第119回 行政上の強制手段~その1

  行政行為にはいろいろ種類があることは、前回までに十分ご理解いただけたと思いますが、行政行為は、国民に様々な義務を発生させることもあります。

国民に義務を課すのは、国民に負担をかけようとか、痛めつけようとかするものではなく、住みよい国づくり、街づくりのために必要なこととして、国民に義務を果たしてもらわなければ、行政目的を実現し公益を確保することができない――との理由からです。

  しかし、義務を果たす、履行するというのは、たいていの場合面倒でいやなことですので、常に義務が果たされるとは限りません。

そのような場合、確実に公共の利益を確保するには、国民が義務を果たすことを怠っていることに対して、行政庁は、必要なことを強制する手立てをとらなければならなくなります。

  そこで、今日は、行政庁が必要なことを強制する手立てである①行政上の強制手段とは、②行政上の強制執行――についてお話しします。

 

Ⅰ.行政上の強制手段とは

  さて、国民が義務を果たさなかった場合というと、とても大変なことのように感じますが、駐車禁止の道路に、ちょっとだけだからと駐車してしまったり、●月●日に納付期限の税金を納付するのを忘れてしまったりすることとか、誰しもありますね。

  しかし、確実に公共の利益を確保するには、そのような日常よくありそうなことも含めて、国民が義務を果たすことを怠っている場合は、行政庁は必要なことを強制する手立てをとることになります。

  さらに、行政目的を達成するには、義務を果たしてください――と命じる余裕のないことさえあります。
例えば、火事が起きた時に延焼を防ぐために燃えやすい物を撤去するとか、伝染病に感染した人を他の人から隔離するという緊急事態の場合です。
燃えやすい物の所有者や、感染の疑いのある人の自発的な行動を待っていたのでは手遅れになってしまうので、このような場合は、行政庁は強制手段を採ることができる――とされています。この強制手段を行政上の強制手段と言います。

  行政上の強制手段は、直接的なものから間接的なものまで様々ありますが、その特徴は、行政庁が自らの判断で行うことができることです。私人の場合、権利者が自分の権利を実現することは、例外的な場合以外は認められていませんでしたね。自力救済は禁止でした。

  しかし、行政庁には、自力救済の禁止が必ずしも妥当しないのです。その理由は、まずは公共の利益である行政目的を達成する必要性があるからです。また、裁判所の負担を軽減するばかりでなく、行政の効率化にもつながります。

  もう一つ、行政庁に自力救済ができる理由は、行政庁が強制をするに当たっては、専門家が法律が定めた手続きのもとで行うので、強制の過程で間違いが起きたり、やり過ぎて必要がない害を相手に与えたりすることが、起きないであろうと考えられているからです。

 

Ⅱ.行政上の強制執行

行政法119-1

  行政上の強制手段は、大きく分けて

①行政強制

②行政罰

③行政罰以外の制裁手続――に分けることができます。

  まず、行政強制を見ていきましょう。行政強制とは、必要な状態を実現するための作用の一つです。そのうちでも、特に人の身体または財産に実力を加えたり、義務者に心理的強制を加えたりといったように、国民の身体または財産に強制を加える作用のことです。

  行政強制は、行政活動の中でも特に国民の権利利益に対して与えるインパクトが大きなもので、一歩間違えば、重大な人権侵害を引き起こします。それでも、行政強制は行政行為の目的達成のためには必要なものなので、執行するためには、特に厳重な制約を加えています。

  厳重な制約とは、まず、①常に明文の根拠が必要です。場合によっては、②令状の発付などの司法権の介入も必要です。

  行政強制は、さらに、

①行政上の強制執行

②即時強制――に分かれます。

  ①の行政上の強制執行とは、行政法上の義務の履行に対し、行政権の主体が将来に向かい、実力を持って、その義務を履行させ、またはその履行があったのと同一の状態を実現する作用です。

  この定義の中で重要なのは、「義務の不履行に対し…実力を持って…義務を履行させ…る」という部分です。即時強制、行政罰、その他の制裁手段のいずれとも異なるのは、強制執行の強制手段が、法律の規定や行政行為を根拠として、すでに発生した義務の履行を確保するためのものだという点です。後で勉強する即時強制は、義務の発生を前提としませんし、行政罰やその他の制裁手段は、義務の不履行に対する制裁にすぎず、不履行の解消を目指すものではありません。

  ところで、行政上の強制執行が、法律の根拠を常に必要とすると言いましたが、その根拠となる一般法はありません。
行政上の強制執行は、①代執行、②執行罰、③直接強制、④行政上の強制徴収――に分類できますが、一般法の定めがあるのは代執行(行政代執行法)だけです。その他の手段、特に直接強制や執行罰は、個々の法規に根拠規定があります。詳しくは、次回からの各強制手段で解説します。

  最後に、行政上の強制執行と民事上の強制執行との関係をもう一度確認しておきましょう。行政上の強制執行が認められている場合には、あえて民事手続きによる強制執行を行う必要はなく、また、判例でも民事上の強制執行は認められていません。

  一方、行政上の強制執行が認められていない場合は、行政法上の義務の履行を確保する必要があるので、民事上の強制執行を認めなければならないと言えます。ただし、常に行政上の義務を民事手続きによって強制できるわけではありません。

例えば、条例で建築制限を設けたがこれを無視して建築が実行された場合に、法律上の争訟性を欠くとして、民事訴訟による建築工事の続行禁止を求めることはできないとの判例があることを覚えておきましょう。

行政法119-2

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