第39回 内閣の役割と組織

  今回からは国の行政を司る内閣について、①内閣の役割と組織、②内閣総辞職あるいは衆議院の解散――に分けて、2回で解説します。

憲法39-1

  それでは、まず手始めに、内閣の役割と組織について、①行政権の意味、②内閣の組織、③国務大臣の任命と罷免、④内閣の職務――に分けて見ていきましょう。

 

Ⅰ.行政権の意味

憲法39-2

  憲法65条では、立法権が国会にあるとする41条、司法権が裁判所にあるとする76条とともに、行政権は内閣にあるとして、三権分立の原理を明らかにしています。

では、行政権とは何なのでしょう? 形式的な意味では、行政権は内閣が行使する権限のことを指しますが、それでは、この条文は「内閣が行使する権限は、内閣に属する…??」と同じことを繰り返しているだけになってしまいます。そこで、実質的な意味での行政権の意味を考える必要が出てきます。

  実質的な意味での行政権は、すべての国家の作用・権限から、立法権と司法権を控除した残りのものと考えられています。歴史的に見ると、権力分立の原理は、国家の支配権がまず立法権と執行権に分化し、さらに執行権が行政権と司法権とに分化――という流れが見て取れるので、それを根拠に控除した残りという捉え方ができるとされています。また、多岐にわたる行政活動を包括的にカバーするにも、残りの考え方(控除説と言っています)が必要とも言えます。

  ところで、条文の「属する」ですが、行政作用のすべてを内閣が行うという意味ではありません。立法権を規定した41条は「唯一の」、司法権を規定した76条は「すべて」と謳っているのと比べてみてください。
憲法は、内閣に直接属さない行政を想定していると言えるのです。実際問題として、膨大な種類や量に及ぶ行政作用のすべてを内閣が直接行うことは不可能に近いと言えますので、この「属する」の解釈は、行政作用は最終的に内閣が何らかのコントロールできる状態に置かれていれば足りるとされています。

  このように捉えることで、行政機関の一つの形態である公正取引委員会や人事院などの政治的中立や専門性が強く求められ、文字通り内閣から独立した存在となっている独立行政委員会が、65条に違反するものではないという考えを導くことができます。

 

Ⅱ.内閣の組織

憲法39-3

  66条1項で内閣は、「その首長たる」内閣総理大臣とその他の国務大臣で構成される合議体で、「法律」として内閣法が規定されていることが分かります。

  首長については、内閣総理大臣が内閣を構成する一員であるとともに他の国務大臣の上位にあることを意味していると解釈されています。

  2項では、内閣総理大臣とその他の国務大臣の共通する資格として文民であることを求め、軍部の独走を防ぐために軍事権を文民によってコントロールすること(シビリアンコントロールと言います)の実現を図ることを目的としています。なお、内閣総理大臣の資格は国会議員であることがさらに求められます。

 「文民」の解釈については、様々な意見があります。これが通説と言えるほどの突出している意見はありませんが、紹介だけしておきます。

①現在、職業軍人でない者(現役の自衛官も含む)

②職業軍人の経歴を有しない者

③職業軍人でなく職業軍人の経歴も有しない者

④旧陸海軍の職業軍人の経歴があって軍国主義思想に深く染まっている者

 

  66条3項は、内閣の連帯責任を規定しています。内閣は行政権の行使について国会に対して連帯して責任を負います。そして、内閣は閣議に基づいて行政権の執行を行います。

  閣議とは、内閣構成員である大臣が会合し、議論を経て議決を行うことで、内閣総理大臣が主催します。閣議の定足数や表決数については規定がありませんが、慣習に従い、議事は秘密に行われ、全員一致で議決するものとされています。

  そして、内閣が行政権の行使について国会に対して連帯責任を負うことは議院内閣制の最も基本的な要素の一つと言えます。ここでいう責任とは政治的な責任という意味で、責任の対象は内閣に属するすべての権限である行政権の行使、責任を負う相手は国会(両議院)です。国会が内閣の責任を追及する具体的な方法は主に次の3つです。

①大臣の出席を求めて質疑を行う

②問責決議をする

③内閣が提出した重要議案を否決する

  また、「連帯して」とは、一体としてという意味ですが、これは各大臣が個別に責任を問われることを否定する意味ではありません。

 

Ⅲ.国務大臣の任命と罷免

憲法39-4

  68条では、内閣総理大臣に他の国務大臣の任免権を認めています。この権限は内閣総理大臣が内閣の首長であることの実質的基盤です。明治憲法下では、内閣総理大臣にこのような任命権はかったので、陸海軍大臣の辞任を逆手に軍部が政治介入することを許した――という反省を踏まえて、日本国憲法では内閣における内閣総理大臣の地位を高めたと言えます。

  この大臣の任命権は、内閣の権限ではなく、内閣総理大臣の権限ですから、閣議に諮る必要はありません。ただし、国務大臣の任命には天皇の認証が必要であり、この認証についての助言と承認をすることには閣議が必要です。

  内閣総理大臣は国務大臣を任命する際は、

①文民から任命しなければならないこと

②その過半数は国会議員でなければならないこと――の2つのルールがあります。

「過半数は国会議員」とした理由は、①議院内閣制を円滑に運営するためと、②国会議員以外の人材も登用する必要があるため――のバランスをとったからです。ですから、もし、内閣の存続中に国会議員である国務大臣が亡くなって過半数を割った場合には、内閣総理大臣は過半数の要件を回復するために必要な措置をとらなければなりません。

憲法39-5

  法律と政令には、主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署することが必要という憲法74条の趣旨は、内閣の法律執行責任と政令の制定と執行責任の所在を明らかにすることです。ここでは「法律および政令」となっていますが、実務では条約についても署名・連署されるのが通例です。

