第112回 行政行為の効力

  行政行為は10に分類できることを前回お話ししましたが、今回は、行政行為の効力である①公定力、②公定力の限界、③行政行為のその他の効力――についてお話しします。

 

Ⅰ.公定力

  行政行為の効力には、まず、当然に国民に権利を与えたり義務を発生させたりする効力がありますが、これだけでは民法の法律行為と同じで、取立ててお話しするほどのものではありません。そこで、国や公共団体と国民間の法律関係における、行政行為の特殊な効果についてお話ししたいと思います。

  行政行為特有の効果としてまず挙げなければならないのが、公定力です。公定力とは、違法な行政行為でも、どんな人もその行政行為の効力を無視することはできない――という効力のことで、効力を否定するためには、取消し権限がある国家機関による取消しが必要です。行政行為の相手方が第三者や他の国家機関でも、もちろん効力を無視できませんし、違法な行政行為でも行為の効力が無視できないということは、違法でも有効として扱われるということです。

  つまり、行政行為の拘束力を強要する力が公定力と言えます。

  一般原則からすると違法な行為は無効なはずなのに、行政行為にこんな危険な効力を認めてよいのでしょうか? 
答えは大丈夫、権限ある機関が取消せば、行政行為の効力も取消せます。言い換えれば、違法な行政行為も当然に有効ということではなく、効力を否定するには条件が必要であり、誰でも否定できるわけではないのが公定力です。

  ここで、民法における取消しと行政行為の取消しを比べて見ます。民法の世界では、取消し得る行為は例外として決まっていて、取消権がある人が取消すまで効力が有効でした。あくまで、例外だったのです。一方、行政行為は、通常、取消し得る行為として扱われています。

この結果、例えば、農地について違法な買収処分が行われ、転売された場合、民法の世界なら、法律行為が無効である以上、物権的請求は返還が求められます。取消しも返還請求と同時に行えば足ります。

しかし、農地の違法な転売が行政行為だった場合、公定力働く結果、違法な処分も有効なままですから、所有権は転得者の下にあることになります。そこで、農地を取り返すためには、まず前提として不服申立て、取消訴訟――などの手段を用いて処分を取消しておく必要があります(詳しくは、行政救済法で解説します)。

  では、一体なぜ行政行為がこのような特別な取扱いをされるのか考えましょう。

  その理由の1つに、行政行為が違法かどうかの判定は難しいことが挙げられます。行政行為をするのは国や公共団体である行政庁です。行政庁には裁量が認められていましたね。この裁量の範囲にある場合は、例え不当であっても違法とはされません。そして、裁量の範囲の判断は非常に難しいのです。それは、行政行為が公益を確保するための特殊な行為だからです。

  また、違法であれば誰でも行政行為を無効と主張できることにすると、誤解や私欲などに基づいて、有効な行政行為まで無効を主張する人が次々と出てくるおそれがあります。これでは、円滑に事務処理が進まず、行政行為の目的の達成が困難になることも、行政行為に公定力を認める理由の一つと言えます。

  以上のことから、行政行為の目的達成のため、行政行為は権限ある国家機関が取消すまで一応効力を温存さするものとされていますが、単に効力を否定できないというだけです。したがって、決して違法な行政行為を適法としているというわけではありません。

言い換えれば、公定力とは効力を否定することに対して、法律で条件が付けられた結果、反射的に生じる効力です。

 

Ⅱ.公定力の限界

  前述のように、公定力は違法な行政行為を適法と評価するものではありません。行政行為の効力が否定されなくでも目的は達成できることから、国家賠償請求や刑事裁判で行政行為の違法性を認定するだけなら、行政行為の取消しは必要ありません。

  また、複数の行政行為の間には、先行処分が後行処分の準備行為にすぎないことがあります。
例えば、土地収用手続きにおける事業認定とそれに続く収用裁決は、事業認定がなければ収用裁決をすることができません。この場合における2つの行政行為の関係は、本来はそれぞれ別個の行為です。ですから、その効力は別個に考えるべきですが、実際は、事業認定が違法なら、あとに続く収用裁決の効力も認められません。

  これを違法行為の承継と言い、前提とする行政行為が違法であることを理由に、その後の行為の効力を否定することが認められています。違法行為の承継の結果、違法と思える先行処分に公定力・不可争力があっても、それに関わらず、後行行為について争えることが可能になります。つまり、後行行為を争う訴訟で先行行為の違法性を認定できるわけです。

