第49回 私権の享有と権利能力

  前回の解説で民法の全体像は、およそつかめましたか? まだ、不安に思ってらっしゃる方も安心してください。これから、一つひとつを一緒に確認していきましょうね。

  今回から、民法の総則を勉強していくわけですが、総則の中には、概念的な内容のものもあって、理解しにくいこともあるかと思います。でも、それで、大丈夫です。物権や債権について規定した各論に入って、総則で言っていたことがより具体的に理解できるようになり、「そうだったのか!!」と、目の前がパアーッと明るくなる瞬間がありますので、焦らずにその項でどうしても覚えなくてはならないことだけを、しっかり身に付けていきましょう。この解説では、フォントを変えて注意を促しますので、参考にしてください。

  さて、今回は、まず民法の基本原則を復習し民法の精神を理解した後、人が等しく持っている権利について解説していきます。サッカーに例えると、サッカー選手に必要な心構えや基本的精神と、サッカー選手がピッチ内でできることに当たります。

 

Ⅰ.民法の精神を理解しよう

民法49-1

  何度も言っていますが、民法は個人と個人との関係を規律するルールです。このような、個人と個人の関係を問題としている法律を私法と言います。憲法や刑法のような個人と国家との関係を問題としている公法に対する言葉です。

  民法は個人間のルールを決めるに当たって、個人の権利と義務を中心に考えていますが、民法上の権利を私権と呼びます。

  民法は第1条で、まず、私権についての基本原則を定めています。その原則とは、人は大勢の人の中で生活しているわけですから、個人の権利も社会的観点から制約を受けることを表明しているのです。

  でも、条文の内容はかなり抽象的で、裁判などでこの条項を適用する場合には、裁判官などの裁量で具体化することが必要です。このような規定が抽象的で裁判官などの解釈による補充や具体化が必要な条項は一般条項と呼ばれています。

 

  それでは、個人の権利が制約を受ける場合を見ていきましょう。

1)公共の福祉

  1条1項には、「私権は公共の福祉に適合しなければならない」と規定されています。個人の権利はあくまで市民社会の中での権利である以上、社会的側面からの制限があり得るということです。ただし、この規定が直接適用されたり、他の規定の解釈に援用されることはあまりありません。

2)信義則

  1条2項は、「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない」という信義誠実の原則(信義則)を定めています。この原則は、①契約の履行、②契約の解除、③契約自体の解釈――の局面で用いられています。

3)権利の濫用

  1条3項は、「権利の濫用は、これを許さない」という規定です。一見権利の行使らしく見えても、実際には権利の範囲を逸脱している場合は、権利の濫用としてその権利が制約されます。

例えば、購入した土地に家を建てようとしたら、たまたま下水道管が地中を通っていたので撤去を求めたことが、権利濫用として許されなかったりすることです。

 

Ⅱ.人は生きている間は私権を享有できる

民法49-2

  権利という言葉は、民法で自分の主張が正当であることを示すのに用いられる言葉です。そこで、自分の利益を主張するには、自分は権利者(権利の主体と言います)だと主張することとイコールになります。このような権利の主体となれる一般的な地位や資格を権利能力と言っています。

  権利能力を持たなければ権利者とはなれないのですが、権利能力を持つことは義務を負うということでもあります。権利能力があるから、物を買えるのですが、当然、代金の支払いの義務も負います。

  この権利能力は、自然人すべてに平等に認められていますが、法律によって権利能力を付与された団体、つまり法人にも一定の範囲内で権利能力が認められています。

 

1)権利能力の始期と終期

  すべての人間は生まれたとたんに権利能力を取得し、死んだとたんに権利能力を失います。これを読むと、お母さんのおなかの中にいる胎児には権利能力がないということになりますね。でも、民法では、例外として胎児についても、①損害賠償請求、②相続、③遺贈――の3つの場面で、胎児の権利能力を認めています。

①~③の各々の権利については、後ほどの各論で説明しますので、ここでは省略します。でも、どうして、3つの場合に認めたのかについて、判例の解釈では、出生することによって胎児の時まで遡って権利能力があったことになる停止条件説を採用しています。また、解除条件説と言って、胎児の時にすでに3つの法律行為に関しては権利能力があったと考え、死産であった場合には、それらの法律関係も遡って権利能力がなかったものとの解釈も存在します。

  一方、法人は設立によって権利能力を取得し、解散とそれに続く清算という一連の手続きで法人が消滅することによって権利能力を失います

 

2)失踪宣告

  人間の権利能力の終期は死亡といいましたが、本来生活の基盤であるはずの本拠を留守にする期間があまりに長かったり、その人の死亡の可能性が高い場合は、その人の権利能力をいつまでも認めていると、家族や関係者には困ることがいろいろ出てきます。そこで、登場するのが、裁判所が死亡と同様に扱うことを宣言する失踪宣告制度です。

  失踪宣告には、2つの種類があり、一つは①不在者の生死が7年間不明の場合に宣告される普通失踪、もう一つは②飛行機や船舶の事故などの危難に遭った人が、その危難のあと1年間生死不明の場合に宣告される特別失踪――です。

  失踪宣告は、利害関係人が家庭裁判所に請求します。執行宣告がなされると、宣告を受けた者は死亡したと見なされ(死亡の擬制と言います)、相続が開始され、婚姻も解消されます。ただし、失踪宣告は宣告された人の権利能力まで奪うものではなく、もし、生きていていたなら他の場所で生活することや権力の行使を行うことは可能です。

  失踪宣告を受けた人が生きていたり、失踪宣告の時死亡したと思われた時期と違う時期に死亡したことが明らかになった場合には、失踪宣告の取消の制度も整っています。

  失踪宣告が取消されると、死亡の効果は初めからなかったことになり、従来の法律関係が発生します。でも、すでに相続で得た財産を使っていたり、再婚していた場合はどうなるのでしょう?

まず、相続などで得た財産の返還は、全部でなくてよく、現に残っている利益の返還のみでOKです。また、再婚をした場合は、後婚を有効とする説が有力です。

民法49-3

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