第24回 財産権と財産権の制限

  前回までに学んだ憲法22条の中に職業選択の自由がありましたね。精神的自由権(第18回)は、経済的自由権にも触れていたのを覚えていますか? 今回は、復習も兼ねて、もう一度基本的人権の中での経済的自由権の位置を確認してみましょう。

憲法24-1

  経済的自由権については、第10回で社会活動を行う上で経済的に保障されている権利と学びましたが、今回は、経済的自由権の一つ財産権を①財産権保障の意味、②財産権の制限、③財産権の侵害と損失補償――に分けて解説していきます。

 

Ⅰ.財産権の保障の意味

  財産権とは、例えば所有権などの物権、債権、著作権、漁業権といった財産的な価値を持つものすべての権利のことです。この財産権の保障を規定した憲法29条を見てみましょう。

憲法24-2

  判例などでは、29条で規定している財産権の保障は、個人が今持っている具体的な財産に対する権利と、個人が財産を持っていいという私有財産制度の両方を保障するものだ――としています。


  この例として覚えなければならないのが「森林法共有林事件」です。事件は、ある兄弟が、父親から2分の1ずつの権利で生前贈与されていた山林の経営をめぐって、対立したことから始まります。弟は、兄を被告として、共有物の分割請求について定めた民法に基づき、山林の分割請求を求めました。しかし、森林の生産力向上を目的として定められた森林法では、民法の規定にかかわらず、森林の持ち分が2分の1以下の共有者による分割請求は認められないとされていたので、分割ができないことになったのです。そこで、原告である弟は、この森林法の規定が財産権を保障した日本国憲法29条に違反しており違憲であると主張して争いました。

憲法24-3

  この事件の判決は、財産権に関する初の違憲判決として注目されました。
ところが、その違憲の理由は、規制手段が厳格に合理的なものであるかどうか、あるいはその規制手段の不合理性が明白なものであるかどうかを規制の目的に応じて判断するとあいまいで、これまで他の「経済的自由権」に関する判例上で展開されてきた違憲審査基準とどのような関係にあるのかは、明らかにされませんでした。

しかし、この判決から約1カ月後に、この森林法規定は削除されました。

 

Ⅱ.財産権の制限

  憲法29条2項の規定は、公共の福祉による財産権の制限を認めたものと言われています。現在では、いろいろな法律で様々な財産権に対する制限が行われていますが、規制目的によって次の2つに分類されます。

①消極目的規制(内在的な制約:社会生活における公共の安全と秩序の維持)

②積極目的規制(政策的な制約:福祉国家理念の実現)

どこかで見たような気がしませんか? そうです、職業選択の自由と同じ規制目的二分論による規制です。ちょっと自信がなくなった人は、第18回を見てください。

現行法上での①の消極目的規制の例は、消防法による建築基準や食品衛生法による食品利用の制限――などです。
また、②の積極目的規制の例は、独占禁止法によるカルテル禁止や借地借家法による賃貸人保護のための様々な規制――などです。
そして、上記の「森林法共有林事件」では、②の基準で判断し違憲としました。

  県条例で財産権を規制できるかどうかが問題となった事件に、「奈良県ため池条例事件」があります。この事件は、奈良県ではため池の破損などによる被害を防止するため、「ため池の保全に関する条例」を制定し、近隣の農民らが所有し耕作していたため池周辺の堤とう(堤防)の耕作を禁止しました。でも、農民らは、禁止されても依然として耕作を続けていたため、検察官が立件したことで、県条例が憲法29条の財産権保障に違反するのではないかが争われた事件です。

憲法24-4

  判例では、2つのことを言っています。1つは、ため池の決壊などが起これば、周りの住民に与える被害が重大なものだから、例え、ため池の堤防となっている土地の所有者でも、そこを耕作してはいけないという条例は、違憲とは言えない、ということです。これは、①の消極目的制限でもあるし、②の積極目的制限でもありますね。
もう1つは、損失補償の必要性について言っています。これは29条の3項に当たる部分です。もういちど、29条の条文を読んで、次に進みましょう。

 

Ⅲ.財産権の侵害と損失補償

  3項を読んでみると、「正当な補償」と「公共のために用いる」ことを条件として、私有財産を公共用地に提供させたり、使用に制限をかけたりできることを規定していることが分かると思います。

では、「公共のために用いる」とは、どのような場合を指すのでしょうか? 

これには狭い意味で捉える狭義説と、広い意味で捉える広義説の2つがあります。
狭義説によれば、公共のためとは、例えば学校や病院、鉄道や道路の建設などの公共事業のためには私有財産を提供するという考え方です。
一方、広義説によれば、公共事業はもちろん、間接的でも公共の利益のためになるのなら、その土地を提供させたり、使用に制限をかけてもOKという考え方です。判例では、広義的に解釈していますので、「広義的な公共のために用いる」を覚えてくださいね。

  次に、「正当な補償」とは、どのようなものでしょうか? 

一般的には、正当な補償が必要なのは、特定の個人に対して、特別の犠牲を強いる場合に限ると考えられています。そして、その上で、特別の犠牲を強いているかどうかが判断の基準になります。

  さて、正当な補償が必要となった場合、今度はどの程度の補償が正当なのかが次の問題となります。これには、次の3つの説があります。

①完全補償説

②相当保障説

③折衷説

  ①の完全補償説は、生じた損失のすべてを完全に保障するという考えです。例えば、ダム建設で家と土地の立ち退きを強いられた場合、土地と家屋の価格のほか、引っ越し費用なども保障することです。

  ②の相当保障説は、財産に対する制限の目的や制限の必要性の程度などを考慮した上で算定される合理的な金額なら、市場価格を下回ってもいいという考えで、戦後の農地改革における農地の収用などで採られた考え方で、かなり特殊な時代背景があります。【農地改革事件:最大判昭28.12.23】

  ③の折衷説は、完全補償が原則ではあるけれど、農地改革のように財産権に対するそれまでの社会的評価が変化したことで、財産権が公共のために用いられるという例外的な場合は、相当保障でもいいという考え方です。

  通常、法律で公共のための財産権の収用を定める場合は、それに伴う補償についても規定します。もし、規定がない場合は、「河川附近地制限令事件(最判昭43.11.27)」の判例が通説となっています。

  要点をまとめると、法律にあるべき補償規定がない場合には、直接憲法29条3項を根拠として補償を請求できることとなっています。また、同時に争われた補償規定のない法律は違憲が合憲かについては、憲法の規定で補償が請求できるのだから、たとえ補償規定のない法律でも合憲としています。

ページ上部へ戻る