第88回 事務管理と不当利得

  債権の発生原因は、契約が典型と言えますが、民法ではこのほかに意思表示に基づかない債権発生原因として①事務管理、②不当利得、③不法行為――を定めています。今回は、①の事務管理と②の不当利得についてお話しします。

民法88-1

 

Ⅰ.事務管理

  事務管理とは、義務がない状態で他人のために事務を管理することです。

例えば、自然災害の際に頼まれていないのに隣の家の車を安全な場所に移動するとか、徘徊している認知症の老人を一時預かり食事をさせる――などの場合です。

民法88-2

1)事務管理の効果

  事務管理の要件は、

①法律上の義務がない

②他人のためである

③事務の管理を始める

④事務管理してもらう人の利益に最も適すべき方法による――ことの4つです。

  法律上の義務がないと言いましたが、①事務管理してもらう人(本人)などが管理を行うときまで善良なる管理者の注意をもって管理を行わなければならないという管理継続義務、②委任に準じて本人への通知報告義務、③事務処理状況の報告義務――は、発生します。

  また、事務管理として法律行為を行った場合は、管理者に代理権があるわけではないので、効果は直接、本人に帰属しませんが、場合によっては、無権代理についての本人の黙示的追認が認められる場合が考えられます。無権代理については第52回を参照してください。

  一方、本人の義務としては、事務管理に要した費用の償還義務が主なものです。償還義務の範囲は、利益が現存していない場合でも、支出当時有益な費用であれば償還しなければなりません。ただし、管理者が本人の意思に反して管理してしまったことが、後になって分かった場合は、償還は現存の利益の範囲でOKです。

       ※最初から分かっていれば事務管理には当たりません。

  民法の規則は、事務管理を他人の生活への干渉に当たるとして管理者には厳しいと言えます。ですから、管理者には、①報酬請求権、②管理中に管理者が被った損害の賠償請求権――などを認めていません。
 

2)準事務管理

  事務管理の要件に他人のために事務管理するという、事務管理意思がありましたが、自分のために他人の事務管理を行うことを準事務管理と言います。

  他人の特許を無断で利用し、大きな利益を上げたような場合、権利者が請求できる額は損害の限度内と制限されるので、現実には特許を無断利用して得た莫大な利益の大部分は、無断権利者の手元に残ってしまいます。

  これでは、あまりにも不当であるとして、上記のような場合には事務管理の規定を準用して、権利者の引渡請求権を認め、妥当な結果を得ようとしています。

 

Ⅱ.不当利得

  不当利得とは、法律上の原因ではないのに、他人の財産または労務によって利益を受け、それが原因で他人に損失を及ぼした場合は、受益者に対して損失者に利得の償還を命じる制度です。

民法88-3

1)不当利得の要件

 不当利得の要件は次の4つです。

①利益を受けたこと(受益)

②他人に損失を及ばしたこと(損失)

③利益と損失の因果関係

④それが法律上の原因のないこと

  当然ですが、法律上の原因があればその利得は不当とは言えませんので、④の法律上の原因のないことという要件は、不当利得の成立が争われる場面で解釈が問題となる要件です。

例えば、YさんがZさんを騙して手に入れたお金で、Xさんへの債務の弁済を行った場合に、ZさんがXさんに対して不当利得を理由に返還請求を行えるか否か――を考えてみましょう。

この場合、Xさんが、善意・無過失であった場合は、利益の限度内で返還する義務を負います。もし、Xさんが悪意・重過失である場合は、不当利得に当たるとして、受けた利益に利息を足して返還しなければならず、なお、Zさんに損害がある場合にはその損害賠償責任も負います。

  もう一つ例を見てみます。

AさんがBさんにブルドーザーを賃貸中、ブルドーザーが故障してしまいました。BさんはCさんに修理を依頼し、修理が済んでBさんにブルドーザーを引渡し、修理代金を請求するときになったら、Bさんが倒産してしまいました。当然、ブルドーザーはAさんに戻ることになりますが、CさんはAさんに修理代を請求できるか否か――です。

この場合、Aさんが対価関係なしに利益を受けたのであれば、修繕代を不当利得として返還請求できます。

  余談ではありますが、以上のように不当利得は判断が非常に難しいと言えます。そこで、近年では、不当利得を次のように大きく2つに類型化し、判断の要件をそれぞれに検討する動きが出ています。

①給付利得:契約が無効である場合などの給付の巻戻し的返還の類型

②侵害利得:契約の外形がない当事者間での利得の返還の類型
 

2)不当利得の効果

  不当利得が認められる場合、原則として利得した現物が返還されなければなりませんが、それができないときは代替物、それもできない場合は価格賠償となります。

  ただし、善意の受益者の返還の範囲は、利益の存する限度で足りることになっているので、利得を賭博に使って残りがほとんどない場合でも、残っているだけ返還すればいいことになります。

  また、不法な原因のために給付を行った者は、その給付の返還を請求できません。これを不法原因給付と言いますが、例えば、賭博の負け金を賭博の無効を根拠に返還請求するような場合です。この趣旨は、不法な行為をした者には法的救済を求められないようにして、間接的に不法行為を抑制することです。ただし、不法の原因が相手方だけにある場合には返還請求できます。

  債務がないことを知っていながら弁済することを非債弁済と言い、この場合も返還請求できません。

第三者が錯誤により他人の債務を弁済し、債権者も正当な債務者からの弁済と思い、債権証書を破棄したり、担保を放棄したり、また、中断時効の手続きを取らなかったために、その債権が時効にかかった場合にも債権者の返還義務は発生しません。

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