第54回 意思表示の到達と受領能力、そして法律行為の無効と取消し

  今回は意思表示と法律行為の総まとめです。①表意者が発信した意思表示が効力を発生するのはどの時点か、②意思の受領者が未成年や成年被後見人だったらどうなるか、③法律行為が無効や取消しとなる場合のまとめ――を勉強します。

 

Ⅰ.意思表示の成立はどの時点?

  意思表示の有効・無効が法律効果に大きな影響を与えることは前回までによく理解できたと思います。でも、契約などの場面では、常に当事者どうしが相対して行うとは限りません。では、例えば、契約書が郵便で送られる場合など、いつの時点で有効な意思表示となるのか考えてみましょう。

  では、ここで問題です。マンションの賃貸借契約の解除(意思表示)を郵送で行う場合、その意思表示の効力はいつの時点で発生するのでしょうか?

   1.解除申込みの文書を書いた時

   2.文書をポストに投函した時

   3.その文書が相手の郵便受けに届いた時

   4.相手がそれを開封して読んだ時                                                           

                                                    ――答えは、3です。

  民法では、意思表示の成立について到達主義の原則をとっています。相手方に到達すれば、意思表示が相手方の支配下に入ったものと考えられるからです。

  では、もし、表意者が契約の申込書をポストに投函した直後に死亡したら、どうなるのでしょう? 民法では、このような場合は、相手方が発信者の死亡を知っている時や申込者が相手方と反対の意思表示をしている場合には、申込みの意思表示は効力を失うものとしています。

  そして、契約の受諾については発信主義、承諾の意思表示をポストに投函した段階で効力が発生します。つまり、受領者が契約の受諾をポストに投函したとたんに契約が成立するのです。

  では、この場合に、もし郵便物が途中で紛失してしまっても契約が成立してしまうと、申込者に不利益が生じないのでしょうか? 
民法では、ポストに投函した郵便物が紛失した場合には、契約が成立したと思っているのに成立していない場合の受諾者の不利益の方が重いと考え、受諾の発信主義をとることは合理性があると判断しています。

民法54-1

 

Ⅱ.意思の受領者が未成年や成年被後見人だったら?!

  前述のように意思表示は原則として到達をもって有効となるわけですが、意思表示の受領者が、制限能力者のうちの未成年者や成年被後見人だったらどうなるのでしょう?

  民法では、未成年や成年被後見人が受け取っただけでは意思表示の到達とはいえず、法定代理人や後見人が到達したことを知った時を意思表示の到達としています。これは、未成年者や成年被後見人の保護を図るためです。

 

Ⅲ.法律行為が無効や取消しになる場合

  さて、皆さんは、これまでの解説に、法律行為の無効や取消しという言葉をよく目にしたと思います。何気なく読んできたと思いますが、無効と取消しの違いってなんでしょう? どちらも法律行為としての効力が否定されている点は共通していますね。

  一番重要な違いは、無効は、最初から何の効力もなかったものとして扱われます。一方、取消しは、最初はあくまで有効な法律行為で、取消権を持つ者が取消しの主張をした時点で効果が発生しないものとなります。

  無効や取消し可能な行為を、後から確定できる法律行為に認めることを追認と言いますが、無効な行為は追認しても、追認が新たな行為としての要件を備えている場合に限って、追認した時点から効力が発生するのに対して、取消しが可能な行為の追認は、最初に遡って効力が発生します。

  また、無効な行為は、行為自体の効力が発生しないのに対し、取消しできる法律行為の効力を否定するためには、取消権の行使が必要です。

取消権の主張ができるのは、①制限能力者、②瑕疵ある意思表示をした者と③その代理人、または④その承継人――です。

  取消しの主張方法は、原則として相手方への取消しの意思表示です。取消しの意思表示が行われると、当該法律行為は遡って最初から無効だったことになりますが、これを遡及的無効と言います。

  取消権は権利である以上、放棄することも可能です。取消権者が取消権を放棄して、法律行為を完全に有効なものに確定する追認を行えるのも、取消権者その人です。追認の方法も取消しと同じく、相手方への意思表示で、追認された法律行為は有効に確定されます。

  追認を行わなくても、受領者が当該法律行為から発生する権利を行った場合は、追認したと見なされ、これを法定追認と言います。

  取消権は、前述の追認や、法定追認のほか、時効(後ほど解説します)によっても消滅します。つまり、追認できる時点から5年、または行為の時から20年で、取消しを行うことはできなくなるのです。

民法54-2

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