第89回 不法行為と損害賠償責任

  不法行為とは他人に損害を与える違法な行為です。不法行為は、民法709条の一般不法行為を原則法として、特別法でいろいろな不法行為を規定しています。

今回はまず、①一般不法行為と②民法上の特殊の不法行為――について、続く次回で特別法で規制される不法行為について解説します。

民法89-1

 

Ⅰ.一般不法行為

  一般不法行為の要件は、6つです。

①故意・過失

②責任能力

③権利・利益侵害

④損害の発生

⑤因果関係

  消極的な要件として

⑥違法性阻却事由がないこと

  ①の故意・過失という要件は、近代民法の三大原則一つ、過失責任主義に基づいています。(民法の三大原則とは過失責任主義のほか「所有権絶対の原則」「契約自由の原則」)

つまり、人がある行動によって他人に損害を与えた場合でも、その行動に故意・過失の主観的な責任がなければ、損害賠償責任はないとして、人間の自由な活動を保障する原則です。反対に故意・過失がなくても責任を免れないとすることは結果責任主義と呼ばれます。

民法89-2

1)不法行為の効果

  不法行為の効果は、加害者の損害賠償義務です。金銭賠償を原則としますが、名誉毀損の場合には謝罪広告掲載のような名誉回復のための適当な処分が認められています。

  なお、民法によるこれらの効果は、違法行為者に対する懲罰的効果を狙っているわけではなく、あくまで、紛争解決方法としての損害の填補または損害の公平な分担の実現です。

  損害賠償の範囲は、相当因果関係内の財産上の損害と慰謝料と言われる精神上の損害の両方が含まれます。

  不法行為に基づく損害賠償の場合も、損害の公平な分担という視点から、債務不履行と同じように、過失相殺の適用があります。ただし、不法行為の場合の過失相殺の適用は被害者に過失があっても相殺しないことが可能という任意的なもので、被害者の過失が重大でも加害者の責任を否定することはできません。

  また、損害賠償請求権には、被害者が損害及び加害者を知ったときから3年の短期の消滅時効期間が定められています。不法行為の当事者には、契約関係等の特別な関係がないので、時の経過が要件などの判断材料を風化させてしまうという理由からです。さらに、不法行為には除斥期間と言って20年の経過という損害賠償請求権の消滅原因も定められています。
 

2)不法行為と債務不履行

  ある事実が債務不履行であるとともに、不法行為に該当する場合が考えられます。このような場合、不法行為による損害賠償請求権と債務不履行による損害賠償請求権が発生しますが、被害者は両者を任意に選択して請求できることになっています。

 

Ⅱ.民法上の特殊の不法行為

  民法で規定されている特殊の不法行為には、

①監督者責任

②使用者責任

③工作物責任

④動物占有者の責任

⑤共同不法行為――があります。

  これらの責任は不法行為責任の原則型を修正して、故意・過失の立証責任を加害者側に転換して、被害者救済に当たっていることが注意点です。特に⑤の共同不法行為は、被害者救済のために加害者全員の連帯責任を求めるという点が特徴です。
 

1)監督者責任

  幼児など責任能力のない未成年者や被後見人、精神障害者などの心身喪失者の不法行為による損害は、これらを監督すべき法定の管理義務者である親権者・後見人などや、代理監督者である精神病院の医師などが賠償責任を負います。

ただし、これらの監督者や代理監督者は監督義務を怠らなかったことを証明すれば免責されます。

民法89-3

2)使用者責任

  従業員が事業の執行について第三者に与えた損害は、その使用者が賠償責任を負い、それを使用者責任といいます。また、使用者に代わって代理監督者が事業の監督をするときは代理監督者も同様の責任を負います。

  使用者は、他人を使用することによって自己の活動範囲を拡張して利益を収めているわけですから、それによって生じる損害も負担すべきという報償責任の原理に基づいた考え方です。

使用者責任の要件は、被用者の選任・監督への過失です。使用者の加害行為自体への故意・過失は問題とはなりません。つまり、使用者や代理監督者が従業員の選任と事業の監督について相当の注意を怠らなかったときは免責されるのです。

なお、被用者の選任・監督への過失の立証責任は使用者が負担します。

ただし、使用者または監督者は、相当な範囲で従業員に求償することが可能です。
 

3)工作物責任

  工作物責任とは、土地の工作物の設置または保存に瑕疵があって、他人に損害を与えた場合に、工作物の占有者や所有者が負う責任のことです。所有者の場合は、いかなる免責事由も認められない無過失責任です。

ただし、工事が不完全だったために損害が発生した場合は、賠償責任を負担した占有者または所有者は、工事人に求償できます。

一方、請負人が起こした事故では、注文者は原則として責任を負うことはありません。

民法89-4

4)動物占有者の責任

  飼っている動物が人に被害を与えた場合にも動物の占有者や保管者が責任を負わなくてはならない規定があります。保管上の過失が要件です。

 

5)共同不法行為

  共同不法行為とは、数人の人が共同の不法行為によって他人に侵害を与え、そのうちの誰が実際に損害を与えたのか明らかでないときに、不法行為者全員に連帯責任を負わせる制度です。

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