第64回 担保物権はどういう権利か

  物権が、まず占有権と本権に、その本権がさらに所有権と制限物権に、その制限物権がさらに用益物権と担保物権に分かれることは今までに解説したとおりです。今回は、担保物権について詳しく解説し、その一つ留置権を見てみましょう。

民法64-1

 

Ⅰ.担保物権総論

  皆さんご存知のとおり、担保は借りたお金が返せなくなったら持っていかれてしまう物のことです。法的な担保物権の定義は、債権の履行確保のために、物の上に債権者が優先的に権利行使を認められる権利とされています。

  そして、さらに担保物権は、

①法定担保物権

②約定担保物権――に分けることができます。

法定担保物権とは、法律の規定により当然に発生する担保物権で、民法では留置権と先取特権が規定されています。

また、約定担保物権とは、当事者間の意思表示によって発生する担保物権で、民法では質権と抵当権が規定されています。それぞれの権利については、これから、何回かに分けて一つずつ詳しく解説します。

  担保物件の効力には、次の3つがあります。

①優先弁済的効力

②留置的効力

③収益的効力

  ①の担保物件の優先的弁済効力とは、債務の弁済が得られないときに担保の目的物の持つ価値から他の債権者に対して優先して弁済を受けることができる効力のことです。

  ②の担保物件の留置的効力とは、債務が完済されるまで担保権者が目的物を留置することができる効力です。留置とは、物を一定の支配のもとにとどめておくことで、目的物を留置することによって、間接的に債務の弁済を促すことにその趣旨があります。

  ③の担保物件の収益的効力とは、担保権者が担保の目的物を収益し、これを債務の弁済に充当することができる効力のことです。

  また、担保物件には、次の4つの性質があると言われています。

①附従性

②随伴性

③不可分性

④物上代位性

  ①の担保物件の附従性とは、債権がないところに担保物権は認められないという性質です。つまり、債権が発生しなければ担保物権も発生せず、債権が消滅すれば担保物権も消滅します。この理由は、担保物権が一般に特定の債権を担保にするために設定されるものだからです。

  ②の担保物権の随伴性とは、債権が移転すればそれにつれて担保物権も移転するという性質です。

  ③の担保物件の不可分性とは、被担保債権の全額の弁済を受けるまで、目的物の全部について権利を行使できるという性質です。

  ④の担保物件の物上代位性とは、担保物権は目的物の売却・賃貸・滅失・損傷などにより債務者が受ける金銭についても、優先的に弁済が受けられるという性質です。

上記の担保物権の効力と性質は、行政書士試験受験のためにどうしても覚えてほしい事柄です。下表は、これから学ぶ4つの担保物権を比較して効力と性質をまとめていますので、参考にしてください。

民法64-2

 

Ⅱ.留置権

  留置権とは、例えば、車の修理を依頼された修理工場が、依頼主から修理代を支払ってもらうまで、車を工場に置いておく権利です。法的な言い方をすると、他人の物の占有者が、その物に関して生じた債権を有するときに、その弁済を受けるまでその物と留置できる権利のことです。この趣旨は、当事者間の公平を図るためです。

留置権は前述のとおり法定担保物権なので、法律で次の4つの要件が満たされた場合に発生します。

①目的物(留置権)と債権との牽連(けんれん)性

②債権が弁済期にあること

③他人の物を占有していること

④占有が不法行為で始まったものではないこと

  ①を簡単に言うと、他人の物の占有者が、その物に生じている債権を持っていることが必要ということで、牽連性は、「関連がある」と言い換えてほぼ同じ意味です。
過去の判例で、牽連性が認められるものは、

①借地人の建物買取請求権の行使によって発生した建物代金債権と土地

②不動産の買主が売買代金を未払いのまま目的物を第三者に譲渡した場合の売主の買主に対する代金支払請求権と目的物――などです。

  一方、認められないものは、

①借家人の造作買取請求権の行使によって発生した造作代金債権と建物

②不動産の二重売買で一方の買主のため所有権移転登記がされた場合の他方の買主の売主に対する損害賠償請求権と不動産

③不動産の賃貸借が終了した場合の賃借人の賃貸人に対する敷金返還請求権と不動産――などです。

 

1)留置権の効力

  留置権には当然ですが留置効力があります。他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を持っているときは、その債権の弁済を受けるまでその物を自分の下に留め置くことができるのです。判例によれば、その方法は、物の引渡しを求める裁判で、被告が留置権を主張した場合には、原告の請求を全面的に棄却することなく、その物に関して生じた債権の弁済と引換えに物の引渡しを命ずる引換給付判決をすべきとされています。
簡単に言うと、例えば修理のために預かった物の修理が終わっても、代金未払いで、物の返還を請求された場合は、代金と引換に物を返還すればいいですよ、ということです。

また、留置権者は、債権の全部の弁済を受けるまでは、留置権の全部についてその権利を行使できます。つまり、全部弁済を受けるまでは、物を引渡さなくてもいいということです。これは、留置権の不可分性から生じる効力です。

では、反対に、留置権者に留置中発生する権利義務はないのでしょうか?

  留置権者の権利義務には、次の3つがあります。

①善管注意義務

②果実からの債権回収

③費用償還請求権

  ①の善管注意義務とは、留置権者は善良な管理者の注意を持って留置物を占有しなければならないという義務です。さらに、留置権者は、留置物の保存に必要があって使用する場合を除き、債務者の承諾なしに留置物を使用したり、ましてや賃貸したり担保提供したりできません。これに反した場合には、債務者は留置権の消滅を請求することができます。

  ②の果実からの債権回収とは、留置権者は、留置物から生ずる果実を取得し、他の債権者に先だって自己の債権の弁済に充てることができるということです。

  ③の費用償還請求権とは、留置者は、留置物について必要費を支出したときは所有者にその償還を請求できるということです。
また、留置物について有益費を支出したときは、それにより目的物の価格が増加した時には、所有者の選択に従いその支出した金額または増加額を償還させることもできます。ただし、この場合、所有者の請求により裁判所は、その償還について相当の期限を許与することができます。相当期限が許与されると、留置権の成立要件の一つ被担保債権が弁済期にあるという要件を欠くことになるので、留置権が成立しなくなります。

 

2)留置権の消滅

  留置権が消滅するのは、

①代担保の提供

②留置物の占有の喪失――の場合です。

  ①の代担保の提供とは、債務者が相当の代わりの担保を提供して留置権の消滅を請求し、認められれば留置権は消滅します。これは、被担保債権額に比べて過大な価値の物が留置されている場合には実益があります。
例えば、修理に出した車の留置権を取消す場合に、修理代に見合った担保物権を預けて、車を引渡してもらうことがこれに当たります。

  ②の留置物の占有の喪失とは、修理に出された車を第三者に貸出せば、留置権は主張できません。ただし、債務者の承諾を得て、留置物を賃貸したり質権の目的とする場合は、留置権は消滅しないことになっています。

  上記以外に債権の消滅時効の場合があります。民法では、留置権の行使は、債権の消滅時効の進行を妨げないことになっています。この場合も、被担保債権の債務者が原告である訴訟において、留置権が主張された場合には、債権の消滅時効の中断が認められることになっています。

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