第86回 委任契約と寄託契約

  今回は、前回の冒頭でお話しした他人の役務を利用することを目的とする契約のうちの、①委任契約と②寄託契約について解説します。

民法86-1

行政書士講座

Ⅰ.委任契約

  委任契約とは、委任者である当事者の一方が法律行為を行うことを相手方に委任し、受任者である相手方がこれを承諾することを内容とする契約です。

  特約で、報酬の支払いを定めることはできますが、報酬自体は委任の本質的な要素ではありません。その理由は、委任は、受任者の特殊な知識、経験、才能を全面的に信頼して処理を任せるので、これはビジネスに当たらないという古代ローマ法からの説ということになっています…!? ローマ法には、有償の委任は無効という決まりがあったようですが、我が国の民法は報酬支払の特約を付けることは可能です。

  法律行為でない事務を委任する場合は、準委任と呼ばれ、委任の規定が準用されます。

  委任は、請負や雇用と同じくサービス供給型の契約ですが、委任は労務の供給そのものが目的で、サービス提供者の独立性も特徴と言えます。

民法86-2

1)委任契約の性質

  委任は、報酬の支払いを要素としていないため、本質的には、受任者のみが義務を負担し、委任者が無償で利益を得る片務・無償契約となりますが、報酬支払いの特約が付けば、双務・有償契約となります。特約の有無にかかわらず、委任は当事者間の合意のみで成立しますので、諾成契約でもあります。

  また、法律行為の委任の場合は、特別な事情がない限り、代理権を伴っていると考えてよいと言えます。

  受任者は、事務を処理する義務を負担しますが、委任者からの信頼を基礎としているので、事務の処理は有償・無償を問わず善管注意義務と呼ばれる高度の注意義務を負担することになります。

  このほか、受任者には、受任者が仕事上受取った物の引渡し義務も負わなくてはなりません。これは、委任事務の処理に当たり、金銭その他の物品、果実を得た場合、また受任者名義で権利を得た場合には、委任者に渡さなければならないという義務です。

  また、受任者には、預り金を消費してしまった場合の支払義務もあります。受任者は消費してしまった金銭や利息を支払い、そのために損害が発生したときは賠償しなければならないとされています。

  一方、委任者には、費用前払義務や費用償還義務などが考えられますが、あくまで、委任契約の本体的義務ではなく、受任者の労務供給と対価的な関係によるものではありません。
 

2)委任の終了

  委任は当事者間の信頼関係を基礎とする以上、その信頼が失われた場合にはいつでも理由なく解除できます。

  ただし、有償契約の場合には、委任者が解除権を放棄したと理解されるような事由があり、委任者にやむを得ない事由もない場合には、委任者の解除権が制限されるという判例が存在します。

民法86-3

↓↓↓
詳細は下記へ

行政書士講座

3)医療契約

  医療契約は、被害者救済のために準委任と見なされています。これによって、医療過誤の場合、債務不履行責任が追及できることになっています。

 

Ⅱ.寄託契約

  寄託契約とは、受寄者である当事者の一方が寄託者である相手方のために保管をすることを約束して、ある物を受取ることで成立する契約です。

  たとえば、長期海外出張の知人の貴重品を預かるなど、他人に頼まれて物を保管することです。

  委任と同様、ローマ法の伝統で無償契約が原則形態で、報酬の特約を付けた場合に有償契約となります。また、双務・片務も特約の有無で区別し、特約がない場合は片務契約、特約がある場合が双務契約です。報酬の有無に関わらず、物の受取りで成立する要物契約ですが、諾成的寄託契約も非典型契約として有効で、商法上の倉庫寄託などがこれに当たります。

民法86-4

1)寄託契約の効果

  受寄者は、寄託物の保管について、有償寄託の場合は善管注意義務を負いますが、無償寄託の場合はこれより軽い自己の財産に置けるのと同一の義務を負う、と定められています。

委任と異なり、当事者間の信頼関係を基礎としていないので、有償・無償で受託者の注意義務が異なります。ただし、寄託は当事者間の信頼関係を基礎としないといっても、寄託者の承諾がなければ第三者に保管を任せることはできません。さらに、この場合には受寄者にやむを得ない事情があっても、無断では許されないとされていますので、委任よりも厳格です。その理由は、寄託は寄託者の利益のための契約で、寄託者の意思が最優先されるからです。
 

2)寄託の終了

  寄託の終了は、期間の定めのある場合でも、いつでも寄託者が返還請求できます。寄託はあくまで、寄託者の利益のためなのです。

  期間の定めがないときは、寄託者がいつでも返還請求できるのはもちろんですが、受託者もいつでも返還できます。
 

3)消費寄託

  寄託類似の契約として消費寄託契約があります。これは、寄託の目的物が代替物である場合、これを一度消費した後、それと同種・同等・同量の物を返還すればよいという契約です。例を挙げれば、銀行預金がそれに当たります。

  消費寄託では、期間の定めのある場合、いつでも返還請求できることにはなりません。受寄者の利益も考慮する必要が出てくるからです。したがって、定期預金で銀行が解約に応じてくれるのは、銀行の任意に基づいていると言えます。

  期間の定めのない場合は、直ちに返還請求できます。普通預金がすぐに引き出せるのは、これによると考えることができます。

民法86-5

ページ上部へ戻る