第53回 法律制度の有効・無効

  法律行為は意思表示を中心に成り立っていることを前回お話ししましたが、意思表示にはいくつかの過程があります。また、契約してもそれが無効となる場合もあります。さらには、取消されてしまう契約さえあるのです。

  今回は、まず①意思表示の過程を考え、②契約が無効となる場合、③契約が取消しとなる場合――について解説します。

 

Ⅰ.意思表示の過程

民法53-1

  例えば、行政書士試験の問題集を買う人の心の中を考えてみましょう。

まず、①心の中に「解説書を一度読み終えたから問題集を買おう」という動機が発生します。

次に、②書店に並ぶ問題集を見比べて「この過去問は丁寧な解説が載っているので使いやすそう」という効果意思が発生します。

そして、③「レジに行って、『これください』と言おう」という表示意思を持ち、

それから実際にレジに行って、④「これください!」という表示行為を行って意思表示の完成となります。

  この場合の②~④が意思表示に当たります。このように、内心で決定された意思は効果意思・表示意思を呼び、それを外部に伝達する表示行為を行って、初めて意思表示が完成するわけです。

 

Ⅱ.契約してもその約束が無効となる場合がある

  意思表示と表示行為が一致していないことを、法的用語では、意思の不存在と言っています。
意思の不存在には主に次の3つがあります。   

①心裡留保

②錯誤

③通謀虚偽表示

民法53-2

1)心裡留保

  本当は車を買うつもりは全然ないのに、「車を買います」とディーラーに伝えた場合、車を買うという意思表示は有効な意思表示と言えるでしょうか? これは、内心的効果意思と表示行為で示された意思とが食い違っている場合で、心裡留保(しんりりゅうほ)と言い、食い違いの意思表示を表意者自身は自覚しています。

  この場合、車を買うという意思表示は原則として有効な意思表示として成立します。すなわち、例で挙げた車の購入の場合、車購入の契約は成立します。本人にその気がなくても、外に表明した以上、周りの人はそれを真意と捉えるので無効とすると混乱しますし、本人も意思表示した以上責任をとるべきだからです。

 

2)錯誤

  心裡留保とは異なり、内心の意思と表示行為が食い違っていることを表意者自身が気づかない場合を錯誤と言います。この場合は、原則としてその意思表示は無効とされます。本人が意図していない以上、本人を保護するのが、民法の建前です。

  しかし、この場合でも、表示意思があるということは、当然、周囲の人々はそれが真意と考えるので、無効となった場合には混乱が生じます。そこで、民法は、表意者に重過失がある場合には、錯誤による意思表示でも有効なものとして、本人の保護ではなく、周りの人々の保護を図っています。

 

3)通謀虚偽表示

  相手方と意思を通じて行った虚偽の意思表示を通謀虚偽表示と言います。例えば、債権者からの差押えを免れる目的で、まるで財産を譲渡したかのように見せることがこれに当たります。このような法律行為の効果は無効です。通謀虚偽表示の場合は両当事者に真意が存在しないので、錯誤と異なり、相手方の保護を考える必要がありません。

  ただし、虚偽の法律行為を信じて、その後に事実を知らない第三者(善意の第三者と言います)が法律関係に関わってきた場合は、善意の第三者を保護する必要が出てきます。民法では、このような場合は、第三者がその虚偽表示を有効であると主張することを認めています。

 

Ⅲ.瑕疵がある場合は取消しとなる

  瑕疵(かし)とは欠陥があることで、意思表示の形成過程に瑕疵がある場合にも、混乱が生じます。意思表示の形成過程の瑕疵とは、詐欺強迫です。

  これらの場合は、錯誤と異なり、意思と表示の不一致があるわけではありません。例えば、詐欺によって売買契約を締結した場合にも、売買契約をしようという意思は存在しているわけです。民法では、この場合は意思表示の効果を無効とはせずに、表意者(被欺罔者:ひぎもうしゃ)に取消権を与えるという方法で被欺罔者の保護を図っています。

民法53-3

1)詐欺

  詐欺は、欺罔行為によって人をだまし、それに基づいて意思表示をさせることです。欺罔行為とは故意に事実を偽ることです。

  辺鄙(へんぴ)な地域にある土地を売りたくて、鉄道が敷設される予定がないのに「この付近には近々鉄道がひかれるので、通勤にも便利になります」と言って、土地を売り付けた場合はこれに当たります。詐欺の効果は被欺罔者の取消権です。

  詐欺の通常の場合は、契約の相手方が欺罔するというものですが、契約当事者以外の第三者が欺罔をする場合もあります。この場合、被欺罔者が常に取消せるとすると、相手方に予期せぬ損害を与えるので、民法では、相手方が欺罔の事実を知っていた場合のみ、被欺罔者の取消権を認めています。こうして、被欺罔者と相手方の保護の調和を図っています。

  また、土地売買の契約において、買主が売主を欺罔して土地を取得し、その土地をさらに第三者に転売したときに、売主が元の売買契約の取消権を行使すると、転売を受けた第三者が予期せぬ損害を被ることになります。そこで、民法では、詐欺による取消しは、善意の第三者に対抗できないとして、第三者の保護を図っています。

  保護される第三者の範囲は、判例によれば、取消前に詐欺の事実を知らずに利害関係に入った者としています。

2)強迫

  他人に畏怖(脅かし)を与え、その畏怖によって意思表示させるのが強迫です。強迫による意思表示を取消すことができるのは、詐欺と同様です。

  また、この取消は善意の第三者にも主張ができます。

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