第118回 行政行為の附款

  行政行為には、何らかの条件が付けられることがあります。
例えば、自動車運転免許を与える場合に、メガネなどをかけて視力の矯正をすることが求められることがこれに当たります。

このように行政行為につけられる条件のことを附款(ふかん)と言いますが、今日は、①附款の定義、②附款の許容性と限界――についてお話しします。

 

Ⅰ.附款の定義

  行政行為の附款の定義は次のようなものです。

①行政行為に附加された従たる意思表示、かつ、

②行政行為の効果を制限するもの

  まず、主たる意思表示とは何かを説明します。主たる意思表示とは、権利義務を発生させるなどの行為の目的が現れた部分です。
例えば、運転免許なら、公道を自動車で通行できるという部分です。これに付けられた条件(眼鏡使用)が、従たる意思表示=附款で、権利義務の発生などの特別な効果の発生が制限される結果になります。

分かりやすくいえば、一般で言われている条件とほぼ同じです。法令上も「条件」と規定されていることも少なくありません。

  附款にもいろいろ種類がありますが、まず、

①条件

②期限――から説明します。

どちらも決まった事実が起きることで、行政行為の効果が発生したり、消滅したりするものです。

  ①の条件は、例えば、バスの運行許可を与える場合に、道路工事の完成をきっかけにバス運行事業の認可を行う――とする場合や、指定された期間内に運行開始をしないと効力が失効する――とする場合の、「道路工事の完成」「期間内における運行開始」に当たる部分が条件です。
このような事情が発生した時点で、認可の付与という効力が発生したり、消滅したりするわけです。この時、事実の成立によって効力が発生する場合の条件を停止条件、効力が消滅する場合を解除条件と言います。

  今お話ししている行政学上の条件は、日常使っている条件という言葉と違って、行政行為の有効無効に影響を与えるものに限られる点に注意してください。

  次に②の期限も、行政行為の効力の変動にかかわるものです。期限と条件の違いは、期限は効力の変動の成立が、確実な事実にかかるという点です。

そして、期限には

a始期

b終期――があります。

始期は行政行為の効力の発生にかかるもの、終期はそこで行政行為の効力が消滅するものです。例えば、道路の占有許可を2012年3月1日から同月31日まで認めるという許可が出た場合、3月1日の到来が始期、同月日の終了が終期になります。

  さて、条件と期限は行政行為の有効・無効に影響を与えるものでしたが、このほか、行政行為の相手方に特別の義務を命じる附款として、

③負担――があります。
例えば、自動車運転免許を与えるにあたって、運転の条件としてメガネ等を命じることがこれに当たります。

日常会話では、これも条件ということがありますが、行政学上では負担と言います。仮に視力矯正が条件であるとすれば、視力を矯正しなければ自動車運転免許の効力も発生しないことになります。でも、実際は違いますよね…。負担は内容がきちんと果たされなくても、直ちに行政行為の効力が消滅するわけではない点に特徴があります。

これ以外にも附款には、

④撤回権の留保

⑤法律行為の一部除外――があります。

  ④の撤回権の留保は、後に行政庁の撤回により行政行為の効力を否定することがあり得ることを明らかにするものです。
例えば、公共用物の使用許可をするに当たり、公益上必要あるときは、許可を取消すことがあることを付け加えることが、これに当たります。

とはいえ、この撤回権の留保には、それほど重要な意味はないと言えます。それは、すでにお話ししたように、行政行為は公益のために必要あるときは、いつでも行政庁の裁量で撤回することが可能です。つまり、特別に撤回権留保の附款をつけても、特別の効力が発生するわけではありません。

  ⑤の法律効果の一部除外は、法令が一般的にその行為に付した効果の一部の発生を附款によって妨げるものです。
例えば、公務員の出張に旅費を支給するはずのところ、実費を超えることを理由に一部支給しないものとしたりすることです。

ただし、法律が定める効果の発生を行政庁の裁量だけで妨げることはできないので、法律効果を一部除外するには、法律による根拠が必要です。つまり、そのための法を作らなければなりません。

 

Ⅱ.附款の許容性と限界

  法律効果の一部を除外するには、法律の根拠を要すると言いましたが、もちろん、ほかの附款も自由に、勝手につけられるというわけではありません。ほかの附款も法律の行政の原理が当てはまり、法律の枠内であることが求められます。

