第85回 雇用契約と請負契約

  民法は、他人の役務(サービス)を利用することを目的とする契約を①雇用、②請負、③委任、④寄託――の4つ規定しています。

このうち、寄託だけはサービス内容が物の保管に限定されるので特殊と言えますが、他の3つはさまざまなサービスを目的とすることが可能です。

寄託以外の3つの違いは、雇用と委任はサービスの提供自体を目的とし、請負は仕事の完成というサービス提供による結果が目的です。さらに、雇用と委任では、雇用が労働力の支配が雇う側に存在するのに対し、委任は役務提供者側にあります。

  では、民法の規定の順に従って、今回は、①雇用契約と②請負契約のお話です。

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Ⅰ.雇用契約

  雇用契約とは、被用者である労働者が労務を提供し、使用者である雇主がこれに対する対価として報酬(賃金)を支払うことを約束する契約です。

民法85-2

  当事者の合意の内容は、被用者の労務の供給債務と使用者の賃金の支払義務なので、双方の義務が対価的関係に立つ双務・有償契約です。また、合意のみで成立する諾成契約でもあります。

  雇用契約においては、上記の本体的債務のほか、雇用側の安全配慮義務が問題となる場面が少なくありません。つまり、使用者の義務は、賃金支払義務と労働者を安全な環境の下に仕事をさせるという安全配慮義務もあると覚えてください。

  また、雇用も継続的契約関係であるので、契約の終了にも注意が必要です。期間の定めがある契約なら期間満了で終了し、期間中でもやむを得ない事由があれば即時解除として雇用契約の終了が認められています。

  期間の定めのない場合の解約の申入れは2週間の猶予があれば有効ですが、使用者からの一方的な解雇は解雇権濫用の法理により厳格に制限されています。

●労働基準法等の労働法

  契約自由の原則の下では、被用者が弱い立場に立つことが多いものです。現実に古くは奴隷的な従属労働が多発しました。そこで、国家が積極的に労働者の保護を図り、労働者階級の自主的団結活動を承認する目的で、労働基準法を中心とした法律が制定されました。

  今日では、事業または事業所で使用される人には賃金、労働時間などの最低基準を定めた労働基準法が強制的に適用され、民法が直接適用される場面はむしろ例外です。

 

Ⅱ.請負契約

  請負契約とは、請負人である当事者の一方がある仕事を完成することを約束し、注文主である相手方が、その仕事の結果に対して報酬を支払うことを約束する契約です。典型的なものに住宅等の建築があります。

  請負は仕事の完成と報酬の支払いによる有償契約で、これらの義務が合意のみで発生し、対価的関係に立つ諾成、双務契約でもあります。

  請負人は、仕事の完成を第三者に下請けに出すことも可能です。この場合は、元請の請負人と下請人は、別個の新たな請負契約を交わすこととなります。

  しかし、実際の場面では、民法の請負の規制のみでは不十分な場面が多くあり、各種請負契約約款が重要な役割を果たしています。

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1)注文者の所有権取得時期

  請負人は仕事を完成した後、その完成物を注文者に引渡し、引渡しと報酬の支払いは同時履行の関係に立ちますが、完成物の所有権についての特約がない場合は、注文者は完成物の所有権をいつ取得するのでしょう?

  判例では、材料の主な拠出者によって場合を分けています。

①注文者が材料を拠出している場合→注文者が原始的に所有権を取得します。

②請負人が材料を拠出している場合→最初請負人に所有権が帰属し、引渡しによって注文者に所有権移転します。つまり、仕事が完成しても注文者が報酬を支払わない場合は、請負人は完成物を第三者に転売できるということになります。

  この時に、下請があると更に問題は複雑です。特約で元請における注文者が原始的に所有権を取得するとある場合は、その効力は下請人にも対抗できるとした判例もあります。
 

2)請負の危険負担と担保責任

  契約成立後、仕事完成までに目的物の滅失・毀損などで履行不能が生じた場合に、危険負担はどちらが負うのでしょう?

  請負人の義務は物権の設定等を目的とするものではないので、民法上の原則である債務者主義が適用され、請負人は報酬請求権を失ってしまいます。

  では、請負人の担保責任の性質はどうなのでしょう?

  売買契約の売主の担保責任とは異なり、債務不履行の特則と考えられています。なぜなら、請負の本質として、請負人は瑕疵のない完成物を完成させる義務を負っているからです。

  その内容は、注文者の

①瑕疵修補請求権

②損害賠償請求権

③契約解除権――です。

目的物が建物などの土地工作物である場合には、あまりに請負人に酷であることや社会経済的にも損失を生じることから、契約解除権は行使できないことになっています。

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