第17回 表現の自由の意味と知る権利

  今回と次回は、精神的自由権の一つ「表現の自由」を取り上げます。前回まで学んだ個人の心の中の思想や信仰は、個人の内部にとどまる限り絶対に保障されたものでした。

行政書士講座

しかし、思想や信仰は、外部に表明して他者に伝えて初めて社会的に意味を成すものと考えられています。そこで、生まれたのが表現の自由で、心の中の思想や考えを自由に表現できる権利です。発表できる権利と考えてもいいでしょう。

  そして、表現の自由は、人権の中でも特に重要な権利と言われています。

  では、まず、憲法第21条を見ながら、今回は「表現の自由の意味」について、考えることから始めましょう。

 

Ⅰ.表現の自由の意味 

  表現の自由とは、人の意見や主張はもちろん、思っていることや感じていることすべてについて、方法のいかんを問わず、外部に表す活動の自由が憲法で保障されていることを意味します。

そして、表現の自由は人権の中でも重要なものの一つです。その理由は、表現の自由が、

①自己実現の価値

②自己統治の価値

の2つを持っているからです。

  ①の自己実現の価値は、個人が言論などの表現活動を通じて自己の人格を発展させるという個人的な価値のことで、個人の尊厳を実現するのに不可欠です。なぜなら、人は思ったり考えたりしたことを外部に表明して他の人に聞かせ、それに対する他の人の意見を受けてさらに考えを深めます。人は他人との意見の交換を通して人格的成長をしていき、自己を確立して、個人としての尊厳を獲得するからです。

②の自己統治の価値とは、国民が言論などの表現活動を通じて政治的意思決定に関与するという民主的な政治のためになるような社会的な価値のことで、民主主義の実現に不可欠です。なぜなら、国民一人ひとりが自由な発言や討論をできなければ、民主主義の社会とはいえないからです。

  

  ここで、表現の自由について規定されている憲法第21条を読んでみましょう。

憲法17-1

   第1項で「一切の(すべての)表現の自由」を保障し、第2項でこれをさらに強化するために検閲の禁止と通信の秘密の保障を規定しています。

 

Ⅱ.表現の自由と知る権利

  かつて、表現の自由は、表現することの自由、つまり「表現の送り手の自由」だけと捉えられていました。でも、現代のように膨大な量の情報が氾濫して、それらの情報のほとんどが特定の国家機関やマス・メディアなどに集中する社会においては、個人が表現をするための前提として、必要な情報を集めることができる権利が必要不可欠になってきました。そこで、条文上には、どこにも出てきませんが、情報を収集することなどの「表現の受け手の自由-知る権利」も表現の自由の一つとして保障することになったのです。

  知る権利は、 

①個人が情報を収集することを国家に邪魔されない自由権的な側面

②個人が国家に対して情報の公開を請求できる請求権的な側面

の2つの意味を持ち合わせています。

そしてさらに、②の請求権的な側面の具体的内容として、

A情報公開請求権

Bアクセス権

が挙げられます。

  Aの情報公開請求権とは、国や地方公共団体に対して、保有している情報の公開を求める権利です。国においては情報公開法、都道府県レベルでは情報公開条例をそれぞれ定めて、具体的にその内容を定めています。

  Bのアクセス権とは、一般に国民がマス・メディアに対して、自分の意見を発表する機会を提供するよう求める権利のことです。

でも、国民にアクセス権を認めることは、一方で、マス・メディアの表現活動に何らかの制約を加えることも考えられるため、アクセス権を認めていいか否かについては、未ださまざまな議論が交わされているところです。

次の「サンケイ新聞意見広告事件」は、憲法第21条をめぐる判例として有名な事件です。

自民党員であるAが、産経新聞に掲載した広告が共産党員であるBの名誉を著しく毀損したとして、Bが、新聞社に対して、同じスペースで反論文を無料・無修正で掲載することを要求した事件です。

この裁判では、反論権が憲法第21条によって認められるかどうかが争われました。反論権とは、新聞などのマス・メディアにより利益を害された者が、同等のスペースの反論を掲載することをマス・メディアに対して請求する権利のことです。

憲法17-2

  判例では、サンケイ新聞などの日刊全国紙による情報の提供が、一般国民に対して強い影響力をもち、その記事が特定の者の名誉ないしプライバシーに重大な影響を及ぼすことがあるとしながらも、「新聞に反論文を無料で掲載することを安易に認めることは、公的な事柄に関する批判記事を書くことを躊躇させてしまう危険がある」として「少なくとも具体的な法律がない状況の下において、反論権を認めることはできない」と判断しました。

つまり、反論権は憲法では保障されていないということになります。

この判例でも見た通り、表現の自由には重要な価値がある一方で、他人の権利や利益と衝突することが少なくありません。

  そこで、次回は、「表現の自由に対する制限」について解説したいと思います。

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