第124回 行政指導

  今日は、非権力的な行政活動の中でも、現実社会において特に大きな役割を果たしている行政指導を解説します。それでは、①行政指導の定義、②行政指導の法的統制――についてです。

 

Ⅰ.行政指導の定義

  行政指導の定義は、法律で決まっています。

行政手続法2条6項(行政指導)

  行政機関が、その任務又は所掌事務の範囲内※1において、一定の行政目的を実現※2するため、特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為※3であって、処分に該当しないもの※4をいう。

  長い定義ですが、まず着目すべきは「※4処分に該当しない」の部分です。行政指導の特徴は、法的拘束力がない点で、このため、行政指導に従わない者に対して強制執行や行政罰の対象にすることはできません。

  行政指導に法的拘束力がない理由は、行政指導は、国民の自発的な協力を要請するものだからです。つまり、国民は行政機関からの働きかけに対して、応じても応じなくても構いません。そこで、行政指導は、行政機関が行政目的実現のため国民に働きかけ、その自発的な協力を要請する行為とも定義されています。

  次に重要なポイントは、「※1任務又は所掌事務の範囲内において」という部分です。行政指導は、これをする行政庁の任務や所掌事務の範囲内でしか行うことができません。行政指導は、市民に義務を発生させるものではなく、単に協力を要請するものにすぎないとすると、行政庁は自由に好きなように行政指導できるようにも思えますが、※1により、まったく自由ではないと言えます。

  ※2の行政目的実現のためというのは、行政活動である以上当然ですし、※3は行政指導という言葉の意義を述べているにすぎません。

  ところで、行政指導にも種類があり、主に次の3つに分けることができます。

①助成的行政指導

②調整的行政指導

③規制的行政指導

  ①助成的行政指導とは、私人に対して行政が知識・情報を提供し、私人の活動を助成するものです。
例えば、営農指導、経営指導、税務相談――などです。

  ②調整的行政指導とは、私人間の紛争を解決する機能を果たすものです。
例えば、マンション建設主に対して、建設前に建設を反対する住民との話合いや意見の調整を図るよう指導するものですが、この調整的な行政指導は、マンション建設主や事業者にとっては規制的なものとして働く点が特徴です。

  ③規制的行政指導とは、違法行為を是正するものや、規制目的の積極的な達成を目指して私人の活動を規制する機能を果たすもののことです。
例えば、違法建築物の所有者に是正命令を出すに当たり先立って行われる警告や、産業廃棄物処理業者に対する操業自粛の指導などが挙げられます。

  また、行政指導は、国民の自発的な協力を求めるものや国民に何かを強制するものではないので、行政側と住民の間でしこりが残りにくいと言えますから、国民との間に摩擦・抵抗が起きることを抑えながら、行政目的の達成をすることが期待できます。

  さらに、法律の根拠が不要ですし、厳格な手続きを踏む必要もないため、行政需要に迅速な対応をすることも期待できます。

  つまり、行政指導とは、国民にとっても行政にとっても負担が小さく、迅速にやりたいことができ、便利と言えるわけです。このため、行政指導は、ほとんどすべての行政領域で多用され、行政目的の実現のため重大な機能を果たしているのです。

  とはいえ、行政指導にも問題点があります。行政指導は自発的な協力を求めるものという建前になっています。しかし、協力を依頼するのが国や公共団体となると、国民が嫌だからと、簡単にNOと言えるでしょうか? 行政に従わなかった場合の、その事実の公表や給付の打ち切りなどをおそれて、しぶしぶ従うことも実際には多いと思えます。つまり、現実には私人が服従を拒むことは困難と言えるのです。

  また、行政指導は多用されているわけですから、私人の利益にきわめて大きな影響を与える結果を生むことが容易に想像できます。

  その上、行政指導は形式的には国民の権利を制限するものでも、義務を発生させるものでもありません。このため、処分性が否定され、抗告訴訟の対象にすることができなくなるおそれがあります。

  そして、行政指導によって損害が発生した場合でも、あくまで行政庁は働きかけをしたにすぎず、指導に従ったのは私人の意思によるものという点を強調すると、国家賠償請求も難しいということにもなり兼ねません。

  さらに、私人が素直に行政指導に従った場合、行政庁としてはスムーズに事が運んでありがたいということになり、その私人に対し、別の場面で便宜を図るという、監督官庁と業界の癒着を生むおそれさえないとは言いきれません。

  ここで、行政指導を巡る判例を紹介します。覚えておきましょう。

☆指導要綱による加発負担金事件(最判平5.2.18)

 市がマンションを建築しようとする事業主に対して指導要綱に基づき教育施設負担金の寄付を求めた行為が、行政指導の限度を超え、違法な公権力の行使に当たるのではないかどうかが争われた。

①行政指導として教育施設の充実に充てるため事業主に対して寄与金の納付を求めること自体は、強制にわたるなど事業主の任意性を損なうことがない限り、違法ということはできない。
②本件指導要綱は従わない事業主には水道の給水を拒否するなどの制裁措置を背景として義務を課することを内容とするものであり、指導要綱に基づく行政指導に従うことができない事業主は事実上開発等を断念せざるを得ず、マンションを建築しようとする以上当該行政指導に従うことを余儀なくさせるものであり、負担金の納付を求めた行為はその納付を事実上強制しようとしたものである。
③当該指導要綱に基づき教育施設負担金の寄付を求めた行為は、違法な公権力の行使である。

 

Ⅱ.行政指導への法的統制

  上記のような行政指導を巡る様々な問題を克服するための方法を紹介します。

  まず、①法律による統制です。
行政指導に当たっては、性質上、直接の根拠規定は不要とするべきです。しかし、どんな行政指導でも自由にできるわけではなく、当該行政機関の所掌事務の範囲に限られる(行政手続法32条1項)という点で、行政指導には組織法上の根拠が必要と言えます。また、法律優位の原則は妥当しますから、何らかの法の定めがある場合にこれに抵触する行政指導を行うことはできません。

  さらに、行政法上の一般原則である平等原則、比例原則は行政指導にも及びます。これらに違反する行政指導は違法と評価され、抗告訴訟、国家賠償などの行政救済の対象にすることが可能となります。

  また、程度を超えた指導や働きかけ、勧奨があるとき、行政指導が持つ自発性に反し、事実上の強制と評価できることがあります。この場合は、処分性が認められ、抗告訴訟の対象とすることができますし、被害が発生した場合には国家賠償の対象にすることもできます。

  上記は、事後の救済手続きですが、事前手続きによる権利侵害、国民への不利益の発生を防止する方法も考えられます。これは、次の行政手続きの項で詳しく解説することにします。

行政法124-1

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