第30回 参政権とは

  今回は人権の中の参政権について解説します。参政権は、政治に参加する権利で、民主主義制度の根幹でもある重要な権利です。民主主義制度における参政権は、主に選挙権と被選挙権を意味しますが、我が国では、どう規定されているのでしょうか?

  今回は、大きく①公務員の選定罷免権、②選挙権――の2つに分けて学んでいきましょう。

憲法30-1

Ⅰ.公務員の選定罷免権

憲法30-2

  15条1項は、公務員を選定する権利と罷免する権利は国民固有の権利だ、と言っています。しかし、憲法を最後まで読んでも、国民の選挙による公務員の選定については43条で国会議員を、93条2項で地方公共団体の長・議長を、罷免については79条2項で最高裁判所裁判官に対する国民審査を――以上しか規定していません。

ということは、15条1項の規定は、すべての公務員に対しての選定する権利と罷免する権利を定めたものなのか、それとも違うのか…、これだけでは判断できないことになります。それに、すべての公務員を国民が選び、罷免していたのでは非効率的で現実的ではありません。そこで、15条1項の趣旨は、国民主権の原理を実現するために、公務員の選定と罷免は主権者である国民の意思を反映するものでなければならないことを明らかにしていると理解されています。

つまり、すべての公務員の選定や罷免については、直接あるいは、国民に政治を委ねられた国会や内閣を通じて間接的に、国民の意思を反映するものであれば、それで、必要で十分と言っているのです。

  15条2項では、公務員は全体の奉仕者であって一部の奉仕者ではないと規定していますが、公務員は一部の者だけの利益のために活動してはならないという公務員の中立性を明らかにしたものです。

さらに進んで全体の奉仕者であることが公務員の政治活動の自由などの人権を制限する根拠になるかという点に注目すると、戦後初期の判例では全体の奉仕者であることを根拠に、公務員の労働基本権の一律的な制約を合憲としていましたが(最判昭28.4.8)、現在の判例では、少なくとも全体の奉仕者であることのみを根拠に公務員の人権制限が合憲であるという姿勢は取っていません。

 

Ⅱ.選挙権

  選挙権とは、選挙人として選挙に参加することのできる資格または地位のことを言います。選挙権の法的な性質には、

①二元説

②権利一元説――の2つがあります。

  二元説は、選挙人は①一面においては選挙を通じて、国政についての自己の意思を主張する機会を与えられ、②他面では選挙人の集まりを構成して公務員の選定という公務に参加する存在で、選挙権は①の面では参政の権利、②の面では公務という義務の執行――とする説です。つまり、選挙権の行使は権利の行使であると同時に義務の遂行であるということで、これが現在の通説です。

  一方、権利一元説は、選挙権は国政についての決定権を有する国民が当然に持っている権利で、その行使は権利の行使に尽きる、つまり、義務の遂行という側面はない――とする説です。

  両者の具体的な違いは、選挙権に関する制約をどこまで認めるか、という点に表われます。例えば、現行の公職選挙法では、選挙犯罪者について一定期間、選挙権を停止しています。二元説をとれば、選挙権の行使は公務の遂行という側面もあるので、そのために必要な制約が認められ、この公職選挙法による選挙権の制約は合憲と言えます。しかし、権利一元説をとれば、選挙権はあくまで権利であるから内在的な制約しか許されず、公職選挙法による選挙権の制限は必ずしも合憲とは言えないことになります。

  また、被選挙権は、選挙人団によって選定されたときに、これを承諾して公務員となる資格のこと、簡単に言えば、立候補する資格のことです。判例では、選挙権と表裏一体の権利ということで15条1項で保障されるとしています(最判昭43.12.4)が、13条の幸福追求権、44条の選挙人資格――を根拠とする説もあります。

  さて、近代民主主義国家における選挙の基本原則には、①普通選挙、②平等選挙、③自由選挙、④秘密選挙、⑤直接選挙――の5本柱があります。それぞれについて、1つずつ見ていきましょう。

 

