第122回 行政上の強制手段~その4

  今回は、行政上の強制手段の最後です。①行政罰、②行政罰以外の制裁手段――について解説し、最後に行政上の強制手段を巡る判例を一覧にまとめます。いずれも過去の行政書士試験で出題された内容ですので、しっかり読み込んでおいてください。

行政法122-1

Ⅰ.行政罰

  行政上の強制手段として、行政強制のほかに行政罰があります。行政罰は、行政法上の義務違反に対し、制裁として科せられる罰のことです。制裁ですから、行政罰の目的が直接的には義務の履行の確保ではない点が、行政上の強制執行とは異なります。

  もっとも、罰を加えれば義務違反の再発を予防できますし、一般の人が義務に違反することを予防できます。その意味では間接的に、行政罰にも義務の履行を促す効果はあると言えます。

  行政罰には、

①行政刑罰

②秩序罰――の2種類があります。

  行政刑罰は、刑法に定めがある刑罰を科すものです。本来刑法上の処罰である刑事罰が、反道徳的性質の行為に対する道義的責任であるのに対して、行政刑罰は、道義に反するとか、道徳に反するという側面が見られない点で刑事罰と区別しています。

特別な定めがない限り、行政刑罰には刑法総則が適用されます(刑法8条)。手続きとしては、原則として検察官による起訴を経たうえで、裁判所が刑を科します。

その例外が、

①国税反則通告制度

②交通反則通告制度――などです。

これらは、罰則該当者に一定の金銭の納付を通告し、納付がなされれば手続きが終了します。すると、公訴の提起がされないわけですから、行政刑罰の対象になりません。裁判所の関与がないまま、事実上刑事責任が確定し、事件が終了します。しかし、納付がなされなければ刑事手続きが開始されることになります。

  もう一つの行政罰である秩序罰は、比較的軽微な義務違反に対して過料を科すものです。その目的は、行政上の秩序を維持する点にあります。義務違反は悪いので制裁はするが、義務違反の程度が小さく、周囲に対する直接的な障害や実害、高度な危険を発生させているわけではないので、軽い罰にしようというものです。

例えば、刑事裁判の証人尋問で正当な理由がないのに証言を拒んだとか、転居の際に正しい転入手続きを採らなかったとか、この出生届を期間内に提出しなかった――場合などに過料に科すなどが挙げられます(ここでは、過料に注意してください。刑罰での科料と区別する必要があります)。

この時に科せられる過料は刑罰ではないので、刑法総則の適用はありません。国が定めた義務に反する場合には、法令の規定に基づき国=裁判所が非訟事件手続に従って、地方公共団体が定めた義務に反する場合には、条例・規則に基づいて地方公共団体の長が行政行為の形式で、罰を科すことになります。

  また、秩序罰は刑罰ではないので、行政刑罰と秩序罰の両方を同時に科すことが可能です。
例えば、証言義務違反の場合、秩序罰を科すほかに刑罰としての罰金を科すことがあります。この理由は、判例によれば、二重処罰の禁止(憲法39条)の定めの適用があるのは、刑罰だけとされているからです。したがって、秩序罰や、この後に出てくる加算税、課徴金を刑罰やその他の制裁手段と併科することは差支えありません。

また、代執行、直接強制などの義務の履行を強制すると同時に、行政罰を科すことも可能です。履行を確保する必要も、義務違反に対して制裁を行わなければならないことも、同時に成り立つからです。
例えば、器物損壊で罰金刑を科された人が、被害者に対して民法に基づく損害賠償をしなければならないことは、当たり前ですね。脱税でも、罰金が徴収されるのと別に、重加算税も課されます。これも目的が異なる制度だからです。

 

Ⅱ.行政罰以外の制裁手段

  行政法上の制裁手段としてはそれ以外に、

①加算税

②課徴金

③公表

④授益的行政行為の撤回

⑤行政サービスの提供を拒否すること――などがあります。

  まず、①の加算税とは、租税法上の義務違反に対するもので、申告義務違反等に科される経済的不利益のことです。

  次に②の課徴金とは、経済法上不法な利益を得た業者が、不当に得た利益の額に応じて制裁金の支払いを命じられるものです。
例えば、事業者が不当な取引制限をした場合(独占禁止法7条の2・1項)などに科されるもので、直ちに違法とは言えなくても、放置することが社会的公正に著しく反すると言える行為に適用されます。罰ではありませんが、法律による禁止を間接的に担保するものということができるでしょう。

  そして、③の公表とは、行政庁が義務違反のあった私人の違反の事実および当該私人の名前などを発表することです。権利の剥奪を行ったり、義務を負わせるものではなく、直接の実力行使もない点で、比較的緩い制裁手段です。

  また、④の授益的行政行為の撤回とは、飲食店を営業停止にしたり、医師免許などの免許の剥奪をするなどがこれに当たりますが、このような行為によって義務違反をしないように間接的に強制する効果があると言っていいでしょう。

  最後に⑤の行政サービスの提供を拒否して、勧告、是正、行政指導(後の回で詳しく解説します)に従わせることを狙うことがあります。市民は、日常生活を行政サービスに依存せざるを得ない点をうまくついた有効な手段と言えますが、そのような手段をちらつかせることが違法ではないか――との指摘もあります。
 

【行政強制に関する判例】

☆川崎民商事件(最大判昭47.11.22)

  所得税法上の質問検査権に基づく調査を拒否した者が起訴された。

①旧所得税法63条の内容に不明確な点はないため、憲法31条に違反しない。

②収税官吏の検査は、刑事責任の追及を目的とする手続きではなく、実質上刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有するものでもなく、裁判官の発する令状を要件としなくても憲法35条に違反しない。

③憲法38条1項は、実質上刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく手続きには、等しく及ぶが、本件の検査は「自己に不利益な供述」を強要するものとは言えない。

☆一斉検問に関する判例(最決昭55.9.22)

  交通安全に必要な警察の活動は、任意手段による限り酒気帯び運転を取り締まる一斉検問の実施は一般的に許容される。自動車の運転者は当然の負担として交通の取締りに協力すべきであり、また、警察官が交通違反の予防、検挙のための自動車検問を実施し、短時分の停止を求めて運転者などに対し必要な事項についての質問をすることは、相手方の任意の協力を求める形で行われ、自動車の利用者の自由を不当に制約することにならない方法、形態で行われる限り、適法なものである。

☆警職法上の所持品検査に関する判例(最判昭53.9.7)

  警察官が職務質問に附随して行う所持品検査は、承諾を得るのが原則であるが、職務質問ないし所持品検査の目的、性格及びその作用等にかんがみ、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、具体的状況の下で相当と認められる限度において許容される場合がある。

行政法122-2

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