第121回 行政上の強制手段~その3

  今回は、まず、行政上の強制手段のうち代執行以外の①執行罰、②行政上の強制徴収をお話しします。

それから、もう一つの行政上の強制手段である直接強制について、直接強制と類似している即時強制(分類上は行政上の強制手段に含まれない)と比較しながら、③直接強制と即時強制――として、さらに④行政調査――を解説します。

行政法121-1

Ⅰ.執行罰

  執行罰とは、一定の期限を定め期限内に義務を履行しないときに科料に処す、つまり金銭の支払いを強制することを予告し、義務者に心理的圧迫を加えて、間接的に義務に履行を強制することです。

  執行罰の対象になるのは、不作為義務または不代替的作為義務、つまり代執行の対象にならないものです。ただし、現在では執行罰は原則として排除され、砂防法36条がいわば法整備の漏れとして残っているのみです。執行罰も行政上の強制手段の一つですから、法律の根拠がなければ実施することはできません。

  そこで、現在では、間接的な強制手段として行政罰に代えられているのが現状ですが、行政罰はあくまで制裁なので、履行の確保ができているとは言えません。執行罰は繰り返し徴収できますが、行政罰は1回のみという違いがあります。

 

Ⅱ.行政上の強制徴収

  ところで、今までに説明した代執行や執行罰として徴収する重い過料のほか、私たちが一般的に国や公共団体にお金を支払わなくてはならなくなることはよくあることです。
例えば、税金、道路交通法における反則金――などなど。

そして、これらの支払いを怠ける私人がいることも、また容易に想像がつきます。

  そのような場合に、強制的に金銭を取り立てて、義務を怠たることを認めないようにするための手続きが行政上の強制徴収です。これも、行政上の強制執行の一つですから、裁判所の手を借りずに、行政主体が直接に金銭を取り立てることができます。

  行政上の強制徴収の定義は、国民が公法上の金銭債務を納期限までに任意に履行しない場合に、国または地方公共団体が強制的手段を用いて、その債務が履行されたと同様の結果の実現を図ることです。

  また、行政上の強制徴収の根拠になる法律は、国税徴収法です。この法律は、税金の滞納処分のためのものですが、地方税法や租税以外の金銭支払義務が発生する場合も、例えば前回述べた代執行の費用について適用されます。なお、それぞれの法律に、「強制徴収は国税滞納処分の例による」との定めがあるのが通常です。

  この結果、公法上の金銭支払義務は、どのようなものも国税徴収法による強制徴収によって果たされることになります。つまり、言い換えると、国税徴収法は、事実上強制徴収の一般法としての役割を果たしていると言えます。

 

Ⅲ.直接強制と即時強制

  行政上の強制執行として残る直接強制と、行政上の強制執行ではないものの、直接強制と類似のものに即時強制があります。

  まず、直接強制とは、行政上の強制執行ですから、これも義務の履行があったのと同様の状態を実現する作用の一つです。その手段は、直接に義務者の身体または財産に実力を加えることです。

  これに対して即時強制も、行政上望ましい状態を作るため、直接に国民の身体または財産に実力を加える点で同じです。では、何が異なるのかと言えば、直接強制は義務の発生が前提になりますが、即時強制は義務の発生が前提にならないと言う点です。

例えば、直接強制の例として、学校施設の確保に関する政令によると、学校が学校教育の目的以外に使用された場合に管理者は返還命令を下すことができますが、この命令が履行されなかった場合に、直接返還を強制できます(学校施設の確保に関する政令21条)。
有名な成田新法も同じで、期限を付して工作物の使用禁止を命じたうえで、この命令に違反した場合に直接必要な措置を行えるという規定を設けています(成田国際空港の安全確保に関する緊急措置法3条)。

  これに対して即時強制は義務を命じるという段階がありません。
例えば、延焼のおそれがある消防対象物の処分(消防法29条2項)、救護が必要な者への保護措置(警察官職務執行法3条)、不法入国外国人の強制退去(出入国管理及び難民認定法52条)、違法駐車車両の移動(道路交通法51条6項)、感染症患者の強制入院(感染症予防法19条3項)のいずれも、いきなり強制手段を採ることができます。

 なお、どちらも法律の根拠が必要です。

 

Ⅳ.行政調査

  行政機関によって行われる情報収集活動行政調査と言います。もちろん、行政機関が行政目標を達成するために行うもので、世の中のニーズに対応した適切な行政活動を行うには、その準備として欠かせない調査です。

  行政上の強制手段をお話ししているこの項で、「なんで?」と思う人がいると思いますが、実は、行政調査には、直接実力をもって情報収集の目的を果たすものがある、つまり、即時強制の中に行政調査に当たるものがあるのです。

よい例として、警察官職務執行法2条の職務質問が挙げられます。なお、即時強制の中で強制を伴う行政調査を除いたものを特に即時執行と呼んで区別することがあります。

上記のほか、行政調査の例として、

①納税義務者に対する質問調査(所得税法234条1項)

②煤煙排出者の工場・事業所への立入調査(大気汚染防止法26条1項)――などが挙げられます。

  行政調査は情報収集ですから、その結果、個人情報その他の秘密を侵すことになるかもしれません。そこで、行政調査も人権侵害が起きないように法律による規制が行われています。

  まず、行政調査には①法律の根拠が要求されます。強制調査や間接強制を伴う調査では、人権侵害のおそれが大きいので法的根拠が必要なのです。

  一方、任意調査には法律の根拠はいりません。
例えば、市民の声を市民団体が集めたり、新しい制度を定めるに当たりパブリックコメントを求める際、いちいち法律の根拠は必要ありません。もちろん、この場合にも、法律の優位の原則は妥当します。また、許容の範囲を明らかにする必要はあります。

また、人権侵害を防ぐには、行政調査に手続的な規制をすることも有効です。根拠となる法として行政手続法が思い浮かびますが、残念ながら行政調査は行政手続法の対象となっていません。行政調査の手続きについての一般法はないわけです。

もっとも、個別的に手続きを定めているものもあります。
例としては、①事前の通告を要すると規定しているもの(消防法4条1項・4条の2)、②居住者の承諾を要すると規定しているもの(建築基準法12条6項)、③調査に当たっての令状の取得が求められるもの(国税犯則取締法2条4項、出入国管理法31条4項)――などがあります。

前例のように個別に定めのある場合は、問題がないと言えますが、事前手続きの定めのない場合や不十分な場合に、個人の権利の保護のために、事前手続きがない行政調査が違法となる可能性が出てきます。

いずれにしても行政調査は法律の優位の原則の下にあるわけですから、法に定められた目的以外の調査をすることは行えません。また、違法な調査が行われた場合には、その調査が目的とする後続の行政処分の効力にも影響を与えます。

  では、仮に税務調査が違法な場合、調査によって得られた資料に基づく更正処分の効果は否定されるのでしょうか?

原則として、調査の違法は行政行為の効力に影響しないというのが答えです。
その理由は、行政行為とその手段である行政調査は別個独立のものですし、情報収集は行政行為の不可欠の前提ではない以上、両者の関連性も必ずしも強くないと言えるからです。

  ただし、行政行為と調査が一つの過程を構成していると評価できる場合で、行政調査に重大な瑕疵が存在する場合には、調査の違法が行政行為に影響し、行政行為も違法になる可能性は否定できません。

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