  具体的に附款を付すことができるためには、法律の明文があればもちろん可能です。法律に規定されていない場合でも、行政庁に行政行為をするに当たって裁量が与えられていることが必要です。附款は行政行為の効力の決定や国民の権利義務の発生を、行政庁の意思によって行うものです。したがって、附款を付けるには行政庁に意思形成の自由が認められる場合でなければなりません。

  つまり、附款を付すというのは、行政庁の裁量権の行使の一つと言えるのです。そこで、附款の限界には、裁量権の行使の限界の法理が当てはまります。

例えば、バスの運輸事業の免許を与えるに当たって、指定期間内に運行を開始しないとその効力は失効するという条件を付した場合、その期間があまりに短期間で、事実上の不許可と同様の意味がある場合、附款を期したことに対して裁量権の逸脱・濫用が認められることがあり得ます。

附款を付けるという裁量権が争われた判例を一つ紹介します。
駅前広場における建築物の建築許可申請に対し、必要があるときは無償で物件を撤去する等の条件を付したうえで、建築許可をすることの違法性が争われた事例です。

この事例の争点は2つ、

①撤回権の留保ができるか

②撤回に当たり物件を無補償で撤去しなければならないとした点に裁量権の逸脱、濫用が認められないかどうか――です。

判例は、このような附款を付けることは違法でないとしました。列車は多くの市民が利用する運送手段で、駅を利用しやすくすることと、駅前広場の利用方法をどうするかには、深い関係があります。駅前広場の合理的な利用は、公共の利益の確保のために欠かせません。

とすると、一時的に建築の許可が与えられても、駅前広場の合理的な利用のためにその土地が収用され、その結果、今回建築された建築物の撤去が必要になることは、誰の目から見ても必要ですし、そのような措置を採る必要もあると言えます。

ということは、必要があれば無償で撤去するという附款を付けて建築許可を与えるということは、合理的な都市計画の一環として駅前広場設定事業の実施には、必要だったと言えるということです。また、建築主も、そのことを覚悟の上で建築したはずです。それが嫌なら、最初からその土地に建築物を建てることをしなければいいのです。

  さて、附款は一つの裁量権ということになると、附款を付けられる行政行為は法律行為的行政行為であるということになります。それは、準法律的行政行為には裁量が認められないからです。

  しかし、実際上には、準法律行為的行政行為に附款を付けることがまったくできないというわけではありません。
例えば、手数料の発生を条件に、ある申請を受理したという効果を発生させる場合に、手数料の納付は負担の意味を持ちます。

  では、建築確認を受ける条件として当該建物の建築についての周辺住民の同意を条件とした場合はどうでしょう? 

答えはNG、違法になります。その理由は、建築確認はあくまで申請された建築物が建築基準関係規定に適合するかどうかを確認する作業にすぎません。住民の同意は、建築基準とは関係ないことです。ですから、このような条件を付すことは、法律上、行政庁には認められず違法と言えます。

  この例のように附款が法令に違反したり、附款の付与における裁量権の行使に逸脱・濫用が見られることを「附款に瑕疵がある」と言います。

  附款に認められる瑕疵が行政行為にどのような効果を及ぼすかは、しばしば争われることがあります。附款そのものが無効の場合、本体である行政行為の効力がどうなるかが問題となります。

このような場合、基本的には、附款が行政行為において重要な要素かどうか――によって判断されます。附款に重要な要素がない場合には、附款のみが無効となります。
例えば、自動車運転免許の付与に当たり、免許申請者の視力に問題がないのに、メガネ等の負担を付けた場合です。この場合は、附款は無効となりますが、免許自体の効力はそのまま維持されますね。

一方、道路の占有を認めるに当たり、期限が無効という場合、期限だけ無効になったのでは、占有は無期限に有効になってしまいます。この場合は、附款が重要なものとして、当然、行政行為自体が無効になるでしょう。行政庁は、改めて有効な期限を付した道路の占有許可を与えなおすことになります。

  以上を見ても分かるように、条件、期限は重要な附款として行政行為本体の効力に影響を与えることが多く、これに対して、負担はそれほどでもないと言われています。

  行政庁の立場になって言い換えれば、附款が重要でないものは附款だけを取消すことができ、附款が本体である行政行為と不可分である場合には附款だけの取消しはできないと言えます。

行政法118-1

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