第117回 行政行為の取消し・撤回

  今日も行政行為のお話です。前回の続きです。

今日は、瑕疵ある行政行為の取消し、と言っても行政庁自身による①職権取消しと②行政行為の撤回――について解説します。

 

Ⅰ.職権取消し

  行政行為に違法な点がある場合には、私人が、それを主張して取消すことができることを前回お話ししましたが、私人からの主張を待たず、行政庁の判断だけで取消すこともできます。

  行政庁の側で、ある行政行為は違法であると気づいた場合に、私人からの主張を待たずに取消しが行えた方が、法の遵守という観点から望ましいと言えます。さらに、違法な状態が迅速に解消されるべきだからです。

  また、私人からは判断の誤りの可能性がある、不当だというだけでは、行政行為の取消しを求めることは難しかったのでしたね。しかし、行政庁という専門家の判断から見て行為が不当だと気づいたなら、行為の効力を否定できた方が合理的です。
そこで、行政庁は、行政行為が不当と判断した場合は、違法と判断されない場合でも行政行為を取消すことを可能にしました。

  このような行政庁の判断に基づく取消しは、行政不服申立てなどの私人の申立てによる取消しと区別するために、職権取消しと呼ばれます。

  職権取消しの定義を次に記しますので、しっかり覚えてください。

行政行為に

①取消原因が存在する場合

②権限のある行政庁がその法律上の効力を失わせ

③既往にさかのぼって初めからその行為が行われなかったと同様の状態に服させる行為  

  定義をもとに、職権取消しの特徴を見ていきましょう。

  まず、取消しの対象は当初から違法などの瑕疵がある行政行為です。そのうち、国民からの請求に基づかないものを職権取消しと言います。

これに対して国民からの請求により行政行為を取消すものには、行政不服申立て、行政訴訟による争訟取消しがあります。

 そして、以上の取消しには遡及効が認められます。

 ところで、職権による取消しの権限は、法律による根拠が必要なのでしょうか?

法の一般理論によれば、ある行為ができる者には、それを取消すことが認められるといわれています。民法なら、契約の申込みは申込者の側から撤回することが認められています。

  また、違法状態とは法律による行政に反する状態と言えますし、不当な状態も行政目的に違反した状態です。これは、速やかに排除されるべきなのに、法律の根拠がないと排除できないのは、おかしな話です。さらに、排除されても元に戻るだけですから、基本的に弊害はありません。

  つまり、少なくとも処分庁が取消す場合には、法律の根拠は必要ないと言われています。

  これに対して、監督行政庁による取消しが行えるかという点は、解釈の仕方が2とおりあります。

まず、監督行政庁は、あくまで監督をする官庁であって、処分そのものをする権限があるとは限らないので、取消す権限はないと考えることができます。

  一方、取消し対象になる行政行為は違法か不当かのどちらかなので、処分庁に対してある行為を取消すよう命じるより、直ちに取消しをした方が速やかに違法または不当な状況を解消できます。徹底した監督を行う上でも、監督行政庁が取消しができた方が望ましいとも考えられます。

  現在の通説では、行政行為の職権取消しは、監督権限の中に含まれ、監督行政庁は明文の根拠がなくても行政行為を取消すことができるとされています。

  ところで、行政庁の行政官は専門的知識があるということから、行政庁による行政行為の取消しは、取消訴訟などに比較して広く認められています。つまり、公定力や不可争力による制限を受けませんし、不当行為も取消しの対象になります。

  それでは、職権取消しに何の制限もないかと言えば、そうではなく、例えば、審査請求に対する裁決のような不可変更力ある行政行為は、原則として取消しができません。裁決は紛争を解決するための基準を明らかにするためのものですから、これがしばしば取消されることになると、事件の解決ができません。したがって、不可変更力のある行政行為の取消しはできません。

  また、受益的行政行為も原則として取消せません。たとえ行政行為に違法な点が認められても、それが行政側にあるという場合に任意に行政行為を取消すと相手方の信頼を害するからです。
例えば、条件が満たされていないのに、公共施設である文化会館の利用許可を与えてしまった場合、一方的に簡単に取消すというわけにはいかないということです。施設が使える――とぬか喜びさせるのもよくないし、当日のチケットの販売を開始していたりしたらなおさらです。さらに、満たされていない条件も大したものでなかった場合もあるからです。

  この場合、行為の成立に相手方の不正行為が関わっているときには、相手方を保護する必要がないので、取消すことができます。

また、相手方に責められるべき事情がなく、その信頼を犠牲にしてもなお取消しを認めるべき公益上の必要性がある場合にも取消しが可能です。

  なお、免許の停止、営業停止などの侵害的行政行為は、自由に取消すことができます。取消しにより私人に不都合は生じないから、できるだけ早く問題を解消すべきだからです。

 

Ⅱ.行政行為の撤回

  行政行為の取消しと同じく、行政庁がその判断で行政行為の効力を否定するものとして、行政行為の撤回があります。

  行政行為の撤回の定義は次の通りです。

  行政行為に

①新たな事由(義務違反、公益上の必要性等)が発生した場合に、

②将来にわたりその効力を失わせるためにする行政行為

  行政行為の取消しとの違いを確認してみましょう。

  まず、撤回の原因は、撤回の対象になる行政行為が行われた当初に存在する必要はありません。
例えば、もともと自動車の運転免許が与えられる条件がそろっていないのに、なぜか免許が与えられてしまった場合は、免許を取消すべきですが、免許を受け取ってから、重大な交通違反をしたという場合は、この時点で免許の効力をなくするものです。つまり、これは撤回に当たります。よく、交通違反では、免許の取消しと言いますが、行政法学上では、取消しではなく撤回に分類されますので、注意してください。

  また、このことは、撤回のもう一つの特徴が、撤回があってから将来に向かって行政行為の効力が否定されることでも分かります。運転免許を取消したという場合、もしこの取消しに遡及効があるとすれば、取消しまでにした運転はすべて無免許運転になってしまいます。これはおかしいですよね。ですから、運転免許の取消しは、行政学上は取消しでなくて撤回なのです。

  このほか、取消しと撤回の違いとして、撤回を行える権限が認められる者は、原則として処分行政庁だけです。取消しの場合、監督行政庁にも認めるのが通説でしたね。撤回が監督行政庁に認められていないのは、撤回は新しい行政行為を行うことだからです。

  また、撤回は取消しと同じく行政行為の効力を否定するものなので、取消しと同じで制限される場合があります。特に授益的な行政行為については撤回が制限されます。

では、公益を確保するために授益的行政行為もが、制限されるとしたら、損失補償してくれるのでしょうか? これについての判例をご紹介します。

撤回があり得ることは私人も覚悟できることから、私人は撤回に備えた措置を採るべきだし、公益の実現のためには保障の必要がないとすることが必要かつ相当と言えるので、損失補償は不要。

分かりにくいので、例を挙げます。

市役所の一室が空いているからということで、特別に店舗としての使用を認めていたところ、執務室として使う必要が出てきた場合、使用許可を撤回するには、法的根拠も必要なければ損失の補償はいらないのが原則と言えるということです。

行政法117-1

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