第79回 契約の効力と解除

  前回、契約は申込みの意思表示と承諾の意思表示で成立することをお話ししましたが、今回は、①成立した契約の効力と、いったん成立した②契約を解除できるのか?――についてお話ししたいと思います。

 

Ⅰ.契約の効力

  契約で発生した権利と義務の関係には特別の性質があります。ここでは、Xさん所有の甲建物をYさんに売却する売買契約を例に解説していきます。

民法79-1

1)同時履行の抗弁権

  売主であるXさんが買主であるYさんに対して、甲建物の引渡しをしないで売買代金の請求をしてきたらどうなるでしょう? 当然、Yさんは、甲建物の引渡しを受けるまで、代金支払いを拒むことができます。

  売買のような双務契約では、双方の債務は互いに対価的関係にあるので、双方の負担する債務は引換えに履行することが公平です。上記の場合にYさんが自分の債務を拒絶できる権利を同時履行の抗弁権と言います。

  一方が同時履行の抗弁権を有している場合は、その履行拒絶は違法ではなく、相手方は自己の債務の弁済を提供するまでは、債務不履行による契約の解除や損害賠償請求はできません。
 

原始的不能

  では、Xさん・Yさん間の売買契約の目的物である甲建物が、実は契約成立以前に土砂災害で倒壊していたとしたら契約はどうなるのでしょう? この場合意思表示の目的物が存在していないわけですから、Xさんの引渡債務は、もともと実行することができません。そこで、対価関係にある代金請求権も発生しないとすれば、公平になります。

  この場合、Xさんの引渡債務は原始的不能であると言い、原始的不能を目的とする契約は無効(契約自体が効力を生じない)とされます。
 

3)危険負担

  もし、土砂災害による甲建物の倒壊が契約の成立後で、履行期前だったらどうなるのでしょう? この場合もXさんの引渡債務は不能により消滅しますが、代金債務も同時に消滅するかについては微妙な問題をはらんでいます。

  つまり、契約成立後の債務消滅リスクを負うのはXさんかYさんかという危険負担の問題が発生するのです。

危険負担には

①債権者主義

②債務者主義――の2つの考え方があります。

債権者主義とは、買主であるYさんが危険負担をし、代金支払義務は消滅しないという考え方です。

  一方、債務者主義とは、Yさんの代金支払義務も同時に消滅し、売主であるXさんが危険負担をするという考え方です。

  まったく逆の結果ですが、我が国の民法は原則では債務者主義としつつ、特定物に関する物権の設定、移転を双務契約の目的とした場合には、例外的に債権者主義が適用されることになっています。つまり、上記例では債権者主義がとられ、Yさんの代金支払義務は消滅しません。

実際の場面で危険負担が問題となるのは、多くの場合で上記例のように民法でいう例外に該当します。皮肉なことに、民法上は例外とされる債権者主義が、実際には原則的形態になっています。

もっとも、実際の取引きにおいては「移転登記の際に危険が移転する」というような特約を付けて、問題の発生を未然に防いでいるようです。
 

4)第三者のためにする契約

  契約内容に第三者に利益を与える特約が含まれる場合があります。上記の場合に、Yさんが代金を第三者のZさんに支払うといった特約を付けるような契約です。

 

Ⅱ.契約の解除

  契約には、契約の解除という当事者の一方が、一方的な意思表示で契約の効力を契約時に遡って消滅させる制度があり、契約の解除には、

①合意解除

②法定解除

③約定解除――の3種類があります。

  合意解除とは、当事者の合意により解除することができる場合、法定解除とは法律規定によって解除の権利が生じる場合、約定解除とは契約により解除の権利生じる場合です。

民法79-2

1)債務不履行による解除

  法定解除権が発生する各種の契約に共通の解除原因に債務不履行解除があります。

債務不履行には、①履行遅滞、②履行不能、③不完全履行――の3形態があることは以前お話しましたが、解除権発生の要件は、それぞれの形態ごとに定められています。

  履行遅滞、不完全履行による債務不履行の解除の要件は、

①相当の期間を定めて催告する

②その期間内に履行がない――ことです。

相手方に再度履行の機会を与えるのが妥当と考えられているからです。

  履行不能による債務不履行解除の場合、履行の機会はもはやまったくないわけですから、履行不能と同時に解除権が発生します。
 

2)解除の効果

  解除の効果は、契約関係の遡及的消滅です。解除の効果が、契約の遡及的無効をもたらすとの考え方を直接効果説と言い、判例や実務で採用されています。

  解除は、契約関係が遡及的に消滅してしまうので、解除前に債務の全部または一部の履行があった場合には、元と同じ状態にもどす必要が出てきます。これを原状回復義務と言います。

  しかし、代金として200万円の支払いを受けた人が、すでに150万円使ってしまった場合はどうなるのでしょう? 契約の解除があった場合は、200万円に利息を付けて返金する必要があります。不当利得の場合、残った額だけ(この場合50万円)返還すればよかったのと、ずいぶん違いますね!
 

3)解除と第三者

  Xさんから甲建物を買受けたYさんが、さらにこれをZさんに転売した場合を考えてみましょう。YさんがXさんに代金を支払っていない場合は、XさんはYさんに対して債務不履行により契約解除を行うことができますが、そうした場合甲建物の所有権はXさん、Zさんのどちらになるでしょうか?

  判例によれば、YZ間の売買が解除の前であるなら、登記具備を要件にZさんに所有権が認められます。YZ間の売買が解除の後の場合は、XさんとZさんは先に登記をした人が所有権を有することになります。

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