  また、署名・連署の拒否はできないことになっていますが、法律や政令の有効要件に、署名や連署は入っていませんから、仮にこれが拒否されたとしても法律や政令の効力に影響することはありません。

憲法39-6

  通常「訴追」というと公訴を意味します。でも、75条が在任中の国務大臣について内閣総理大臣の同意なしに訴追できないとした趣旨は、合議機関としての内閣の活動を確保することと、検察による不当な訴追を防止することにあります。ですから、ここでいう公訴とは、捜査段階で、大臣の職務遂行を妨げるような逮捕や勾留なども含むと理解されています。

  しかし、訴追は内閣総理大臣の同意がなければできませんが、訴追の権利がないということではありません。つまり、内閣総理大臣の同意が必要なのは、国務大臣が在任中という期間であって、在任中の行為に対してではないのです。したがって、国務大臣がその職を退いた後は、その在任中の行為についての訴追は可能です。このことが、後段に規定されている「訴追の権利は害されない」に当たります。

 

Ⅳ.内閣の職務

憲法39-7

  72条は内閣総理大臣の職務を3つ定めています。

①議案を国会に提出すること

②一般国務及び外交関係について国会に報告すること

③行政各部を指揮監督すること

  しかし、これらの内容はすべて内閣の職務に属するものなので、内閣総理大臣の職は、内閣を代表してそれらの権限を行使したり、国会に提出・報告することになります。

  ①で言う「議案」とは、国会で議決の対象とされる原案として内閣から発案されるすべての案件の総称です。72条に議案に法律案が含まれるか含まれないかについての規定はありませんが、本条を受けた内閣法5条に内閣には法律案の提出権があることが明記されています。
次に議案に憲法改正案が含まれるかについては、意見が分かれるところですが、国会議員である大臣が、国会議員の立場で提出すれば何ら問題ないわけですから、議論自体が重要とは言えません。

  ②の「一般国務及び外交関係」とは、内閣の職務に属するすべての行政事務です。議院内閣制の中核をなす内閣の国会に対する連帯責任の意味からすると、内閣が国会に対して行政事務について報告義務を負うことは当然です。内閣総理大臣は内閣を代表してその報告義務を果たすというわけです。

  ③の行政各部の指揮監督については、72条を受けて内閣法6条には、「内閣総理大臣は閣議にかけて決定した方針に基づいて」行政各部を指揮監督すると規定されています。これは、行政権は内閣総理大臣一人ではなく、内閣という合議体に委ねられていることの表れと言えます。

  しかし、この点について、「ロッキード事件(最大判平7.2.22)」において、判例は、内閣総理大臣は、少なくとも内閣の明示の意思に反しない限り、行政各部に対し、随時、その所掌事務について一定の方向で処理するよう指導、助言等の指示を男耐える権限を有するものとしています。

憲法39-8

  73条は、内閣が行う行政事務のうちの重要なものを例示的に列挙したものです。

 

1)法律を誠実に執行し、国務を総理すること

  行政権の行使は、恣意的なものであることは許されず、法律に基づいて行われる必要があります。ここでいう「国務」とは、国家が行うべき事務のうち行政事務のことと理解されています。「総理する」とは、行政事務を統括し、行政各部を指揮監督することです。

 

2)外交関係を処理すること

  「外交関係」とは、外交交渉、外交文書の作成、外交使節の任免――などすべての外交事務のことです。

 

3)条約を締結すること

  条約とは、当事国に一定の権利義務関係を設定することを目的とした、国家間の文書による約束のことです。名称は「~条約」と呼ばれるものばかりでなく「~協定」「~協約」と呼ばれるものもあります。

  このような2号に規定された条約の締結はもちろん外交関係を処理することの一環ですが、特に重要な行為であるため、3号でも次のような規定が行われています。

  条約の締結に際しては、基本的には事前に、国会の承認が必要とされています(場合によっては事後でも可)。ところで、この場合、国会が事前に条約締結を不承認した場合は、内閣はその条約を締結しなければいいので、問題ありませんが、内閣がすでに承認してしまった条約を国会が不承認の決議を行った場合はどうなるのでしょう? 国内法上条約は無効となることは確実ですが、国際法上、どう扱うべきかについては有効・無効の意見の対立があり、結論は出ていません。

  条約締結の流れを見ると、①内閣が外国と交渉する→②国会が承認する(場合によって締結後)→③内閣が任命する全権委員が条約に署名・調印する→④内閣が批准する――となります。批准とは、国家として条約を締結する意思を最終的に確認し、条約の締結を確定させることです。

 

4)官吏に関する事務を掌理すること

  ここでいう官吏に国家公務員は含まれ、地方公務員は含まれません。官吏に関する事務の掌理は「法律の定める基準に従って行わなければならないので、国家公務員法が制定されています。

 

5)予算を作成して国会に提出すること

  予算の作成・提出に関しては、憲法86条で詳しく説明します。

 

6)政令を制定すること

  行政機関の制定する法を命令と呼びます。政令は、そのうち内閣が制定する命令のことで、命令の最上位に位置します。内閣が政令を制定できるのは、憲法および法律の規定を実施するために必要な場合です。つまり、法律の存在が前提です。前提となる法律がないのに政令を制定することはできませんし、前提となる法律と相反する内容の政令の制定も許されません。

  また、政令に罰則規定を設けることは可能ですが、特に前提となる法律による委任がある場合に限られます。

 

7)恩赦を決定すること

  恩赦は内閣の権限で決定し、天皇が内閣の助言と承認に基づいて承認します。

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