第25回 人身の自由

  今まで、精神的自由権、経済的自由権と学んできましたが、今回と次回は、自由権の最後「人身の自由」について学びます。

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  上の表を見ても分かるとおり、人身の自由は、憲法18条にポツリと奴隷的拘束からの自由が規定され、31条に法定手続の保障が、33条以下に詳細な規定が謳われています。今回は、まず①奴隷的拘束からの自由、②手続き面からの保障を学び、次の第22回で③被疑者や被告人の権利――と3段階に分けて解説します。

 

Ⅰ.奴隷的拘束からの自由

  憲法18条を見てみましょう。

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  奴隷的拘束とは、身体を拘束されて非人間的な状態に置かれることを指します。例えば、人身売買による拘束や、かつて、土木工事や鉱山採掘のために酷使される労働者が押し込められたタコ部屋がこれに当たります。

  また、苦役とは、一般の私たちから見て、普通以上に肉体的・精神的苦痛を受けていると思われる程度の身体の自由の侵害のことです。例えば、明治憲法下における徴兵制などです。

  この規定では、奴隷的拘束の禁止には例外を認めていませんが、意に反する苦役の禁止は、犯罪に因る処罰の場合を除くとしていることから、刑事事件における懲役刑は例外として認められていると言えます。

  もう一つこの18条の解釈上での注目点は、私人間においても憲法18条の規定が直接適用されると考えられていることです。
つまり、どういうことかというと、第1回で憲法は公権力が国民に対して規制されると学びましたね。ですから、公権力が非人道的な奴隷的拘束をしてはならないことが規定されているのは当然です。でも、奴隷的拘束と意に反する苦役を強いるのは公権力ばかりではありませんね。そこで、私人間同士でも奴隷的拘束と意に反する苦役は、憲法18条で禁止されていると理解されています。

 

Ⅱ.手続き面からの人身の自由の保障

  憲法31条は、憲法学者によると、人権そのものではなく、刑罰により人権を制限する際の手続きが適正であることを保障したものと言われています。

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  他の人権規定とは少し違うということに気づきましたか? 何でこんな規定が憲法に書かれているのか不思議に思われた方もいらっしゃるかもしれません。少し長くなるかもしれませんが、まず、この規定が憲法に採用された経過をお話しします。ここから人権規定に関する歴史は、少し気楽に予備知識として読み流してください。

  「手続きが適正である」という考え方は、古くは1215年に制定されたイギリスの『マグナ・カルタ』に遡ります。この考え方が、イギリスにおける人権の手続的保障を重視する伝統として『コモン・ロー』としての刑事手続の適正の保障として発展しました。その背景には、当時のイギリスの魔女裁判などで重大な人権侵害が行われていたことへの反省があると言えるでしょう。

  このイギリスにおける適正手続きの保障の考えは、その後、アメリカに渡り、①法律は適正手続きを定めなければならないこと、②刑事実体法の中身も適正でなければならないこと――という「デュー・プロセス」に発展しました。

  一方、フランスやオランダなどヨーロッパの大陸側の国でも、法律を信頼し、法律によって刑事手続や実体の適正化を図る考えが発展していきます。これが、後に学ぶ罪刑法定主義の理念です。

  日本国憲法は、第二次世界大戦後、上記の英米の適正手続き重視の流れと、大陸側の実体の適正重視の流れの両方を採用して制定されました。

 

  さて、以上のことを踏まえて、31条を見てみると、文言上では手続きの法定のみを要求しています。つまりこれは、刑事手続は法律によって定められなければならないということです。
しかし、日本国憲法の制定の経緯から、通常では、それに加えて

①法定された手続きの適正

②実体規定の法定

③法定された実体規定の適正――も要求していると考えられています。

①の手続きの適正の中でも特に重要とされているのが、告知と聴聞の手続きです。告知と聴聞の手続きとは、公権力が国民に刑罰その他の不利益を科す場合、あらかじめ当事者に対してその内容を告知し、当事者に弁解と防御の機会を与えるということです。この手続きを経ることで、不利益を受ける個人の権利を保護し、公権力による不利益処分が適正であることになります。

  その例として、「第三者所有物没収事件」を見てみましょう。

  この事件は、Xが他の者と共謀の上、衣料品などを船に積み込み、韓国に密輸出しようとしましたが、海上保安官に発見されて未遂に終わり、第三者の所有している貨物が没収されてしまいました。それに対して、弁護人は、善意の第三者の所有物を没収することは、憲法29条に違反するし、また所有者が知らない間にその意見や弁解を聴くことなく、所有物を没収することができる旧関税法の規定は、憲法31条に違反するのではないかが争われた事件です。

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  この判例を読むと、第三者の所有物を没収するときに、その所有者に対して財産権を守る機会を与えないことは、適正な法定手続をとったことにならないので、憲法31条に違反すると言っていることが分かります。言い換えると、刑事事件の犯人であると疑いをかけられた者や関係する第三者への告知や聴聞の権利については保障されているということです

  さて、31条の文面は「刑罰を科せられない」となっていることから、直接的には刑事事件の手続に対して規定していることが分かります。でも、現代の社会では、行政が国民の生活の様々な場面に介入しているので、真の意味で人権を保障するには、行政手続の適正も図ることが重要になってきます。

  そこで、個々の具体的な行政手続に応じた修正は行われるものの、原則として、憲法31条の規定は行政手続にも準用すべき、つまり、行政手続においても法定と適正が憲法上求められていることになります。

  では、これが明らかにされている「成田新法事件」の判例を見てみましょう。

  この事件は、新東京国際空港(現成田国際空港)の開港にあたり、いわゆる過激派集団が新空港内に火炎車を突入させ航空管制塔内に乱入したことから、空港の開港が延期されたことに端を発します。このような事態に対処するため、新空港等における暴力主義的破壊活動の防止を目的として、空港周辺の工作物の使用禁止や封鎖及び除去の措置を定めた「新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(成田新法)」が制定されました。そして、三里塚芝山連合空港反対同盟所有の通称「横堀要塞」に対して、成田新法に基づく工作物使用禁止命令が出されましたが、その際、成田新法の合憲性が争われた事件です。

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  判例では、2つのことを言っています。それは、①行政手続でも、刑事手続でないからと言って当然に31条の定める適正手続の保障の対象外とすることはできない、②仮に行政手続に31条の保障が及ぶとしても、要求される適正さは、とられる行政手続に応じて違う――という2点です。この判例は、行政手続への31条の適用または準用を認めたとはいえ、全面的に認めているわけではないことに注意してください。

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