第29回 勤労の権利

  憲法で規定された人権の一つ社会権についての続きを見てみましょう。

憲法29-1

  前回に、生存権と教育を受ける権利を学びましたが、社会権には、③勤労の権利と④労働基本権もあります。今回は、この2つの権利について解説します。

 

Ⅲ.勤労の権利

憲法29-2

  勤労の権利は憲法の第27条に規定されています。

  前回、国は国民の生存権維持のために努めなければならないことは25条に明らかにされていることを覚えましたね。でも実際は、国民一人ひとりの生存は、各自が勤労することによって確保されていると思いませんか? そこで、27条の1項では、国民は勤労の権利を有すると同時に勤労の義務も負うことを規定したと考えられています。

  勤労の自由は、

①働くことを公権力に妨害されない、という自由権的側面

②勤労者が国に対してその最低限の生活を維持するための諸政策の立案・実施を要求する、という社会権的側面

――を持っています。気づかれたとは思いますが、社会権として扱われている内容は、ほとんど自由権的側面と社会権的側面を持っていることを覚えておいてください。

  さて、勤労の権利としての自由権的側面は22条の職業選択の自由・営業の自由と重なります。ですから、27条は、勤労権の社会的側面を保障する点において重要な意味があると言えます。現在、27条の趣旨を具体化した法律に、職業安定法、雇用保険法、男女雇用機会均等法――などが規定されています。

  勤労の義務とは、「働く能力がある人は、自分が勤労することで生活を維持するべきである」という考えですが、国家が国民に対して法的に勤労を強要する趣旨ではありません。とはいえ、実際に働けるのに働かない者に対して、生活保護の受給対象から外すといった扱いは許されるとされています。

  次に27条2項は、賃金、就業時間、休息などの勤労条件は、法律で定められると規定しています。我が国では、私人間(個人対個人のことで、会社などの法人も含まれます)の契約は自由が原則ですが、経済的に劣位にいる労働者が不利な条件で雇用契約を結ばざるを得なかった歴史を反省し、勤労条件の設定に国が関与し労働者の保護を図っている点に注意が必要です。2項を具体化した法律に、労働基準法があります。

  そして27条の3項では、児童の酷使を禁止しています。仮にこの規定がなかったとしても、2項の規定から児童の酷使は禁止できますが、世界的にも、我が国でも年少者の酷使が繰り返されていたという歴史から、特に3項として明記しています。

 

Ⅳ.労働基本権

憲法29-3

  憲法28条は、労働者の労働基本権を保障しています。労働基本権は、国民一般に保障される権利ではなく、勤労者に対してだけ保障される権利で、次の3つの側面があります。

①労働者には争議行為を行う自由、また、労働を放棄する自由が認められ、争議行為や労働放棄を行っても国家権力の行使(刑罰など)を受けないという側面

②正当な争議行為は、争議を行っても解雇されないし、損害賠償責任も追及されないという側面

③使用者(雇っている側)による労働基本権侵害に対して、国による行政的な救済を受けることができるという側面

 

  また、労働基本権の内容には、

①団結権

②団体交渉権

③団体行動権(争議権)――の3つの内容があります。

  団結権は、勤労条件の設定・維持・改善のために、使用者と対等の交渉ができるよう団体を結成したり、団体に参加したりする権利です。一般に団体を結成する自由や団体に参加する自由は憲法21条の結社の自由で保障されていたのを覚えていますか? 27条ではさらに、特に労働者に対する結社の自由、すなわち、労働組合の結成と参加を保障している点が興味深いと言えます。

  ところで、使用者との対抗組織としての労働組合の強化のために、労働者に労働者団体への加入が強制されることが一般的に見られます。例えば、労働組合への加入が雇用条件となっている「クローズド・ショップ制」や、労働組合への加入は雇用条件ではないものの、雇用後一定期間内に労働組合に加入しなければならない「ユニオン・ショップ制」などです。これらの組合加入制度は、団体に参加しない自由も保障した28条に違反しないのでしょうか? 
一般的には、①団体権保障の実質を確保するには組合員数の確保が必須であること、②労働組合に参加したくない労働者が他の企業に就職することまで妨げていない――などの理由で違憲ではないとされています。

  また、労働組合内部の統制についても、労働組合の団結を確保するために一定の内部統制権を認めるのが通説です。しかし、それが組合活動に必要な限度を超えて、個々の労働者の権利を不当に侵害することは許されません。その例として、「三井美唄(びばい)炭鉱労組事件」を見てみましょう。この事件の概要は次のとおりです。

  北海道三井美唄炭鉱労働組合の執行機関を構成する役員が、美唄市議会議員選挙に際して、組合員の中から組合機関の議決を経て統一候補を決定しました。一方、前回選挙に統一候補として当選して、現職である組合員Aは、任期中に定年退職となる者は推薦しないという組合内の基準に基づいて、今回は、統一候補として推薦されませんでした。それでもAは独自の立場で市議選に立候補しようとしましたが、組合役員は票割れを防ぐため、Aに立候補を断念するよう数次にわたり説得を試み、それを拒絶したAに対して、組合の機関決定により組合規約に基づく処分がある旨の圧力をかけたうえ、統制違反者として1年間、組合員としての権利を停止する旨通告するなどの行為を行いました。そこで、組合役員らが、公職選挙法225条違反として起訴された事件です。

憲法29-4

  この事件では、労働組合の統一候補者の決定に反対した組合員が独自に立候補したため、労働組合がその組合員を除名処分したことが公職選挙法に違反しないかが問題となりました。最高裁は、労働組合はその活動に必要な一定の範囲で内部統制権があるとしたうえで、労働組合の統一候補者の選定に反対する組合員の説得や勧告は許されるが、除名にするなどの行為は統一権を超えているので許されないとしています。

  次に団体交渉権とは、労働者の団体がその代表を通じて、労働条件について使用者と交渉する権利のことです。具体的な内容は労働組合法に規定されていますが、使用者は正当な理由がない限り団体交渉を拒むことはできません。

  また、団体交渉によって合意した内容について労働協約が締結された場合には、労働者との労働契約の内容を労働協約の内容と同じに変更しなければなりません。

  また、団体行動権は、労働者の団体が労働条件の実現を図るために団体行動を行う権利のことで、中心となるのは、いわゆるストライキやボイコットなどの争議行動です。憲法上争議権が保障されている具体的な意味は、正当な争議行動ならば、刑事責任、民事責任のいずれもが免除されるという点にあります。

  では、法的責任を問われない正当な争議行為と、正当でない争議の区別ってどのように判断されるのでしょうか? 
通説では、行為の目的、手段・態様で判断されることになっています。目的では、例えば内閣の退陣のように労働条件の内容と一致しない政治目的のストライキは正当でないと判断されています。

  また、手段・態様では、暴力はもちろん正当でないですし、労働者が使用者の指揮・命令を排除して生産管理を行うことも正当でないとしています。

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