第27回 被告人・被疑者にも権利はあるの? その2

  今回は第26回の続きです。26回で、①逮捕の要件、②抑留・拘禁の要件、③住居への侵入・捜索や押収についての保障、④拷問や残虐な刑罰の禁止――と見てきましたが、今回は、⑤刑事被告人の持つ権利、⑥不利益な供述の強要の禁止、⑦遡及処罰の禁止――を解説します。

 

Ⅴ.刑事被告人の持つ権利

憲法27-1

  この条文の1項で言っている「公平な裁判所」とは、裁判所の構成などが偏ることがない裁判所を意味すると言われています。つまり、公平な裁判そのものが直接保障されているのではなく、①裁判所が訴追機関である検察官とはまったく独立した存在であることや、②裁判所が刑事訴訟手続き上で、公平な裁判所であることを維持できる組織体であることを保障しています。

  また、「迅速な裁判」とは、適正な刑事裁判を実現するのに必要な期間を超えて、不当に裁判を遅らせないことを意味します。
刑事裁判が迅速に行われることは、国である検察側にとっても、被告側にとっても利益のあることですが、37条では、被告側の利益を尊重する趣旨から規定されていると言われています。被告側の利益とは、例えば、自分にとって有利な証拠が時間の経過ともに無くならないことや、判決が確定するまでの身柄拘束が長引かないこと――など心理的・物理的なさまざまな利益のことです。

  この迅速な裁判について問われた事件に「高田事件」があります。この事件の発端は、日ごろ北朝鮮系の在日朝鮮人の脅迫を受けていた民団愛知県本部の顧問宅に、北朝鮮系朝鮮人数十人が侵入、ドアやガラスを破壊したりするなど大暴れしました。顧問は何とか逃げ出し、名古屋市警察瑞穂警察署高田派出所に助けを求めましたが、まもなく顧問を追跡してきた一団が高田派出所に押しかけ、備品を破壊したり火炎瓶を投入したりの暴動を起こしました。また、名古屋市内の各所で同時多発事件も起こしたことから、警察は直ちに捜査を開始したことに対し、朝鮮人は捜査員を尾行・監視し、捜査員が聞き込みに行った家を後で尋ねて、脅迫したり深夜に雨戸を叩くなどの嫌がらせを行ったため、周辺の住民は警察に非協力的になり、捜査は困難を極めるようになりました。

  その後、北朝鮮系朝鮮人がらみの「大須事件」が発生し、中警察署に特別捜査本部が設置され、高田事件もこの特別捜査本部の下で捜査が行われ、多くの朝鮮人が検挙されました。

憲法27-2

  判例は、被告人にとって「迅速な裁判」ではないと言える場合になったときは、憲法37条を根拠に、裁判を打ち切ることができる――という一般論を示しています。ただし、現在までのところ、憲法違反により訴訟を打ち切られたケースはこの1件だけです。一方、2003年に「裁判の迅速化に関する法律」が制定され、第一審は2年以内に終結させることなどが目標とされることになりました。

  次に37条2項は、前段ですべての証人に対して審問する機会を充分に与えられる証人審問権を保障しています。言い換えると、被告人が充分に審問する機会を与えられなかった証人の証言は証拠とできないということです。この趣旨を具体化したのが刑事訴訟法に謳われる伝聞証拠禁止(法定外で誰かが話した内容を法廷で証言したり書面にまとめても、原則として証拠にはできない)です。

  後段は、公費で、自分のために強制的手続で証人を求める証人喚問権の保障です。ここに公費とありますが、証人を喚問するのにかかった日当や交通費などは、有罪判決を受けた場合は被告人に負担させることは違反ではないとしているのが判例です。

 さて、37条3項は、刑事被告人は、いかなる場合でも資格を有する弁護人を依頼することができることを保障しています。被告人が貧困で弁護人に支払う報酬を負担できない場合は、国が負担する国選弁護人制度を設けています。なお、被告人と異なり、被疑者に国選弁護人を付けることは憲法上は保障していません。ただし、2006年から、刑事訴訟法により一定の範囲で被疑者にも国選弁護人を付ける制度が始まっています。

 

Ⅵ.不利益な供述の強要の禁止

憲法27-3

  38条は、刑事手続においては、自白が重視されることが多いので、①過度に自白が重視されないようにすること、②捜査機関が自白を得るために拷問などをすることがないようすること――を規定したものです。

  1項の「自己に不利益な供述」とは、一般に本人の刑事責任に関する不利益な供述、言い換えれば有罪判決の基礎となる事実や量刑上不利益となる事実などを広く指すと言われています。また、「強要されない」とは、拷問などの直接的な強制はもちろんのこと、供述しないと法律上の不利益が科されるといった間接的な強制も認めないということです。

  この項は、直接的には刑事手続についての規定ですが、行政手続の場合にも準用することが判例で認められています。前回出てきた「川崎民商事件」の判旨の②です。

  2項では、強制や拷問・脅迫による自白や不当に長く抑留・拘禁された後の自白の証拠能力を否定しています。これは、歴史上、捜査機関が自白を得るために拷問・脅迫・長期の身柄拘束などの不当な手段をとっていたことがあったので、これを防ごうとする目的と考えられます。

  また、3項は、自白だけを証拠に有罪にすることはできないと言っています。つまり、有罪とするには自白のほかに、これを裏付ける他の証拠が必要ということです。

 

Ⅶ.遡及処罰の禁止

憲法27-4

  39条は、まず、実行の時に適法であった行為は刑事責任を問われないとしています。違法でない行為を行った後、法律が改正され、「先日あなたのやったことは違法となったので処罰します」となったのでは、国民は安心して行動できません。そこで、39条は、従来適法であった行為を遡って違法とすることはできないとしているのです。これを遡及処罰の禁止と言います。

  39条は次に、既に無罪と決まった行為について改めて刑事責任を問うことや、同じ犯罪行為について二重に刑事責任を問うことを禁止しています。
一度審理が終わった刑事事件について再度審理することはないとする原則を一時不再理の原則と言います。また、1つの事件について2回以上刑事責任を問うことは認められないとする原則を二重処罰の禁止と言います。この二つは似て非なるものなのですが、39条の規定を下図にまとめましたので、参考にして覚えてください。

憲法27-5

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