第77回 債権の実現が不要となった場合と不可能となった場合

  前回、弁済などで債権の目的が実現して債権が消滅した場合をお話ししましたが、今回は、①債権の実現が不要になった場合、②目的の実現が不可能な場合――について解説します。

 

Ⅰ.債権の実現が不要となった場合

  債権の消滅原因としては、目的が実現したときのほか、目的の実現が不要となった

①相殺

②更改

③免除

④混同――があります。
 

1)相殺とは

  相殺とは、どちらも金銭給付が目的である場合のように、同種の目的を持つ債権をお互いに立場を逆に有している場合に、一方の当事者の他方に対する意思表示によって双方の債権を対等額で消滅させることです。

民法77-1

例えば、YさんがXさんに対して500万円の売買代金債権、XさんがYさんに対して200万円の貸金債権を有しているとき、Yさんの意思表示で200万円の範囲で双方の債務を消滅させる場合です。

  実際の便宜と結果の公平に着目して認められた制度で、その担保効力が重視されています。なぜなら、自分が持つ債権について債務者が任意に支払ってくれない場合でも、その債務者に対する自分の債務と相殺することで、債権を回収したのと同じ効果を得ることができるからです。

  相殺の意思表示をする側の債権を自働債権、相殺を受ける側の債権を受働債権と言い、実務上、一方の債権から見て他方の債権を反対債権と呼ぶこともあります。

相殺を有効にするための要件は、双方の債務が相殺適状にあることです。

相殺適状とは、

①同一当事者間に相対立する同種目的の債権が存在する

②双方の債権が弁済期にある――ことで、この相殺適状の場合に

③相殺の意思表示を相手方にする――ことで、相殺が成立します。

  なお、相殺による債権消滅の効果は、相殺適状を生じた時に遡ります。
 

2)更改とは

  更改とは、同一性を持たない新たな債務を成立させることによって、旧債務を消滅させる契約です。

  代物弁済が、現実の給付によって債務を消滅させるのに対して、更改は、新債務を成立させることで旧債務を消滅させます。また、更改での新旧債務には同一性がないため、旧債務に附随している保証債務などは、新債務には引き継がれないのが原則です。

民法77-2

3)免除とは

  免除とは、債権を無償で消滅させることを目的とする債権者の単独行為です。単独行為であるので、相手方の意思と無関係に行うことが可能です。
 

4)混同とは

  混同とは、相対立する法律上の地位が同一人に帰属して権利が消滅することです。債権と債務が同一人に帰属した場合、なお、債権を存続させておくことは無意味なので、物権同様、債権も消滅します。

 

Ⅱ.目的の実現が不可能となった場合

  バブル崩壊後の不況はリストラ、賃金カットなどから人々の暮らしは予想しない事態を招き、全国の多重債務者の数は、百万単位に上ると言われています。こうした、多重債務者の多重債務に何らかの法的手立てを講ずることを債務整理と言います。

民法77-3

  債務整理手続きは、大きく、

①裁判外の任意整理

②裁判上の整理手続き――とに分かれ、裁判上の手続きはさらに、

③特定調停

④個人再生手続き

⑤自己破産手続――などに分かれます。

これらの手続きの選択は債務者の負債状況と中心に、債務者自身の意向も考慮して決定されていくことになります。
 

1)任意整理

  任意整理とは、債権者との交渉によって、債務の弁済計画を立てていく方法です。

  通常、弁護士が債権者に介入通知を送付して、債務者の取引履歴の開示を求めたうえで、これを利息制限法に基づいて引直し計算をするなどして債務を減額し、その金額を基準として将来の利息を考慮しないで、債権者と分割払いなどの和解交渉を行います。

  引直し計算により、債務者の過払いの状態が判明した場合は、債権者に対して過払金の返還を求めることになります。

  なお、貸金業法の改正により、貸金業者の貸出し金利も利息制限法が適用されるようになりました。
 

2)特定調停

  特定調停とは、裁判所を間に入れて債務の減額や分割払いについて、債務者と債権者の合意を形成していく金銭債務調整調停手続きのうち、特定調停法による特則が適用される手続きです。

この特則には、

①執行手続きの停止を無担保で求められる

②業者の取引履歴開示を事実上強制できる――など、債務者にとって有力な規定が設けられています。
 

3)個人再生手続き

  個人再生手続きとは、給与所得者などの非事業者である個人や零細な個人事業者の再生を念頭に設けられた、通常の民事手続きの特則規定の適用がある手続きのことです。

  原則として債務者は、将来の収入から減額された3年間の分割弁済を行い、残債務については免除を受けるという形での再生を想定している制度です。また、住宅ローンのある個人が住宅を維持したまま再生を目指せるように住宅資金特別条項もオプションとして利用できるようになっています。
 

4)自己破産手続き

  自己破産手続きとは、債務者が破産手続開始の決定を受け、財産は清算して換価し、債権者に配当を実施し、配当がない債務について免責許可の決定により支払責任を逃れる手続きです。

  債務者に財産がほとんどない場合、破産手続開始の決定の際に、清算・配当手続きを行わないという同時廃止の決定がなされます。

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