第60回 占有権の取得と移転

  今回は、物権の一つ占有権の解説です。占有権とは、物の事実的な支配を保護する権利です。①占有権の意義や占有の種類、②占有権の取得と移転、③占有権の効力と消滅――について解説します。

民法60-1

 

Ⅰ.物を所持することにより得られる占有権

  占有権は物の事実的な支配を保護する権利ですが、その支配の根拠は一切問わず、事実上支配しているということによってのみ生じる権利です。例えば、泥棒が盗んだ宝石を自分の家の押入れに隠している場合は、泥棒にはその宝石を支配する正当な根拠は何もないにもかかわらず、法的には泥棒のその宝石に対する占有権が認められています。もっとも、この場合の法とは、もちろん刑法ではなく民法上のことです。

  このように占有権は支配の根拠を問わないという点に特徴があり、他の物権と少し毛色が異なると言えます。占有権は支配の事実のみの問題なので権利とするべきではないとの意見もあるくらいですが、民法では占有権も物権の一つで、占有権以外の所有権など根拠を持った物権は、本権と呼ばれています。

民法60-2

  占有の要件は2つです。

①所持 = 事実的支配

②自己のためにする占有意思

もっとも、占有意思とは、その有無は占有を生じた原因から客観的に占有と判断されるもののことです。

  さて、占有にはさまざまな観点からの分類がいくつかありますが、まず、占有は代理人によっても行えることから、

①自己占有

②代理占有――に分かれます。

自己占有は、占有者本人が自ら物を所持している場合、代理占有は、本人が他人(占有代理人)の占有を通じて所持する場合です。

  また、占有に対して所有の意思があるか、ないかで分ける

①自主占有

②他主占有――も、取得時効の際には、重要な要素となります。

  占有すべき本権がないにもかかわらず、本権があると誤信して占有している善意占有、本権がないことを知っていたり、疑いを持ちながら占有している悪意占有に分けることもあります。
善意占有はさらに、その善意について過失の有無で2つに分けられます。悪意・過失・強暴・隠秘・不継続――などの占有に基づく完全な効果生ずるのに妨げとなる事情を伴う占有を瑕疵ある占有と言います。それに対して、前述の事情を伴わない占有を瑕疵なき占有と言います。これらは、費用償還請求の範囲(後述)に違いをもたらします。

  そのほか、占有の主体が単独人か複数人かによる単独占有共同占有という分け方もあります。

 

Ⅱ.占有権の取得と移転

  占有権を取得するためには、動産物権変動の対抗要件としての引渡しを受けることが必要です。
この引渡しによる占有権の取得には、次の4つの方法があります。

①現実の引渡し

②簡易の引渡し

③占有改定

④指図による占有移転

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民法60-3

 

1)現実の引渡し

  現実の引渡しとは、読んで字のごとく現実に物の支配を移転することです。
Xさんが持っているスマートフォンを、Yさんに実際に売渡せば、そのスマートフォンは現実の引渡しによってXさんからYさんに所有権移転し、Yさんはスマートフォンの占有権を取得したことになります。

 

2)簡易の引渡し

  簡易の引渡しとは、すでに相手が物を支配しているときに、こちら側が相手に渡したことにする場合を指します。
例えば、Xさんが占有しているスマートフォンをYさんが借りていた(占有補助者と言います)場合に、XさんとYさんの意思表示のみで、Yさんへ占有を移転する(あげてしまう)ことです。

 

3)占有改定

  占有改定とは、現実にはこちら側に物が置かれたままの状態で、相手方に占有権が移転したことにする場合です。
Xさんがスマートフォンを所持し、占有権も持っている場合に、XさんとYさんの間の意思表示でYさんに占有が移転したことにし、引続きXさんが所持している(占有補助者)場合です。

簡易の引渡しと比べてみると、どちらも意思表示のみで占有権の移転が生ずることは同じですが、簡易の引渡しでは、最初にスマートフォンを所持していた者が占有補助者から占有主体に格上げとなるのに対し、占有改定では、占有主体から占有補助者に格下げとなります。

 

4)指図による占有移転

  指図による占有移転とは、第三者の下に物が置かれたまま、相手方に占有を移転したことにすることです。
Zさんがスマートフォンを占有補助者としてXさんのために所持している場合に、XさんとYさんの間の意思表示で、Yさんに占有が移転することです。この場合は、XY間の意思表示だけでは事足りず、Zさんに対してXさんが命令する必要が出てきます。その理由は、現実に物を所持しているZさんに対して、誰のための占有かを知らせる必要があるからです。


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Ⅲ.権利のない占有は無効

  占有権の効力は、大きく次の3つに分かれます。

①一定の要件の下で占有自体に本権同様の扱いをしようとする本権取得的効力

②占有が本権を公示するという本権公示力

③占有そのものを保護する効力

 

1)占有の本権取得的効力

  占有の本権取得的効力はさらに、

①占有が本権に昇格するという効力

②占有が本権と同様の効果を認められるという効力――とに分かれます。

①の本権昇格的効力の代表は、取得時効ですが、このほかに無主物や家畜外動物は、一定の要件で占有が本権に昇格します。

②の本権と同様の効力が認められる場合には、善意の占有者に認められる

A占有者の果実収取権

B費用償還請求権

C滅失毀損の損害賠償責任――があります。

果実取得権限を伴う本権がないのに、本権があると誤信していた善意の占有者は、占有物から生じる果実を取得することができます。

また、占有者が必要経費を支出したときは、原則として常に費用の償還請求ができ、有益費の支出の場合は価格の増加がある場合に限って、支出した費用額または現存の増加額のいずれかの償還を受けることができます。

一方、占有者が自分の責任で占有物を滅失したり毀損した場合は、正当な理由のない占有者はその全部の損害賠償を行う義務を負いますが、正当な理由のある占有者は、その行為で利益があった分だけ賠償すれば足ります。

 

2)本権公示的効力と即時取得

   本権公示的効力は、動産についての占有の公示力が主ですが、ほかに本権の推定力や公信力があります。
本権の推定力とは、「物の占有者は多くの場合は適法な本権者だ」という経験則を基礎に、占有には「おそらく占有者が本権者だろう」という推定力が与えられることです。
また、さらに民法では、動産については、この推定力から取引に入った物を保護する即時取得の制度を認めています。

 

3)占有そのものを保護する効力

  占有そのものを保護する効力に占有訴権があります。占有訴権とは、占有者が占有を妨害されるか、妨害されるおそれがある場合に、妨害者に対して妨害または妨害のおそれを排除することを請求して占有の回復や維持を図る権利です。
占有訴権は、その侵害の態様に応じて、

①占有保持の訴え

②占有保全の訴え

③占有回収の訴え――の3種類があります。

  また、自己占有は、占有の意思を放棄したり、目的物の所持を失うことで消滅します。

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