第102回 相続の承認について

  相続による権利義務の承継は、被相続人の死亡と同時に発生することは理解されたと思いますが、では、相続の承継を相続人の都合で拒絶することはできないのでしょうか?

  民法では、相続人の意思も尊重することとし、一定の要件の下で、承継するかしないか、どのように承継するか――を選択する権利を相続人に与えました。今回は、①相続の承認と放棄、②単純承認、③単純承認の回避――のお話をします。

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Ⅰ.相続の承認と放棄

  相続人に与えられた選択肢には次の3つがあります。

①相続人が被相続人の権利義務を無限定・無条件に承継する単純承認

②承継する積極財産(プラス財産)の限度で相続債務や遺贈を弁済する責任を負うという留保を付ける限定承認

③一切の相続財産の承継を拒否する相続放棄

  相続の承認・放棄は、相続という身分法上の行為ですが、財産の承継という財産法的側面も有することから、財産法上の行為能力が必要とされています。つまり、未成年の場合は法定代理人の同意を得るか、法定代理人が代理して履行しなければなりません。

  また、承認・放棄できる時期は、原則として自己のために相続の開始があったことを知ったときから3カ月間です。これを考慮期間と言いますが、相続開始前にあらかじめ行われた承認や放棄は無効で、その理由は、被相続人の影響力による強制を排除するためと言われています。

  相続人がいったん承認または放棄をしたときは、たとえ考慮期間が経過していなくても、原則として撤回できません。

 

Ⅱ.単純承認

  承認・放棄もしないまま考慮期間が経過すれば単純承認したことになります。相続の場合は承認することが原則なので、放棄する権利を行使しなかったことで放棄権を失うというわけです。

  つまり、相続人は何もしなくても単純承認したことになるのですが、積極的に意思表示して単純承認することも可能なのでしょうか? 判例ではこれを肯定しています。

  また、相続人が相続財産の一部を処分したような場合、相続人は単純承認したものと見なされます。これを法定単純承認と言います。法定単純承認の要件は、第三者から見て単純承認をしたと思われるような一定の行為が行われたことです。

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Ⅲ.単純承認の回避

  相続人の意思により単純承認を回避する方法は、

①限定承認

②相続の放棄――の2つです。

この2つの手段は、相続人の意思を尊重することによって、包括的承継という相続の原則を破る行為なので、その成立には家庭裁判所の審判が必要と慎重なものになっています。

 

1)限定承認

  限定承認とは、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務および遺贈を弁済すべきことを留保して承認することです。限定承認も承認の一種として相続人の被相続人に属した一切の権利義務の承継という効果は生じますが、承継した債務の引当となる責任財算が、相続によって得た積極財産の限度に限定されるので、相続人が元来所有していた自らの固有財産には及びません。

  相続人にとって、相続財産のうち積極財産と債務などの消極財産のどちらが多いかが判然としないような場合に意味ある制度と言えます。

  限定承認をするには、考慮期間中に相続財産についての財産目録を調整して、家庭裁判所に提出して限定承認する旨の申述べをしなければなりません。また、共同相続人が限定承認をするには、相続人全員が共同で行う必要があります。複数の相続人のうち、1人だけの限定承認を許すと、遺産分割の際、その人に消極財産のすべてを承継させることによって相続債権者をいたずらに害することを回避する必要があるからです。

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2)相続の放棄

  相続の放棄とは、相続の効果を否定する相続人の単独行為のことです。

  相続放棄には遡及的効力があり、相続放棄した人は、その相続について初めから相続人にならなかったものと見なされます。第1順位の子が全員放棄した場合は、第2順位への相続となりますし、放棄をした人には、もちろん、遺産分割協議に参加する資格もなくなります。

  放棄しようとする人は、考慮期間内に、家庭裁判所に申述を行い、申述受理の審判が下ると相続の放棄が成立し、直ちに効力が発生します。

  相続放棄の遡及的効力と第三者の関係について少し見てみることにします。
相続放棄の場合、この遡及的効力は絶対的で、遺産分割と異なり、放棄前の第三者であっても保護されることはありません。

  また、相続放棄後の第三者も、無権利者からの権利取得とされ、その他の相続人の放棄で単独所有となった人は登記なしで第三者に対抗できます。

  放棄の場合は、遺産分割に比べ第三者の保護が薄いわけですが、放棄は考慮期間が法定され、放棄前の第三者の出現の可能性が低いこと、放棄は家庭裁判所の審判がなされるため、放棄後の第三者は放棄の有無の確認が可能であることなどが理由と言えます。

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