第120回 行政上の強制手段~その2

  行政上の強制手段には、いくつかの種類があることを前回お話ししましたが、今日は、行政上の強制執行の各論に入ります。
まず最初は代執行について、①代執行の要件、②代執行の流れ――です。

行政法120-1

 

Ⅰ.代執行の要件

  前回お話ししたように、代執行の一般法は行政代執行法です。これからお話しする内容には、行政代執行法の条文がトビトビですが出てきます。さっそく2条を紹介します。

行政代執行法第2条
法律(法律の委任による命令、規則および条例を含む)により直接命ぜられ、又は法律に基き行政庁により命ぜられた行為※1他人が代ってなすことができる行為に限る※2)について義務者がこれを履行しない※3場合、他の手段によつて、その履行を確保することが困難※4であり、且つその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められる※5ときは、当該行政庁は、自ら義務者のなすべき行為をなし、又は第三者をしてこれをなさしめ、その費用を義務者から徴収する※6ことができる。

  2条の定めは、行政代執行の要件と効果を明らかにするものです。代執行とは、義務者以外の者がなすべき行為をしたうえで、費用を義務者から徴収するものであることが※6から分かりますね。

  次に代執行の要件ですが、法律により発生するものでも、行政行為により発生したものでも構いません。※1の部分です。
例えば、法律が「建物を撤去しなければならない」としている場合には、法律が直接国民の義務を導き出していることになります。一方、法律が「行政庁は建物の撤去を命じることができる」としている場合は、行政庁が行政行為を行って初めて建物の撤去をする必要が生じると言えます。どちらも代執行の対象になります。

  次の要件は、※2にあるように、他人が代って行うことができるもの、つまり代替的な義務に限られます。その理由は、本人が義務を果たさなければ意味がないものは他人が代ってしても意味がないからです。
例えば、市町村などで決められた予防注射の接種などがこれに当てはまります。

  さらに、代執行の対象になるのは、「~をする義務」つまり作為義務に限ります。「~をしない」という不作為義務は代執行の対象にはなり得ません。それは、不作為義務も代替的なものとは言えないからです。
例えば、営業の停止や、ある地域にパチンコ店や風俗店を建てられない義務を考えれば分かると思います。対象になった人が営業を続けたり、建物を建てたりすれば、公衆衛生の保持や環境・善良な風俗の維持といった禁止の目的を達成できないからです。

  このような不作為義務の実現については、後の執行罰等の項でお話しします。

  また、行政指導(後述)の代執行もできません。簡単に言えば、行政指導は国民に義務を発生させるものではないからです。

  では、代替的行為義務なら、すべて代執行の対象かというと、そうではありません。当然、※3の義務者が義務を履行しない場合です。これが、3つ目の要件です。

  そして、4つ目の要件、※4の他の手段により履行が確保できない場合です。代執行は国民の権利利益に相当大きな負担を与えるものです。他の手段があるのなら他の手段によるべきとの考えです。

  5つ目の要件は、※5の不履行を放置することが著しく公益に反すると求められる場合です。ですから、不履行を放置しても公益にさしたる不利益が及ばない場合は、得られる利益と失われる利益との均衡を図ることで解決を図ります。

 

Ⅱ.代執行の流れ

  代執行の効果は、強制的に義務が果たされるのと同じ状態を作り出すことです。
例えば、違法建築物を強制的に撤去したことを考えると、国民の権利利益に甚大な影響を与えることは言わずと知れたことです。というこうことは、必要ないなら、できれば、代執行なんてしない方がいいに決まっています。

  そこで、上記のような厳重な要件を満たした場合でも、まず、代執行に先立って自発的な履行を促したり、代執行に間違いがないかを確かめたり――というような慎重な手続きを踏むことが法律に定められています。

  法に定められた代執行の手続きは、次の通りです。

①戒告 →(応じない)→ ②代執行令書による通知 → ③代執行の実行 → ④費用の徴収命令 →(応じない)→ ⑤強制徴収

   ※非常の場合または危険切迫の場合は、戒告と代執行令書の通知を省略できる

  まず、①の戒告(行政代執行法3条1項)を説明します。
これは、「代執行を行う」ということを文書により通知することです。単に事実を知らせるだけのことですが、戒告は代執行の事実を予告することで、履行を促したり、間違いだと弁明をさせたりする期間を与えるものと言えます。

  そして、戒告があったにもかかわらず、戒告で定めた期限までに義務の履行がない場合、②の代執行令書による通知(3条2項、3項)が行われます。
これは、a代執行の時期、b執行責任者の氏名、c費用の概算――を知らせるもので、代執行をすることだけでなく、細かな情報まで知らせるものです。これも戒告と同じく、履行を促したり、間違いがある場合に弁明をさせる機会を与える意味があります。戒告に反応しない人に対して、代執行令書による通知で具体的な事情を知らせて、代執行をやるという行政側の姿勢をはっきり示しているわけです。

なお、非常の場合や緊急の場合には、戒告と代執行令書の通知を省略できます(3条3項)。

  戒告、代執行令書の通知があっても履行がなければ、いよいよ③の代執行の実行がなされます。このとき、執行官には身分を証明するための証票の携帯が義務付けられ、相手方から要求があれば証票を提示しなければなりません(4条)。これも間違った執行を防ぐための手続きと言えます。

  最後に④、費用を義務者から徴収します(5条)。費用については、後の回で解説しますが、他の公法上の金銭債権と同じく、国税滞納処分の例により、徴収します(6条1項)。

そしてこの費用徴収権には、国税および地方税に次ぐ先取特権が発生するものとして、保護されています(6条2項)。

行政法120-2

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