第22回 居住・移転・職業選択の自由

  5回にわたって精神的自由権のうちの表現の自由を見てきましたが、今回は、憲法22条「居住・移転・職業選択の自由、外国移住・国籍を離れることの自由」について解説します。

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  それでは、22条を①居住・移転の自由、②職業選択の自由、③海外渡航の自由、国籍離脱の自由――に分けて、その意義と制限があるのかを見ていきましょう。

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Ⅰ.居住・移転の自由

  居住・移転の自由とは、自分の住みたい場所に住所や住まいを自分で決めて、自分が住みたくないところに勝手に住所や住まいを変更されない――ということです。

一番上の図で、第22条が破線で囲まれているのに気が付きましたか? 
実は、これには理由があります。居住・移転の自由には、次の3つの要素があるのです。

①いろいろなところに住んで多くの人と関わり人格を発展させるという精神的自由

②身体を拘束されないという人身の自由

③いろいろなところに住めることから経済的自由

  つまり、憲法に記載されている3つの自由権の要素をすべて持っていることになります。私たちが暮らしていく上では何気なく引っ越しをしていますが、憲法上でも保障されていて、しかも大切な自由権の3つとも合わせ持っていることだなんて「すごい!!」と思いませんか? 日本に住む私たちには、あまりリアリティのない居住・移転の自由ですが、同じ民族が政治的に分断されている南北朝鮮や少し前の東西ドイツ「ベルリンの壁」などを思い起こせば、いかに大切な自由であるかが理解できると思います。

  ところで、居住や移転が自由にできない人が日本にもいるってご存知ですか? 
現在の法律では、①破産している人、②懲役や禁錮刑などの刑事罰で拘禁されている人、③特定の公務員(例えば、警察官や自衛隊員が限られた地域に住んでいなくてはならないこと)――などは、居住や移転が自由にできないのです。
そして、行政書士試験で問われるとしたら、これらの制約が合憲か違憲か――です。先ほども言ったように、居住・移転の自由にはいろいろな要素があるので、与えられた事案がどの自由としての側面に対する制約なのかをしっかり、判断して考えなければなりません。例えば、②の刑事罰による拘禁は、人身の自由に対する制約と言えますから、厳格な違憲審査基準で合憲性を判断することになりますが、まさに公共の福祉に反する場合と言えますね。危ない刑事犯を好きなように住まわすことは、他の一般の人にとってとても迷惑だから、制限されていいわけです。

 

Ⅱ.職業選択の自由

  職業選択の自由とは、自分の職業を自分で決めてその職業に就いていい――ということで経済的自由権の一つです。職業に就いていい自由の中でも、営利を目的とする継続的で自主的な活動を行う「営業の自由」については22条で保障されるのかどうかについて説が分かれていますが、判例では、営業の自由も22条1項で保障されていることになっています。

  さて、この職業選択の自由の制限は、思想・良心の自由や精神的自由に比べて、強い制限が許されています。
その制限には主に次の2つがあると判例で示されています。

①社会生活での公共の安全と秩序の維持から見た内在的な制約

②福祉国家理念の実現から見た政策的な制約

  職業選択の自由でもその制限が合憲か違憲かが問われることになりますが、その審査基準は、制約の目的が①の公共の安全と秩序の維持にある場合には、厳格な合理性の基準が、②の福祉国家理念の実現にある場合には、明白性の原則がとられています。
①の厳格な合理性の基準とは、とられた規制より緩い制約で規制の目的を十分に達せられると判断されたらその規制は違憲だという基準です。
②の明白性の原則とは、規制が普通に考えて合理的でないということが明白でない限り、その規制は合憲だという基準です。このことで違憲審査することを「規制目的二分論」と言いますので覚えてくださいね。

  ここで2つの判例を見てみましょう。1つは、厳格な合理性の基準で違憲になった事件、1つは、明白性の原則で合憲になった事件です。

  では、まず違憲となった「薬局距離制限事件」は、薬剤師のXさんが、薬局を開こうとしたところ、薬事法の規定にある距離制限や県の条例により、薬局開設の許可を得られませんでした。そこで、Xさんは、距離制限を定める薬事法や、条例が憲法22条に違反するとして出訴した事件です。

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  この事案では、薬事法に薬局開設における距離制限を設けた立法時の意図は何だったのかが問われました。そして、その意図は、薬局が乱立して競争が激化すると、互いに経営を圧迫し、集客維持のために安い不良薬品の供給に走る可能性があるから規制しよう、というもの。これは、①の公共の安全の秩序と維持から見た内在的制約に当たり、最高裁は、立法時に想定したような因果関係が必ず成立するとは言えず、むしろ既存の店を過当に保護し、結果的に新規参入を阻害する要因となり、それこそ進歩の妨げ、資本主義の前提である自由競争を不当に制限していると考えて、違憲という判断を下しました。

  次に、合憲となった「小売市場事件」を見てみます。この事件は、市場経営を行う会社A(社長B)が、小売商業調整特別措置法3条1項の規定に反して大阪府知事の許可を受けずに平屋建て一棟を建設して、小売市場とするために野菜商4店舗、生鮮魚介類商3店舗を含む49店舗を小売商人に貸付けたため、AとBが起訴された事件で、A(B)は、小売商業調整特別措置法3条1項の小売市場の許可規制は、小売市場業者の営業行為を不当に制限し、既存業者を保護する偏ったものであるとして、憲法22条1項に違反するのではないかと争った事件です。

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  この事案においては、政策的判断が大きく働くため、司法権は判断材料も判断能力も優れていないことから、立法権の判断をより尊重すべきであるという、②の明白性の原理を採用して、法律は合憲と判断しました。

  このほか法の規制を合憲とした判例に、「公衆浴場距離制限事件(最大判昭30.1.26)」と「酒類販売免許制事件(最判平4.12.15)」があります。

 

Ⅲ.海外渡航の自由、国籍離脱の自由

  海外渡航とは、狭い意味では一時的な海外旅行を指し、広い意味では外国に移住することを含みます。憲法22条は、国内関連を1項で、国外関連を2項でまとめて保障したと言えます。

  また、2項の規定は、日本国籍を離脱する保障もしています。ただし、国籍を離脱することは無条件で保障していますが、無国籍になることの自由を認めているわけではありません。ですから、日本国籍を離脱するときは、必ず他の国の国籍を取得することが必要条件と言えます。

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