第72回 債務不履行の場合

  前回までにも債務不履行という言葉がたびたび出てきましたが、債権を知るうえで、債務不履行は常に付きまとい、問題発生の原因となります。そこで、今回は、①債務不履行制度、②債務不履行と損害賠償について、まとめてみることにします。

 

Ⅰ.債務不履行制度

  債務不履行とは、債務者が債務の本旨に従った履行を行わないことです。つまり、義務を負うべき人が約束を守らないことが債務不履行です。
では、次の例を見てみましょう。

XさんはYさんから建物を買いましたが、Yさんが約束の日に建物を引渡してくれなかったため、Xさんは、しばらくのあいだ賃貸マンションを借りました。この場合、Xさんは、その間の家賃をYさんに請求できるでしょうか?

  前回の解説のとおり、債務者が自発的に債務の履行をしない場合には、債権者は強制履行の方法によって、債権内容の実現を図ることができます。でも、性質上強制履行できない債権や、債権内容によっては、上記の例のように債権内容の実現が遅れたことで債権者に損害が生じることも考えられます。

こうした場合、債権者が債務者の債務不履行によって生じた損害の補てんを受けることができなければ、その契約はとても不公平なものと言えます。

  そこで、民法は、債権者が債務の不履行によって被った損害の賠償を求める制度を設けています。つまり、債務者の責に帰すべき事由による債務不履行があり、それによって債権者が損害を被ったときは、債権者は被った損害を金銭賠償という形で債務者に対して請求できます。

覚えていますか? 債務不履行には、①履行遅滞、②履行不能、③不完全履行――の3つの形態がありましたね。

民法72-1

  ①の履行遅滞とは、履行が可能であるのに履行期を過ぎてしまったような場合、②の履行不能とは、履行が不可能になってしまった場合、③の不完全履行とは履行は行われたものの、それが不完全な場合です。上記の事例は、①の履行遅滞に当たります。

  債務不履行に基づく損害賠償請求をするためには、債務不履行が債務者の責に帰すべき事由によることが必要です。
責に帰すべき事由とは、債務者の故意や過失、または信義則上故意や過失と同様に見える場合です。
また、信義則上故意・過失と同様に見える場合とは、例えば、債務者自身に故意・過失がなくても、債務者が雇っている従業員に故意・過失があった場合などです。これを法律的に言うと、履行補助者の故意・過失と言います。

ただし、債務者の責に帰すべき債務不履行があって、それによって債権者が損害を被っても、債務者の債務不履行が違法でなければ損害賠償請求権は発生しません。

この例は、前述の例の場合に、Xさんには売買代金支払義務があるので、Xさんがこの義務を果たしていなければ、Yさんが建物の引渡しを拒んでも(同時履行の抗弁権)、Yさんの債務不履行は違法とならず、Xさんに損害賠償請求権は発生しません。

 

Ⅱ.損害賠償請求は因果関係がポイント

  債務不履行の効果として最も重要なものは損害賠償請求権の発生です。この損害賠償請求権が発生するためには次の3つの要件が必要です。

①債務不履行があること

②債権者に損害が生じたこと

③その損害は債務不履行と相当因果関係があること

  ②において、債権者が損害賠償請求をするのに必要な損害には、財産的損害に限らず日財産的損害=精神的損害も認められています。この精神的損害賠償を慰謝料と呼んでいます。よく、耳にする言葉ですね。

財産的損害は、既存の利益の減少である積極的損害だけでなく、債務不履行がなければ得られたであろう利益(逸失利益)という消極的損害も含まれます。

  ③において、債務不履行と相当因果関係がある損害とは、債務不履行から通常生じる損害(通常損害)と特別の事情によって生じた損害(特別損害)のうち、当事者が予見可能であった損害がこの相当因果関係の範囲に含まれるものとされています。

民法72-2

★損害賠償額の算定

  債務不履行によって損害が生じた場合、いつの時点の価格で賠償額を算定すべきかについては、判例は原則として債務不履行時を基準として、その後の価格の高騰で損害額が拡大したような場合、その価格の高騰は特別事情だとして、予見可能であれば高騰した価格での賠償を認めています。

  また、履行遅延による損害賠償請求の場合、債権者は依然として本来の債権の履行も請求するわけですから、損害賠償は原則として、履行が遅れたことによる損害賠償(遅延賠償)のみとなります。

  履行不能の場合は、追完可能な場合であれば遅延賠償、追完不能であれば填補賠償となります。

  債務不履行は債権者に損害を与えるばかりとは限りません。損害と同時に利益を与える場合もあります。そのような場合は、損害からその利益を控除したものが損害賠償額となります。例えば、債権者が保険に加入していて、保険金の支払いを受けたような場合です。これを、損益相殺と言います。

  債務不履行には債権者にも過失がある場合も考えられます。このような場合、損害賠償の全額を債務者に負担させることは公平とは言えません。そこで、賠償の責任および範囲の適用を制限する過失相殺の制度もあります。

  ところで、商取引などの契約で、条項に賠償額の予定を入れたものをよく目にします。賠償額の予定とは、当事者があらかじめ債務不履行の発生を予想して、賠償する額の合意をして契約する場合のことです。

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