に従う意思がないことを明確に、かつ真摯に表明したという事実です。

  相手が従わないという意思を明確に表明した以上、任意に処分に従うことは極めて難しい状態になったと言えます。そこで、行政側がこれ以上指導に従うように働きかけをすると、内容にもよりますが、違法と評価される可能性が高いと言えます。しかし、違法性の判断は、この点だけではありません。行政目的の達成の観点から、相手方の不服従が、社会通念上、正義の観念に反すると言えるかどうかも判断の材料となります。

 

Ⅱ.各種行政指導の手続き

  続いて、特定の行政指導の特徴により妥当するルールについて見てみましょう。まず、申請の取下げまたは内容の変更を求める行政指導を行う場合、申請者が行政指導に従う意思がない旨を表明したにもかかわらず、指導を継続することで申請者の権利行使を妨げることは許されません(33条)。

なお、申請者の申請書への記載事項の不備、必要な添付資料の不足等、申請の形式上の要件に適合していない場合に、その補正を求めるようなものは、33条の行政指導には含まれません。したがって、指導を継続することができます。

  次に、許認可などの権限に関連する行政指導の規制についてです。
許認可権を行使できる行政官庁は、行政指導に従わせるため、許認可権を行使することをことさらに示すことがあり得ます。しかし、本当は許認可権を行使できない場合であるとか、本当は行使する意思がないのに、行政指導を行使することを示すことは禁じられています(34条)。

このようなことをすると、相手方は許可や認可が得られないのではないかと勘違いして指導に従うおそれがあり、任意性が損なわれるからです。

例えば、大学の授業内容について文部科学省が行政指導するに当たり、指導に従わないと法科大学院や付属小中学校についての設置許認可に影響がある旨を述べることです。これには、行政機関が当該案件に関係ない許認可権を背景に行政指導し従わせようとすることを禁止する趣旨があります。

 

Ⅲ.行政指導の方式

  続いて、行政指導の方式についての規制です。

  まず、行政指導を行う者は、行政指導の趣旨・内容・責任を明確に示す義務があります(35条1項)。
後に行政指導に関連して問題が発生したときに、そんな指導はしていないと行政側が言い出したり、誰が指導したか分からない――などということをを防止するためです。

  また、同じ趣旨で、行政指導が口頭でされた場合でも、趣旨・内容・責任者を記載された書面の交付が求められた場合は、書面を交付しなければならないとされています(35条2項)。

これらの義務は法的義務ですが、行政の事務処理上の負担が過重になる場合、書面を請求する意義が乏しい場合には、例外として、書面を交付しなくてよいことになっています。

  さらに、複数の者を対象とする行政指導では、あらかじめ、行政指導指針を定め、これを公表しなければならないことになっています(36条)。

公開の指針があるとなれば、相手により指導の内容が異なるなどの不公平な指導が防止できます。また、指針の公開により、第三者も当該指針を知り得るので、透明性も確保されます。

 

Ⅳ.意見公募手続

  最後に、行政手続の一つ意見公募手続についてお話ししておきましょう。意見公募手続とは、政令・省令・審査基準・処分基準・行政指導指針(まとめて命令等と言います)についての案を作成した場合に、一般に公表し広く国民から意見・情報を募集する手続きのことです。

  パブリックコメントという言葉を耳にした方もいらっしゃると思いますが、パブリックコメント=意見公募手続と考えていいでしょう。

行政庁には、緊急の場合になどを除いて、意見公募手続をとる法的義務があります(39条)。命令等の制定に当たって、様々な意見を聴取することで、内容の適正と民主的な正当性を確保する目的です。

行政法128-1

  意見提出期間は原則として命令等の案などの公示の日から起算して30日以上でなければなりません。もっとも、やむを得ない理由がある場合には、30日を下回る意見提出期間も認められていますが、その際には、命令等の案の公示の際にその理由を明らかにする必要があります。

  また、意見公募手続の存在が知られていなければ、国民が意見を提出することができないので、広く周知するよう努めなければなりません(41条)。

  そして、国民の信頼を確保するための手段として、定めた命令等の公布と同時期に、提出意見ならびに提出意見を考慮した結果およびその理由などの公示も義務付けられています(41条1項)。

行政法128-2

行政書士講座

ページ上部へ戻る