第58回 時効制度の仕組み

   私たちが社会生活を送っていると、時々耳にする時効という言葉。時効制度は、法律が定める一定の期間、ある事実状態が続いた場合に、その事実を保護する制度です。
例えば、他人にお金を貸した場合、そのまま放っておくと、10年間過ぎると返してもらう権利は消滅してしまいます(消滅時効)。また、この逆に一定時間過ぎると権利を得ることができる時効もあります(取得時効)。

  今回は、①時効の概念、②時効の中断、③時効の種類――と順に解説していきます。

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民法58-1

 

Ⅰ.時効の概念

  時効とは、一定の財産権について、占有とか権利不行使という事実状態が一定期間継続した場合に、この事実に即して新たな権利関係を形成する制度のことです。

  時効が完成するには、一定の時の経過が必要です。その起算点は、取得時効においては事実状態の開始する占有開始時、消滅時効においては権利不行使の開始する権利行使可能時とされています。

  ただし、一定の期間が過ぎたからといって、法的に時効が完成するわけではありません。時効が適用されるためには、一定期間継続した事実状態のほかに、時効による利益を受ける人が、その利益を受けるという意思表示を行う必要があります。この意思表示を時効の援用と言い、権利変動を確定させるための停止条件でもあります。

また、時効の援用の趣旨は、時効の利益を受けることを潔としない当事者の意思を考慮することですから、時効の利益を受ける人が、時効が完成してもその利益を放棄することもできるのです。

次に時効の援用を行える人(援用権者)を表にまとめますが、内容として、後に各論で説明する内容が多く含まれるので、一通り民法の学習が済んでから、読み直しすることをお勧めします。

民法58-2

 

Ⅱ.時効の中断

  冒頭で例に挙げた他人にお金を貸した場合、10年が過ぎ、借主が時効の援用を行うと権利は消滅してしまうのですが、貸主がこれを阻止することは可能なのでしょうか?

  時効の完成を阻止するための手段に、貸主が貸金の返還を求める裁判を起こすことがあります。これにより、それまでの時の経過は無かったことになり、権利の消滅を避けることができます。この場合の裁判を起こす行為は、時効の中断事由と呼ばれますが、中断とは一時的な中断ではなくて、その続きが再開されることはない中断です。サッカーで言えば、雷雨が来たので時計を止めて一時的な中断を行い、雨雲が去れば試合再開する中断ではなく、止みそうもない豪雨に、その試合はなかったことにして翌日、初めから再試合をすることです。

  時効中断の事由には、次の4つがあります。

①請求

②差押え・仮差押え・仮処分の請求

③承認

④破産手続き参加など

 

Ⅲ.時効の種類

 ある事実状態が一定期間継続して、権利を所得する場合が取得時効権利不行使の状態が一定期間継続して権利を失う場合が消滅時効とお話ししましたが、例えば、他人の土地を時効取得するのはどんな場合でしょうか?

 

1)所有権の取得時効

  民法の規定を読むと、所有の意思を持って平穏・公然に他人の物を占有した者は、その占有開始時に善意・無過失の場合には10年、悪意または過失のある場合には20年の経過によって、時効が完成するものとしています。

  取得時効の要件として、取得時効の適用には必ず所有の意思が必要です。ですから、土地について所有者と利用契約を結び、その上に家を建てて20年以上住んでいても、その土地を時効取得することはできません。なぜなら、その土地の占有は利用契約によるものであって、所有の意思ではないからです。この所有の意思は、占有者の心の中で思っているだけでは足りず、占有の事情(この場合は利用契約)などから客観的に判断されます。

  また、民法で言っている善意とは、例では土地の所有者が自分でないことを知らない場合を言い、悪意とは知っている場合を言います。このことは、占有開始時点で判断されるので、占有している途中で悪意となっても10年の経過で時効が完成します。

  占有の事実とは完全に支配していること指し、例えば、固定資産税を納めているなど周囲から見るとその人の所有物に見えるような場合のことで、総合的に客観的に判断されます。

 

2)所有権以外の取得時効

  所有権以外の財産権にも取得時効が適用され、時効期間は所有権と同じく、善意・悪意でそれぞれ10年、20年と定められています。

  取得時効の対象となり得る権利は、地上権、永小作権、地役権などの用益物権や質権等占有を要素とする権利で、財産権でも抵当権のように占有を要素としない権利や、解除権のように権利行使の継続が予定されていない権利には、取得時効の適用はありません。

  債権も一般的には取得時効の適用外ですが、判例では、賃借権は占有を要素としている点で、取得時効の適用があるとしています。

 

3)消滅時効

  取得時効とは反対に、一定の時の経過とともに権利を失う場合を消滅時効と言います。権利不行使の状態が続けば、消滅時効の適用が考えられますが、所有権については沿革的な理由もあって、消滅時効の適用はないとされています。

  したがって、所有権に付随した所有権に基づく物権的請求権も消滅時効にはかかりません。また、被担保債権に従属する質権・抵当権も被担保債権と別個独立に消滅時効にかかることはないとされています。

  次に、消滅時効までの期間を表にしてまとめましたので参考にしてください。

民法58-3

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