  本来は、先行行為そのものを取消し訴訟などの然るべき手続きにより争うべきで、先行行為の取消手続の利用可能期間経過後には、もはや争えなくなる(不可争力)事案でも、違法行為の承継で、その例外を認めさせることが可能になります。すなわち、先行行為が公定力を理由に争えない場合に、後続処分を争う機会を広げて、国民の救済を図ることができます。

  しかも、公定力は、行政行為が違法であることの判断が難しいことに対して認められたものなので、違法であることが誰の目からも明らかな場合は、公定力を発生させ無効の主張を制限することができないのは当然です。

  したがって、瑕疵が重大かつ明白な行政行為に公定力は発生しません。後述する取消訴訟によって効力が争えなくなる不可争力も発生しません。

 

Ⅲ.行政行為のその他の効力

  行政行為に認められる特殊な効力はまだまだあります。まず、前述に出てきた不可争力です。これは、一定の期間が経過すると行政行為に問題があっても、私人の側から行政行為の効力を争うことができなる――という効力のことです。

  これは、一定の期間の経過によって行政行為の効力が然るべき手続きによっても否定できなくなることで、行政上の法律関係を早期に確定させるためのものです。後になってから行政行為が無効となって、それが前提で行われた他の行政行為に影響が出ることや、迅速に行政目的を達成するために必要なのが不可争力と言えます。

  不可争力が発生した行政行為は、不服申立てによる取消しや取消訴訟による取消しができなくなります。

  ただし、不可争力が発生したからといって、違法な行政行為がそのまま通用するわけではありません。過ちを改めるには、行政庁が職権で行政行為を取消し・撤回することは可能です。あくまで、私人である国民側から争えなくなるだけです。また、重大な瑕疵が認められるような無効な行政行為には不可争力は発生しません。

  次に、自力執行力についてお話しします。行政行為には少なからず権力的な色彩が見られます。行政行為によって発生した義務を国民が履行しない場合、行政庁自らが義務者に対して強制執行をして、義務の内容を実現することができますが、このことを自力執行力と言います。私人なら、自力救済は禁止されますが、行政庁はそうではなく、義務の実現に裁判所を介する必要がありません。

  自力執行力により裁判をする必要がないので、迅速に義務が実現し、行政目的を早期に実現できます。また、裁判所を介する必要がないので、裁判所の仕事の軽減にもつながります。

  民主的コントロールが働くのか少し心配になってきますが、行政活動は法律を通して民主的にコントロールされていますし、行政庁には専門的知識もあります。そこで、私人が非常手段に出るのと異なって、やり過ぎや間違いが起こる可能性は低いと言えます。行政目的という公益の早期実現と天秤にかけて、特別な扱いが認められていると考えられます。

  これにまつわるものとして、執行不停止の原則について少しお話しします。これは、行政行為に対する不服申立て・抗告訴訟を提起しても、原則として自力執行力は妨げられないという効力のことです。後で詳しく解説しますが、不服申立てが執行を妨害する手段として使われることを防止し、円滑で迅速な行政目的を達成するためのものです。これも公定力や不可争力と同じで、行政目的達成のため、特別に認められる原則の一つです。

  ところで、自力執行力が発生する行政行為の特別なものに警察などによる捜査があります。これは、裁判所による令状は必要ですが、行政官自身による強制が認められています。このほかにも、職務質問などの行政警察活動は、公権力の行使としての行政活動そのものです。

  ただし、自力執行力は、公定力や不可争力と異なり、行政行為に当然に与えられるものではありません。その性質上、下命・禁止などの義務を課す行政行為に限って発生します。また、このような行政行為なら何でも自力執行力が発生するわけではなく、法律による明文の根拠がある場合に限られます。

  さらに、行政行為の特殊な効力として、不可変更力や実質確定力――のような一度なされた行為の変更が許されないとする効力があります。不可変更力とは、行政行為をした行政庁が自らこれを変更することが許されない効力です。実質確定力とは、ある行政行為が処分庁だけでなく上級行政庁や時として裁判所まで拘束する効力のことです。

  行政行為は、行政庁が自由に取消しや撤回できるのが原則です。しかし、行政行為のうち特定の種類のものは取消しや撤回ができません。

特定の種類のものには、

①異議申立てに対する決定

②審査請求に対する裁決――などが挙げられ、紛争を終結に導くためのものです。それぞれの内容については、行政救済法のところで解説します。

紛争を終結に導くための行為に変更が許されないのは、事件の解決という行政行為の目的を達成するためです。

  最後に、行政行為には、法律関係を変動させるほか様々な効力がありますが、その効力が発生するのは何時かということも重要です。基本的には民法と同じく到達主義が採られています。

行政法112-1

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