1)普通選挙

  普通選挙とは、広い意味では人種・言語・職業・身分・財産・納税額・宗教・政治的信条・性別――などを選挙権を認める要件としない選挙のことです。狭い意味では、特に財力の有無を選挙権の要件としない選挙のことです。

  これとは逆に、人種や言語・財産・納税額・性別などを選挙権の要件にする選挙を制限選挙と言います。

  憲法では、15条3項、後に出てくる44条で普通選挙の原則の採用を明示しています。

 

2)平等選挙

  平等選挙とは、選挙人の選挙権に平等の価値を認める選挙のことです。これは、選挙権が与えられる要件が平等であることのほかに、投票の価値の平等、つまり、一票の投票が選挙の結果に及ばす影響が等しいことも意味します。

  これとは逆に、選挙人を納税額などを基準に特定の等級に分け、等級ごとに代表者を決める選挙を等級選挙、納税額などを基準に特定の選挙人に複数の選挙権を与える選挙を複数選挙と言います。

  憲法では、14条1項、15条1項・3項、4条但書で、選挙権が与えられる要件が平等であることを明示し保障しています。投票価値の平等については明文で規定されていませんが、上記の条文を総合的に考えると投票価値の平等も保障されているというのが判例です。

  この投票価値の平等について議論されているのが、議員定数不均衡についてですが、44条で解説することにします。

 

3)自由選挙

  自由選挙とは、①選挙人が自らの意思に基づいて候補者や政党に投票する自由、②候補者やその応援者などが選挙運動を行う自由――の2つを意味します。①については15条4項や19条が根拠、②については21条が根拠となっています。

 

4)秘密選挙

  秘密選挙とは、選挙人がどの候補者・政党に投票したかが第三者には分からない方法で選挙が行われることです。

  これとは逆に、投票内容の公開を強制する選挙を公開選挙と言います。

  憲法は、15条4項で秘密選挙の原則を採用することを明示していて、これを受けて公職選挙法では、記名投票を無効にするなどの規定がなされています。
ところが、選挙や当選の効力が争われたり、選挙人の買収等の容疑が生じたて刑事責任を追及する場合などに、誰が誰に投票したかを調べる必要が生じることがあります。これは、秘密選挙を規定している憲法に違反しているのではないでしょうか?

  判例では、選挙や当選の効力が争われたケースでは、誰が誰に投票したかを調べることは違憲としています(最判昭23.6.1)。一方、選挙犯罪追及のためにある候補者の名が記された投票用紙すべてが捜査機関に差し押さえられた事案では、捜査機関の差押えは被疑者以外の選挙人の投票内容を調査する目的ではなかったし、結果的には被疑者以外の選挙人の指紋は投票用紙の指紋との照合に使われておらず、被疑者以外の選挙人の投票内容が外部に知られるおそれはなかったと言えるから、投票の秘密が侵害される現実的・具体的な危険は生じなかったということを理由に、捜査機関の差押えは違憲でないとしている判例もあります。

 

5)直接選挙

  直接選挙とは、選挙人が直接、議員を選出する選挙のことです。これに対して、すでに選挙されて公職に就いている者が議員を選出することを複選制、選挙人が中間選挙人を選出し、選出された中間選挙人が議員を選出する2段階のステップを踏む選挙制度を間接選挙と言います。アメリカの大統領選挙などがこの例です。

  日本の憲法は、直接選挙の原則を採用することを明示していません。

  選挙の基本原則5つを見てきましたが、最後に選挙権に関する事件を一つ挙げて、参政権については終わりにしたいと思います。この事件は、海外で生活する日本国民が国政選挙を行えないのは違憲ではないかが問われた事件です。

憲法30-3

  これには、根底に通信手段の進歩により、昔は実際には行えなかった海外からの投票が、行えることができるようになったことがありますが、その技術の進歩にもかかわらず、法の改正を行わなかったことに対しても責任追及されました。

  そして、現在では、海外からの国政選挙の投票は、普通に行えるようになっています。

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