第127回 不利益処分手続

  処分に関する行政手続のうち、不利益に関する処分手続を特に取り上げて、お話しします。
不利益処分は時には必要なものですが、国民の権利利益への侵害を生じさせるおそれが特に高いものなので、規制の必要も当然に高いと言えます。

今回は、①不利益処分とは、②聴聞、③弁明の機会の付与――と解説していきます。

 

Ⅰ.不利益処分とは

  規制の対象になる不利益処分とは何かについて、行政手続法2条4項は次のように定めています。

第2条4号
四 行政庁が法令に基づき、特定の者を名あて人※1として、直接に、これに義務を課し、又はその権利を制限する※2処分

  ※2の「直接に義務を課し、権利を制限する」ことについては特段に説明はいらないでしょう。注意すべきは、行政手続法の規制がある不利益処分は、※1特定の者を名あて人とするということで、一般的な処分は不利益処分から除外されることです。一般的な処分とは、例えば、道路交通法に基づいて特定地域の交通規制を行う処分のように、処分が特定の者を対象としていないもののことです。

  特定の者を名あて人とする不利益処分についての審査基準の設定・公表についての義務は、12条に定められています。

第12条(処分の基準)
1 行政庁は、処分基準を定め、かつ、これを公にしておくよう努めなければならない。
2 行政庁は、処分基準を定めるに当たっては、不利益処分の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない。

行政法127-1

  不利益処分について行政庁は、処分基準、つまり法令の定めに従い、処分の対象になるかどうかを判断するための基準を定める義務があります。その理由は、適正な基準に従ってなされれば、不利益処分が適正になされること、さらに基準に従ってなされることで公平にされることを保障するためです。また、処分基準設定の趣旨を徹底し、かつ、国民にどのような場合に不利益が及ぶか予告することが権利利益の保護に役立つので、基準を公にする義務もあります。

しかし、これらの義務は努力義務です。処分基準の設定が努力義務である理由は、処分の実績が乏しい場合、事前に基準を作成することが困難であることが予想されるからです。

  また、公開が努力義務なのは、公開することによる弊害が予想されるからです。
例えば、自動車の公道における速度制限で、60キロ制限という建前が採られていても、実際は80キロを超えないと取り締られないと分かってしまうと、現実、60キロ制限は、守られなくなってしまいます。同様に3回の違反で営業停止にするとの基準が定められていることを公開すると、2回までの違反を助長するおそれがあります。これが、処分基準の公開が努力義務である理由です。

  なお、処分基準を定める場合は、できるだけ具体的な内容とすることが求められています。

  次に、行政庁は、不利益処分をする場合、同時に処分の理由を提示する法的義務があります。この趣旨は、申請に対し拒否する場合と同じく、行政庁の判断を慎重にさせ、権限の濫用を防ぐと同時に、私人の不服申立ての便宜を図るためです。

  この義務が例外的に免除されるのが、理由を示さないで処分をしなければならない場合です。差し迫った必要がある場合、緊急の公益確保の必要のため、国民の権利利益を制限する場合が、例外と言えます。

申請に対する拒否も含め、何らかの不利益な処分をするには、理由を示す法的義務が発生すると覚えておきましょう。

  なお、不利益処分を書面でする場合は、理由も書面で示す義務があります。処分を書面でする趣旨は、責任の所在や義務の内容を明確にするためです。この時なされる処分は、相応の重要性と国民への不利益を伴うものですから、理由についても書面で示すことにさせ、理由を要求した趣旨を徹底させることを目的としています。

  さらに、不利益処分をするに至る過程で、どのような手続きをとるかもまた重要です。恣意的な判断や誤った判断がなされることを防ぐだけでなく、処分が利害関係人の意思にも矛盾しないものになるように計らうためのものだからです。

  そのような手続きとして、重要なのが、聴聞または弁明の機会の付与です。どちらも不利益処分の相手方の「意見陳述のための手続き」で、行政手続法はこの手続きを行うことを13条に定めています。

