第114回 行政裁量権の逸脱・濫用の判断基準

  前回、行政裁量とは何かをお話ししましたが、その後半でも触れた行政裁量権の逸脱や濫用について、もう少し詳しくお話ししたいと思います。

  さて、前回お話ししたように原則として行政行為が、司法審査に服し違法と判断されることがあり得るとなると、現実問題として、どんな場合に違法と判断されるかということが、重要になってきます。

  そこで、ここでは、行政行為の適法性を判断する基準について考えてみましょう。
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まず、その基本は、行政行為が行政裁量を逸脱したり、裁量権の行使の濫用があった場合は、その行政行為は違法となることです。逸脱・濫用のない行政行為は、裁量の範囲として、行政庁の自由な判断に任され、当・不当の問題が発生するのみです。

  次に、その判断においては、まず前提として当該行政行為の裁量権が狭いか・広いかを判断します。そしてそれに基づいて裁量の逸脱や濫用のあるなしの判断をします。

  では、具体的に裁量権の逸脱や行使の濫用といえる場合とはどんな場合でしょう。

1つは、重大な事実誤認です。例えば、人違いなど…。人が違えばその行為がまったく理由なきものとなるのは、民法の契約でも当事者違いは、契約が無効となったことを思い出してください。

次は、目的違反または動機違反です。
具体的には、行政庁の判断が法が授権した本来の目的から逸脱した判断をしたとか、不正な動機に基づく場合には、行政処分は違法となります。

例を挙げると、組合活動の抑制を図る目的で行われた組合活動家である職員に対する転任処分とか、個室付浴場の開業を阻止するための隣接地への児童遊園設置認可処分などが判例上存在します。

  このほか、行政処分を行うに当たって、考慮すべきでない点を考慮して判断をしたという他事考慮も、目的違反や動機違反の一種と見ることが可能です。

  さらに、合理的な理由もないのに国民に異なった扱いをしてはならないという平等原則違反が考えられます。
例えば、行政指導のいかんによって同じに扱われるべきものが事実上は異なった扱いを受けていたとしたらどうでしょう? 憲法違反と言えますね。

  また、例えば、些細な不正に対して不当に苛酷な懲戒処分を行う比例原則違反もあります。権利の制約は、発生する害悪の程度に応じて必要最小限度でなければならないとするもので、いわば権力が権利の制約をしすぎることを防ぐための原則です。

  最後に人権侵害があります。国民の権利を侵害するような行政処分は、違法と評価されるのは当然のことですが、特に人権は権利利益に比較してその制約が違法につながりやすいと言えます。

  以上が裁量の逸脱・濫用が見られる主な場合ですが、これらは行政処分の内容に着目してのものです。

  しかし、行政処分のうち自由裁量行為については、処分の内容が専門的な判断によって行われるので、裁判所が処分内容の適法性を判断するのは、実際には困難です。だからと言って、裁判所がまったくの素人だから内容については分からないから、すべて合法というのでは、国民の権利の救済が十分できませんね。

  そこで、処分の内容ではなく、判断形成過程に視点をずらして、その合理性を審査することがあります。このような判断方法を判断過程審査と呼びます。

  先ほど、目的ないし動機違反の中に出てきた他事考慮は、一般にはこの判断過程審査の一種とされています。つまり、判断の過程において、考慮すべき点を考慮していないとか、考慮すべきでない点を考慮して判断したと認められる場合、その結果として行われた行政処分は違法――とするものです。

  またさらに、判断過程において、行うべき事前手続きが取られていないとか、これが不十分であるということから、その結果行われた行政処分の効力を否定する方法も存在します。

行政庁は申請に対する処分のような場合には、内部的な審査基準を設定し、その基準の適用に当たって必要な事項を申請人に対して示す必要があるとされています。決めた基準に従って判断されていることが分かれば、不当なえこひいきや差別が行われていない――と言えます。

判例は、タクシー免許の申請人には、上記のような公正な手続きによって免許の拒否について判定を受ける法的利益があるとして、上記手続きを欠く義務違反があるままに行われた行政処分を違法としました。

  なお、後の回で勉強する行政手続法は、今解説した判例の法理を取り込んで制定されたもので、手続き面から裁量処分へのコントロールを強化しようとするものだと言えます。

  また、行政処分の不作為が違法とされることもあります。抗告訴訟でも、義務付け訴訟、不作為の違法確認訴訟は、この点を前提としています。まず、法令が効果裁量を否定している場合には、要件がそろったら、これに対応する措置をとる義務が行政庁には発生します。この場合は不作為が違法になります。

  しかし、効果裁量が認められている場合は、要件がそろっても対応する措置をとらなくてもいい場合があります。つまり、絶対的ではありませんが、自由裁量行為は不作為が違法となりにくいと言えます。

  なお、現在では、国民生活が大幅に行政活動に依存していますから、行政の不作為が国民生活に支障を発生させることは必須です。そこで、効果裁量を認められている場合でも、不作為を違法とする判例も示されています。

具体的には、不作為の継続が著しく不合理と評価される場合には、裁量権限界の逸脱=違法性があると見なされます。

行政法114-1

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