第26回 被疑者・被告人にも権利はあるの? その1

  今回は、第25回で①奴隷的拘束からの自由、②法定手続の保障――と勉強した人身の自由の続きです。この回で勉強する③被疑者・被告人の権利は、憲法33条から39条にかけて規定されています。

憲法26-1

  今まで、漠然として概念的で捉えにくかった憲法が、ここから急に刑事事件に特定され、具体的になります。
憲法の条文に沿って、①逮捕の要件、②抑留・拘禁の要件、③住居への侵入・捜索や押収についての保障、④拷問や残虐な刑罰の禁止、⑤刑事被告人の持つ権利、⑥不利益な供述の強要の禁止、⑦遡及処罰の禁止――と、順を追って勉強しますが、今回は、①~④までです。

 

Ⅰ.逮捕の要件

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  憲法33条では、人が逮捕される場合の要件を次の2つ規定しています。

①司法官憲が発する令状

②逮捕の理由となった犯罪が明示された令状

司法官憲とは裁判官のことです。そして、逮捕するには以上の2つの要件が必要という原則を「令状主義の原則」と言います。令状主義にはさらに次の2つの意味があります。

①犯罪の捜査に当たる者、つまり警察官が自ら逮捕の可否や要否を判断するのではなく、司法官憲、つまり裁判官が判断することで、不当な逮捕が行われるのを防ぐこと

②逮捕される者に、逮捕される理由を分からせること

条文に令状が裁判官によるものでなければならないと記載されているのは、①のためです。また、②は、逮捕される理由が分からなければ、その逮捕が正当なものであるかどうかも判断できず、防御することもできません。ここでいう、犯罪を明示とは、犯罪名はもちろん、具体的にいつ、どこで、誰を(誰のものを)、どうしたか――すべてを明示する必要があることを言っています。

一方、33条では令状主義の例外として、現行犯逮捕を挙げています。
なお、刑事訴訟法では、現行犯逮捕の場合以外にも令状主義の例外を認めています。それは、緊急の場合です。
緊急の場合には、逮捕した後で直ちに令状を裁判官に請求する方式を認めています(刑事訴訟法210条)。

でも、これって違憲ではないのでしょうか? 
これについて判例は、厳格な制約の下に、罪状の重い一定の犯罪ならば、緊急時には逮捕後にすぐ裁判官の審査を受けて令状の発行を求めることを条件に、無令状での被疑者の逮捕を認めることは合憲であるとしています。

 

Ⅱ.抑留・拘禁の要件

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  憲法34条は、抑留(一時的に身体を拘束されること)や拘禁(継続的に身体を拘束されること)をされる場合には、①理由を知らされることと、②弁護人を依頼する権利を与えられること――を保障しています。また、①でいう理由とは、❶犯罪の嫌疑=いつ、どこで行った、どのような行為――が拘束の理由となっているのかと、❷身体を拘束する必要性(逃亡や犯罪の証拠を隠滅するおそれがあるなど)――の2つです。

  特に拘禁は、長期に渡って身体の拘束をされるので、被告人や被疑者にとっては、重度の人権障害に当たります。被疑者というのは、犯罪の嫌疑をかけられているものの、まだ起訴されていない者のことで、犯罪をしたことが明らかでないのですから、なおさらです。
そこで、拘禁については、ある程度の証拠に基づく正当な理由の存在があること、被疑者や被告人の要求があれば、その正当な理由が公開の法廷で開示されること――が保障されています。これは、不当な拘禁を抑制するための制度の一つです。

 

Ⅲ.住居への侵入・捜索や押収についての保障

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  憲法33条では身体拘束についての令状主義が規定されていましたが、この35条では、住居や書類、所持品に対して、家の中に入ったり、家などを探したり、押収したりすることについても令状主義がとられていることを明記しています。重大な人権侵害である捜査機関の住居への立入りや、捜索、押収が、どうしても必要である場合にのみ行われることを確保しようとしているのです。

  条文の2項で言っている各別の令状とは、その都度ごとに令状が必要ということです。これは、捜査機関がいつでもどこでも捜索や差押えをできる一般令状を禁止していることを意味します。

  さらに、1項の後段で「33条の場合を除いては」と言っているので、33条の場合は令状なしで捜索や差押えができることが推し量れます。ここでいう「33条の場合」とは、現行犯逮捕はもちろん、令状による逮捕の場合も含まれます。現行犯逮捕の場合には、犯罪の嫌疑が十分にあると考えられ、その場に証拠が存在し、放っておくと証拠が隠されたり、どこかに行ってしまったりするから、令状なしでも捜索や差押えができるのですが、令状による逮捕の場合も現行犯と同様の理由が当てはまるからです。

  この憲法35条の規定は、刑事手続における令状主義を規定したものですが、行政手続であっても、犯罪捜査との結びつきが極めて密接と考えられるものについては、本条の規定が準用されるものと考えられています。例えば、警察官の所持品検査や収税官吏による犯則事件調査のための臨検などです。これを扱った事件に「川崎民商事件」があります。

  この事件の被告人は、川崎民主商工会に属しているお肉屋さんAさんです。川崎税務署が、そこにやってきて税務調査のために帳簿検査などを行おうとしましたが、これを拒んだAさんは、検査拒否罪で起訴されました。そこで、Aさんは、税務署は捜索令状を持っていないのに、むりやり帳簿検査するのはおかしい、そして、もう一点、不利益な事項について供述しなくてもいいはずと主張したのです。

  つまり、被告人となったAさんは、税務署の検査は、憲法35条、38条に反するとして争ったのです。(38条については、次回の黙秘権で学ぶ項目です)

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  判例では、令状主義はもともと刑事手続における保障だけれど、刑事手続ではないというだけで、一切の強制について、令状主義の保障は当然ないとは言えないとしています。ということは、行政手続も令状主義が適用されるということでしょうか?

  答えは、NOです。

最高裁は、この事件は、実質上、刑事責任追及のための資料集めではないから、令状主義をとらなくてもいいと言っているのです。つまり、この質問検査は、税金を取り立てる目的なので、人身を拘束するためじゃない、ということです。

  その後の判例も基本的にこの川崎民商事件を受け継ぎ、行政手続にも35条が準用され得ることを前提に、行政手続の場合には、①行政目的達成のための制限の必要性、②刑事責任追及のための資料の収集に直接結びつくものかどうか、③強制の度合いは強いか――などを総合的に判断して結審しています。

 

Ⅳ.拷問や残虐な刑罰の禁止

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  捜査機関などによる拷問や残虐な刑罰は、洋の東西を問わず古くから行われてきました。憲法36条の規定は、そのような歴史、我が国においては戦前・戦時中の特高警察による拷問などが行われたことを踏まえ、公務員による拷問と残虐な刑罰を絶対に禁じたものです。拷問とは、自白を強要するために肉体的・生理的に苦痛と与える暴行を行うことなどです。
残虐な刑罰とは、憲法における刑罰の一般目的に照らして不必要な苦痛を伴う刑罰と言われています。社会における文化水準に照らして反人道的な刑罰と考えてよく、例えば、江戸時代に行われていた火あぶりや磔(はりつけ)の刑などがこれに当たります。

  そして、「絶対に禁じる」と言っているので、他の人権と異なり、拷問や残虐な刑罰は「公共の福祉」のためでも例外を認めないということです。

  では、重大な刑事事件を起こした被告人の死刑は、残虐な刑罰に当たらないのでしょうか? 判例では、死刑の方法によっては残虐な刑罰に当たる可能性もあるが、死刑そのものが残虐な刑罰に当たるわけではないとしています【最判昭23.3.12】。

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