第13条(不利益処分をしようとする場合の手続)
行政庁は、不利益処分をしようとする場合には、次の各号の区分に従い、この章の定めるところにより、当該不利益処分の名あて人となるべき者について、当該各号に定める意見陳述のための手続きを執らなければならない。

一 次のいずれかに該当するとき 聴聞
 イ 許認可等を取消す不利益処分をしようとするとき
 ロ イに規定するもののほか、名あて人の資格又は地位を直接にはく奪する不利益処分をしようとするとき
 ハ 名あて人の業務に従事する者の解任を命ずる不利益処分又は名あて人の会員である者の除名を命ずる不利益処分をしようとするとき
 ニ イからハまでに掲げる場合以外の場合であって行政庁が相当と認めるとき
二 前号イからニまでのいずれにも該当しないとき、弁明の機会の付与

  聴聞と弁明の機会は、どちらも、相手方に処分の理由、対象となる事実やその根拠を述べ、これに不服があるときは、反対の意見やそのことを根拠づける資料を提出させるものです。

その目的は、不利益を受ける者の言い分を十分に聞くことで、行政庁が誤った判断をすることを事前に防止することです。合わせて、このような手続きを経ることで、最終的になされた判断の正当性を担保することにもなります。

  聴聞と弁明の機会の違いは、弁明の機会は聴聞に比べ簡易な手続きによる点です。したがって、聴聞が必要な場合とは、許認可の取り消し、資格や地位の直接的な剥奪、法人役員の解任――など、相手方に対する打撃が大きい場合です。

 

Ⅰ.聴聞

  行政庁は、聴聞を行うに当たり、聴聞を行うべき期日までに相当な期間を置き、不利益処分の名あて人となるべき者に対し、以下の事項を書面により通知しなければなりません。

第15条第1項 (通知事項)
・予定されている不利益処分の内容および根拠法令の条項
・不利益処分の原因となる事実
・聴聞の期日と場所
・聴聞に関する事務を扱う組織の名称と所在地

  聴聞の期日における意見陳述権、証拠書類提出権、聴聞終結時までの文書等閲覧請求権は、不利益処分の名あて人となるべき者が、聴聞の機会を有効に生かして、自己の権利利益を擁護するために、重要な意味を持ちます。そこで聴聞の通知の書面においては、これらの事項も合わせて教示しなければなりません。

行政法127-2

  聴聞に際し、当事者の権利利益を保護し、かつ手続きの簡易・迅速化を図る観点から、当事者および参加人は、代理人を選定することができます。また、当事者および参加人は、主催者の許可を得て、保佐人とともに出頭することができます。

  また、行政庁がどのような資料に基づいて不利益処分をしようとしているか分からなければ、聴聞の場で適切な主張立証をできません。

そこで、当事者や参加人は、聴聞の通知があった時から聴聞が終わるまでの間、行政庁に対して調書その他の不利益処分の原因となる事実を証明する資料を閲覧することを求めることができます。

  審理の方法は、次のとおりです。

1.冒頭手続 

  まず、冒頭手続として、主宰者は、最初の聴聞期日の冒頭で、行政庁の職員に

a予定される不利益処分の内容

b根拠法令の条項

c原因となる事実――を出頭した者に対して、説明させなければなりません(20条1項)。
その趣旨は、冒頭手続の規定を設けることで、心理を円滑に進行させ、かつ審理を十分に尽くさせることにあります。
 

2.聴聞手続きにおける活動 

  次に聴聞手続における活動のうち、当事者や参加人は、意見を陳述し、証拠書類等を提出し、主宰者の許可を得て行政庁の職員に対して質問をすることができます(20条2項)。主宰者の許可が必要なのは、不当に質問が多発され、審理が混乱することを防ぐためです。

