第107回 行政法総論

   今回は、行政法総論をお話しします。便宜的に行政法総論としましたが、あくまで、行政法における指導原理などの一般的内容です。

 ①行政とは何か、②法律による行政の原理、③行政法の法源――について解説します。

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Ⅰ.行政とは何か

  もう一度、行政とは何かについて考えてみましょう。憲法の学習でもお話ししましたが、行政は国家作用から立法、司法を除いたものです。
行政の定義がはっきりしていないのは、ゴミ処理のようにとても身近なことから外交や国防などまで、行政の範囲はとても広く、行政が行うべきことが多種多様すぎて、これらをもれなく定義することができないからと言えます。

  行政を学問として学ぶとき、ある行政作用をどう扱うかについて、その作用によって

①規制行政

②給付行政――の2つに分類することがあります。

  規制行政とは、国民の権利・利益を制限する行政活動のことで、例えば、租税の賦課・徴収、建物の建築規制――などがこれに当たります。

  一方、給付行政とは国民に一定の権利・利益を与える行政活動のことで、例えば、補助金や生活保護費の支給、公共施設の提供、道路・公園などの設置・管理――などが該当します。

  この分類は、行政の適法性の判断(法律の根拠の要否や行政庁の裁量の広さ)目安と関係します。

例えば、行政による国民の権利の侵害の防止や国民への福祉の実現の面からみると、①の規制行政は、国民の権利の侵害につながるので、はっきりとした法律の根拠が必要ですし、行政裁量は狭くなります。これに対し②の給付行政は、必ずしも法律の根拠は必要ないし、行政裁量も広く、その作用が違法につながることも少ないと言えます。

  もっとも、この区分は絶対的なものではありません。それは、ある国民にとって利益ある行政作用が、他の国民にとっては侵害に当たる場合があるからです。例を挙げれば、建築確認が出てビルが建築された場合に、日照や景観の面で近隣住民に不都合が生じた場合などです。

  このような場合には、行政作用の効果は、国と国民の関係だけでなく、国民と国民の関係の利益調整にも及ぶこととなり、それが問題となる場合があります。

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Ⅱ.法律による行政の原理

  行政法は、数多い行政法規の総論、通則を明らかにするものとお話ししましたが、行政法の重要な原則は「法律による行政の原理」です。法律による行政の原理とは、行政活動は法律の定めるところ、法律に従って行わなければならない――という原則です。

  この法律による行政の原則の意義には、①自由主義的意義、②民主主義的意義――の2つあります。①自由主義的意義とは、公権力の国民生活に対する恣意的介入を防ぎ、国民の自由・権利の保護を図ること、②民主主義的意義は、行政活動を民主的コントロールの下に置くこと――です。

  そして、法律による行政の原理の内容は

①法律の優位

②法律の留保――の2つです。

  ①法律の優位とは、法律の根拠があるからといって、いくらでも自由に行政活動を行えるわけではなく、あくまで、行政活動は法律に触れない範囲で、法律に従って行われなければならないということ、②法律の留保とは、行政活動には法律の根拠が必要ということ――です。

  国民の権利や自由を守るためには、国民の代表機関である国会が制定した法律によって権利や自由のルールを制定すべきであることは、憲法でも学習しましたね。これは、行政は、国会と法律を通じて国民がコンロトールしていることにほかなりません。つまり、国民の権利と自由が確保されていると言えます。

   次に、行政法の一般原則を紹介します。主な原則は、5つです。

①信義誠実の原則(信義則)

②権利濫用の禁止の原則

③比例原則

④平等原則

⑤アカウンタビリティの原則

  ①の信義則は、民法1条2項に定められていましたね。相互に相手方の信頼を裏切らないよう行動すべきであるという原則で、行政上の法律関係にも適用されることがあります。

  ②の権利濫用の禁止の原則も、民法1条3項に定められていました。この原則も行政庁と国民の間の行為にも念頭に置かれています。

  ③の比例原則とは、目的と手段の均衡を要求する法原則です。不必要な規制や過剰な規制を禁ずるもので、ある目的を達成するために規則効果は同じであっても、規制される利益に対する制限の程度がより少ない他の手段が存在する場合には、その規制は許されないという原則です。

  ④の平等原則とは、行政機関が合理的な理由なく、国民を不平等に取り扱ってはならないという原則です。

  ⑤のアカンタビリティの原則とは、情報公開法の1条に規定され、政府等の諸活動を国民に説明する責務がまっとうされなければならないという比較的新しい原則です。

  ところで、法律による行政の原理は①法律の優位と②能率の留保――と言いましたが、2つの原則の適用範囲は異なります。

  行政活動には常に法律の根拠が必要かといえば、必ずしもそうではない場合があるのです。

法律の根拠が必要なのは、国民の権利の侵害を防ぐためなので、国民の権利や自由とは関係ない行政活動や、侵害の及ぶ可能性の少ない行政活動については、必ずしも法律の根拠は必要としないと考えられています。その理由は、いちいち法律の根拠を必要とすると柔軟で急を要する行政活動の遂行に支障を来す場合もあるからです。
具体的には、警察や消防などの急を要する活動や、ゴミ処理などを考えていただければ分かると思います。法律に縛られて円滑に行政活動が行われないと、かえって国民生活に支障が出てしまいますね。

そこで、行政活動のうちの給付行政の一部や、行政内部における事務連絡、行政から事実上の国民への働きかけである行政指導などは、法律の根拠はいらないと言われています。

ただし、法律の根拠がいらない行政活動も、法律に違反することは許されませんので、法律優位の原則は常に働いていることになり、当てはまる範囲は、法律優位の原則が法律留保の原則よりも広いと言えます。

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Ⅲ.行政法の法源

  行政法は憲法と同じく公法に分類されます。これは、民法や商法などの私法に対する分け方ですが、公法と私法がまったく別個独立して存在しているわけではないと考えられています。国・公共団体と国民との間に適用される特別の原理を採用した法律が採用された場合、その特別の部分を公法と言い、行政法はその特別の部分を取り扱っている特則と考えてください。

  その特則を大きく分けると①成文法と②不文法――に分けられます。成分法源としては、憲法、条約、法律、命令、条例――などが挙げられます。

  不文法としては、①慣習法、②判例法、③法の一般原則――があります。

  ①の慣習法は、前述したように行政の原理との関係で国会が制定したわけではない法を法源としているので、行政の原理と異なっていると考えられますし、実際にも私法ほどの多い例を持ちません。でも、例えば、法令の公布が官報で行われていることなどは慣習法によっています。なお、行政庁による長年にわたる取扱いが法的に確信を得ること、つまり慣習によるもののことを先例法と呼ぶことがあります。

  次に②の判例法は、判例が法解釈により明らかにされた法規範であり、特に最高裁判所の判決によって形成され、重要な役割を果たしています。それは、判例はたとえ成文法であっても曖昧なところや条文に表われていないところも白黒はっきりつけ、事件処理の方法を明らかにしているからです。つまり、判例は法の不備を補っているものだからです。

  ③の法の一般原則とは、一般社会の正義感で、こうあるべきと認められる条理や理念のことで、行政法にも適用されます。

  つまり、行政権が濫用された結果行われた行政活動を違法とする判決や、緊急事態に対応するためにやむを得ず採用された国民の自由を制限する行政措置については、法律の根拠がなくても適法となることがあるのです。

  行政権の濫用については、後に解説する行政行為のときに取り上げます。

  しかし、時代の推移や社会の変遷で、法の一般原則も推移・変遷することも覚えておきましょう。

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