第105回 遺言の執行と撤回

  今回は、前回お話しした遺言についてもう少し詳しく解説します。そして、今回で、長きにわたった民法の解説は終わります。

  では、最終回は①遺言の執行、②遺言の撤回と無効、③遺留分とは――の解説です。

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Ⅰ.遺言の執行

  遺言の執行とは、遺言の効力発生後に遺言の内容を実現する手続き全般のことです。前回、推定相続人の廃除や取消しなどには家庭裁判所の審判などが必要な場合があるとお話ししましたが、当然、それを行うには担当者が必要です。

遺言の執行は相続人が行うこともできますが、推定相続人の廃除・取消しなどは、執行の内容が相続人が遺言の執行をすることに適さないので、遺言執行者を選任すべきことが規定されています。それ以外でも、遺言の内容が相続人間の利害関係を左右する場合は、遺言執行者による遺言の執行がふさわしいと言えます。

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1)遺言執行者の地位

  遺言執行者は相続人の意思によって選任されたものではないので、相続人の法定代理人と見なされますが、実質的には任意代理人に近い存在です。そこで、復代理人の選任は原則認められず、やむを得ない事情がある場合か、遺言自体で復代理人を許可された場合にのみ認められると規定されています。

  遺言執行者が適正な遺言を執行しようとすると、遺贈義務の履行など相続人にとっては不利益になることも多いと言えます。そこで、遺言の執行がスムースに履行できるよう、民法では、遺言執行者には相続財産の管理権を与え、相続人に対しては遺言の執行を妨げる行為の禁止を規定しています。
 

2)遺言執行のための前準備

  遺言の適正な執行を行うには、まず、遺言の存在と内容を明らかにする必要があります。そのための制度が遺言の検認と開封です。

  公証役場に保管してある公正証書遺言以外では、遺言の保管者また発見者は、まず、家庭裁判所に遺言の検認を請求します。これを受けた裁判所では、どのような用紙に、どのような筆記用具で、何が書かれているかなどを調べ、調書に記載し、証拠保全を図ります。封印のある遺言の場合は、家庭裁判所で遺言を開封する手続きが、やはり必要です。

 

Ⅱ.遺言の撤回と無効

1)遺言の撤回

  遺言の制度は遺言者の最終意思を尊重することにあるのですから、遺言をした後に、変更ができなければ実際と合わないものとなってしまいます。そこで、遺言には撤回の制度があります。

  遺言撤回の制度は、遺言者はいつでも遺言の方式に従って行った遺言なら、どんな種類の遺言でも、全部または一部を撤回することができる制度です。例えば、公正証書遺言や秘密証書遺言を自筆証書遺言で撤回することもOKです。この撤回権は、放棄することもできなければ、撤回の自由は制限されることもありません。

  遺言の撤回の方法は3つです。

①第2の遺言書を作成

②目的物である財産を処分

③第1の遺言書を破棄

  ①の第2の遺言書を作成すると、前の遺言書は撤回したことになります。つまり、最新の遺言書が有効ということになり、遺言には日付が必要だった理由はここにもあると言えます。

  ②の目的物である財産を処分すると、撤回の意思表示がなくても遺贈は成立しません。例えば、遺贈の目的としていた不動産を、うっかり他人に売却してしまった場合などで、これを遺言の撤回の擬制と言います。このような場合は、遺言はその部分については部分的に撤回されたと見なされることになっています。

  ③第1の遺言書を破棄すると、遺言はなかったことになります。遺言書を破棄したときにその前の遺言書があれば、その前の遺言書が復活し、有効になります。
 

2)遺言の無効と取消し

  遺言が無効となる場合の要件は、次の4つです。

①遺言が方式に反する

②遺言者が遺言能力を欠く

③被後見人が後見終了前に後見人または後見人の配偶者や直系卑属の利益となるべき遺言をした

④公序良俗に反したり、錯誤があった

  なお、詐欺や強迫によって行われた遺言は取消すことが可能ですが、遺言者による撤回も自由にできるので、事実上はあまり意味のあるものではありません。

 

Ⅲ.遺留分とは

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  実際の遺言がある場合の相続の話の中で、遺留分という言葉を耳にします。遺留分とは、一定の相続人に留保された相続財産の一定の割合のことで、死因贈与や遺贈によって奪うことのできない相続財産です。

  本来、被相続人は財産を生前どのように処分し、死後の帰属をどうするかは、被相続人の自由なはずです。しかし、被相続人に扶養されていた人に対する生活保障や、被相続人の財産形成に貢献した人を保護するためなどから、被相続人が自由に処分できる財産の割合に制約を設けました。

  遺留分を有する相続人が実際に得た相続財産の額が遺留分より少ないことを遺留分の侵害と言い、遺留分の侵害を受けた相続人に財産の返還を請求する遺留分減殺請求権を与えました。遺留分減殺請求権は、遺留分を有する相続人が自己の遺留分を保全するのに必要な範囲で、贈与や遺贈の効力を失効させ、財産の返還を請求する権利です。

  遺留分減殺請求が行われると、遺贈や贈与は、遺留分を侵害する範囲で失効します。

  遺留分を有する相続人とは、

①代襲相続人も含む子

②直系尊属

③配偶者――です。

第3順位である兄弟姉妹に遺留分は認められていないことに注意!です。

  遺留分の割合は、直系尊属のみが相続人であるときのみ、被相続人の財産の3分の1で、それ以外の場合は被相続人の財産の2分の1です。遺留分を持つ相続人が複数存在する場合は、各人の遺留分は法定相続分と同じに算定します。

例えば、第1順位の子2人と配偶者がいる場合は次のとおりです。

   子の遺留分→1/2×1/2(法定相続分)×1/2=1/8

   配偶者の遺留分→1/2×1/2(法定相続分)=1/4

  また、遺留分額の算定は、被相続人が相続開始に有していたプラス財産を算定し、被相続人が死亡する前1年以内に贈与した財産価額と、1年以上過ぎていても贈与者と受贈者が遺留分権利者に損害を与えることを分かってした贈与価額を加えたものから、相続時のマイナス財産を引いて得た価額に対して、遺留分割合を乗じます。

  ところで、遺留分も当然放棄することができます。放棄できるのは、相続開始後はもちろん、相続開始前に放棄することも可能です。ただし、相続開始前の場合は家庭裁判所の許可が必要です。

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