第65回 先取特権はどういう権利か

  担保物件の一つ先取特権とは、法律で定められた特別の債権を持っている人が、法律の規定に従って、債務者の財産から他の債権者より先に支払ってもらえる権利です。今回は先取特権の意義や種類、効力を詳しく解説します。

民法65-1

 

Ⅰ.債権者平等原則と優先弁済的効力

  債務者に対して債権者が複数いて、債務者の総財産が全債権者の債権総額よりも少ない場合は、各債権者はその債権額を比例按分して分けることになっています。このことを債権者平等の原則と言います。

  これに対して、先取特権(さきどりとっけん)の制度は、法律が一般の債権と比較して特に保護すべき債権の種類を指定して、優先的に弁済を受けられる特権を与えた制度です。
特定の債権を保護する先取特権のこのような効力を優先弁済的効力と言います。

  先取特権は、法律の定める特別な債権を有する人が、債務者の財産から法律上当然に優先弁済を受ける権利です。
例えば、MさんはX社の社員で、Mさんに対して未払いの給料があるのにX社が倒産してしまった場合、その破産手続きにおいて、X社は債権額に応じた按分比例ではなく、他の債権者に優先してMさんに弁済(未払い給与の支払い)しなければなりません。

  民法がこうした先取特権を認めるのは、Mさんの債権を特別に保護しようとしているからで、社会政策的考慮として先取特権を認めたものです。

 

Ⅱ.先取特権の種類

  では、先取特権にはどんな種類があるのか見ていきましょう。
先取特権は目的が何であるかによって大きく

①債務者の総財産を責任財産とする一般先取特権

②債務者の特定の財産を目的とする特別先取特権――に二分され、後者はさらに

❶債務者の特定の動産を目的とする動産先取特権

❷債務者の不動産を目的とする不動産先取特権――に分けることができます。

  一般先取特権とは、債務者の総財産を目的としています。詳しくは後述します。

  動産先取特権とは、債務者の特定の動産を目的とする先取特権のことを言いますが、このうち動産売買先取特権は、目的物を引渡した後に代金の支払いが受けられない売主を保護する制度として特に重要です。

  不動産先取特権とは、債務者の特定の不動産を目的とする3種類の先取特権のことで、これらには、対抗要件として登記が必要です。3種類については後述します。

民法65-2

1)一般先取特権

  一般先取特権とは、債務者の総財産を責任財産とする先取特権です。
 

民法では、

①共益費用

②雇用関係

③葬式の費用

④日用品の供給――を原因とする債権を有する人は、債務者の総財産の上に先取特権を有すると規定しています。

  ①の共益費用債権とは、各債権者の共同の利益のために行われた債務者の財産の減少を維持する行為などにかかった費用のことです。これらの費用は、各債権者の権利行使に不可欠なものなので、誰が支出してもこれを優先して回収させることが公平との考えから認められています。

  ②の雇用関係から生まれた債権に先取特権を認めたのは、被用者保護の社会政策保護の配慮によるものです。平成15年の改正(平成16年4月1日施行)で、給料だけでなく退職金も含めることが明確にされました。

  ③の葬式費用債権に先取特権を認めたのは①と同じく公平を趣旨とするものです。

  ④の債務者またはその扶養すべき同居の親族および家事使用人の生活に必要な最後の6カ月間の日用品の供給によって生じた債権にも先取特権を認めた理由は、間接的に無資力に近い生活を保護しようとする社会政策的配慮によるものです。

 

2)動産先取特権

  債務者の特定の動産を目的とする先取特権を動産先取特権と言います。

民法では、

①不動産賃貸借

②旅店(旅館やホテル)の宿泊

③旅客または荷物の運輸

④動産保存

⑤動産の売買

⑥種苗または肥料の供給

⑦農業の労務

⑧工業の労務――の全部で8種類の債権に先取特権を規定しています。

  これらの動産先取特権制度は、売主保護を目的とする動産先取特権以外は、今日では重要性を失ってきています。

 

3)不動産先取特権

  債務者の特定の不動産を目的とする先取特権を不動産先取特権と言います。

①不動産保存

②不動産工事

③不動産売買――の3種類の先取特権が民法に規定されています。

  不動産保存では保存行為完了後ただちに、不動産工事では工事を始める前に先取特権を登記することによって、先に登記されている先順位抵当権(後の回で解説)にも優先するものとされています。しかし、不動産売買先取特権には、この優先は認められていません。

 

Ⅲ.先取特権の効力

  先取特権の効力は、何と言っても①優先弁済的効力が中心と言えますが、そのほかに

②物上代位性

③対抗力

④追及力――などが社会生活のさまざまな場面で重要となります。

 

1)物上代位性

  物上代位とは、何らかの理由で目的物が別個の代替物に転じた場合、その目的物に代わる物の上にも効力が及ぶことを認めることです。
例えば、担保物権が設定された建物が火災によって焼失してしまった場合に、その建物の火災保険金の上にも効力が及ぶことです。この物上代位性は、特定の目的物の存在が前提になっていますから、総財産を目的とする一般先取特権には認められませんが、動産先取特権、不動産先取特権には認められています。

  先取特権に物上代位性が認められている理由には、2つの説があります。

①担保物権保護の見地から政策的に法で認めたものと考える政策説

②先取特権は目的物の交換価値を把握する権利である以上、権利の性質から当然とする当然説

  通説では②の当然説がとられています。物上代位の行使には、その払渡しまたは引渡し前の差押えが必要ですが、差押えが要求される理由は、当然説の観点では、単に目的物の特定のために要求されるものです。

 

2)対抗力、追及力など

  一般先取特権は不動産について登記がなくても一般債権者に対して優先権を主張できます。また、不動産の工事、保存の先取特権は登記することで先順位の抵当権にも優先するなどの一般原則に対する例外が認められています。

  また、動産先取特権は動産が第三者に引渡されてしまうと、その目的物に対して先取特権を主張できなくなってしまいます。その場合は、物上代位性に頼ることになります。

 

Ⅳ.先取特権の順位

  1つの財産に複数の先取特権が競合する場合、先取特権相互の優劣を決めて順番に配当していくことが必要になります。
例えば、動産を目的物とする先取特権は、一般先取特権の4種類と動産先取特権の8種類を合わせた12種類なので、その12種類の中で優劣を決めなければなりません。

  原則としては、一般先取特権と動産先取特権では、共益費の先取特権を除いて動産の先取特権が優先されます。動産の先取特権間では、当事者の意思の推定に基づくものが第1順位、強い公平の原則に基づくものが第2順位、その他の物が第3順位と規定されています。

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