なお、当事者や参加人は、出頭に代えて聴聞の期日までに陳述書や証拠書類を提出することが可能です。

  では、一方の主宰者の活動を見ていきましょう。主宰者は、必要と認めるときは、当事者や参加人に質問をして、意見の陳述や証拠書類等の提出を促したり、行政庁の職人に対して説明を求めることができます(20条4項)。これを、聴聞主宰者の釈明権と言います。
 

3.聴聞の終結

  もし仮に、当事者や参加人が正当な理由なく聴聞の期日に出頭せず、さらに、陳述書や証拠書類等を提出しない場合には、聴聞の主宰者は、関係人に意見陳述等や陳述書の摘出をさせないで、聴聞を終了することができます(23条1項)。
 

4.審理の公開

  聴聞の審理は、行政庁が公開することが相当と認める以外は、非公開が原則です(20条6項)。その理由は、当事者等のプライバシーの保護です。
 

5.聴聞調書および報告書

  聴聞が終了したら、主宰者は、聴聞の審理の経過を記載した調書を作成して、当事者や参加人の陳述の要旨を明らかにする必要があります(24条1項)。調書は、審理が行われた聴聞の期日ごとに、審理が行われなかった場合には聴聞の終結後、速やかに作成しなければなりません(24条2項)。

  また、主宰者は、聴聞の終結後速やかに、不利益処分の原因となる事実に対する当事者の主張に理由があるかどうかについての意見を記載した報告書を作成し、調書と合わせて行政庁に提出しなければなりません(24条3項)。

  また、当事者や参加人は、調書や報告書の閲覧を求めることが可能です(24条4項)。
 

6.聴聞の再開

  ところで、一度終結した審理は、再開することはできないのでしょうか? 行政庁は、聴聞の終結後に生じた事情にかんがみ、必要を求めるときは、主宰者に対して報告書を返戻して聴聞の再開をすることができます(25条前段)。これは、事実関係の判断を左右し得る新たな証拠書類等を行政庁が得た場合を想定しています。
 

7.聴聞を経てされる不利益処分の決定

  行政庁には、不利益処分の決定をするときは、調書の内容や報告書に記載された主宰者の意見を十分に参酌(第三者の意見を参考にして適切な処置をとること)しなければならないという参酌義務があります。

その理由は、行政庁の行う不利益処分に聴聞の成果が反映されないのでは、聴聞を行った意味がないからです。
 

8.不服申立ての制限

  行政庁または主宰者が、聴聞の節の規定に基づいてした処分は、派生的な処分であるため、行政不服審査法による審査請求や異議申立てなどの不服申立てをすることができません。つまり、不利益処分を受けた者は、行政事件訴訟により処分への不服を述べるしか方法がないわけです。

 

Ⅱ.弁明の機会の付与

  聴聞以外に、弁明の機会の付与という手続きもあります。先にも述べましたが、弁明の機会の付与は、弁明を記載した書面の提出を求めるものにすぎません。審理は、行政庁が口頭ですることを認めた場合を除き、弁明書を提出します(29条1項)。

この趣旨は、

①弁明内容を明確にすること

②簡易迅速な防御手続を確保すること――などです。

また、弁明をするときは、当事者の権利保障のために証拠書類等を提出することができます。

  そして、行政庁は弁明書の提出期限までに相当な期間をおいて、不利益処分の名あて人に対して、以下の事項を書面で通知しなければなりません。

①予定される不利益処分の内容および根拠法令の条項

②不利益処分の原因となる事実

③弁明書の提出先と提出期限(口頭による弁明の機会の付与の場合には、その旨ならに出頭すべき日時および場所)

  ところで、聴聞には行政不服申立ての制度の適用がありませんでしたが、弁明の機会の付与には、処分を受けた者が行政不服申立ての制度を利用することが制限されていません。

  以上のことから最後に聴聞と弁明の機会の付与の違いをまとめますので、参考にして覚えてください。

行政法127-3

行政法127-4

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