第16回 政教分離の原則とは

  前回の剣道実技拒否事件の判例中の判旨に「政教分離原則」という言葉が出てきましたね。この政教分離原則は一見同じような事件でも、違憲判決も合憲判決もある微妙なテーマです。しかも、行政書士試験でもしばしば出題されるテーマなので、特に取り上げて解説します。

行政書士講座

Ⅰ.政教分離原則とは

  第15回の憲法第20条の条文をもう一度読んでみましょう。

憲法16-1

  ここには、第15回で学習した、国民は自由に宗教を信仰することも信仰しないこともでき、宗教の選択も変更も自由にできることが書かれているとともに、次の2つのことも書かれています。

①宗教団体は国から特権を受けたり、政治上の権力を行使してはならない(第1項後段)

②国やその機関はどんな宗教的活動もしてはならない(第3項)

  この2つを言い換えると、国家には、宗教的に中立であることが求められていることに他ならず、これを「政教分離原則」と呼びます。

歴史の中で、古今東西、国を問わず、国家が特定の宗教と結びつくとき、異教徒や無宗教者に対する宗教的迫害が行われた苦い歴史が繰り返されています。

日本では、明治憲法下で、天皇を神として崇める神社神道を事実上の国教として扱い、国は軍国主義政策の精神的基盤としてこれを利用してきました。その反省に基づいて、日本国憲法においては特に政治権力が宗教を利用することを厳格に禁じていると言えます。

 

Ⅱ.政教分離原則の限界

  政教分離原則は、国家が宗教的に中立ということが求められていると言いましたが、国家と宗教と関わり合いを持つことを 一切許さないということではありません。どうしてかと言えば、国が福祉国家として、宗教団体に対しても他の団体と同様の扱いをしなければならない場面も出てきます。例えば、宗教団体が経営する私立学校も他の学校と同等に補助金を交付することなどです。また、初詣や地鎮祭など国民の慣習となっている宗教行為もあるからです。

そこで、大切になってくるのが、「どの程度までなら許されるか」です。次に地方公共団体の行為が合憲となった判例と違憲となった判例を1つずつ記載します。2つの判例の判決の分かれ目は何か、しっかりと掴んでいくことにしましょう。

憲法16-2

  津地鎮祭事件は、三重県の津市は、体育館の建設に当たって地鎮祭を行いましたが、その際の神官への謝礼・供物の代金等として公金を支出しました。この支出に対して、A市議会議員が「この支出は憲法第20条、第89条違反に当たる」として、地方自治法における住民訴訟を起こした事件です。

一方、愛媛県玉串料訴訟事件は、愛媛県が、靖国神社の例大祭やみたままつりの玉串料(神様への御供え料)を県の公金で支出しましたが、愛媛県の住民団体が「この支出は憲法第20条3項、第89条に違反する」として、愛媛県知事に対し、指揮監督上の義務に違反しているとして訴訟を起こした事件です。

両訴訟とも、地方公共団体の行為が政教分離原則に反するのか否かが問われた裁判でした。結果は、津の訴訟では合憲、愛媛の訴訟では違憲の判決が下りました。この2つの判決の分かれ目は、「目的・効果基準」と呼ばれるものです。

目的・効果基準とは、目的と効果の2つに着目して政教分離に反するか反しないか、を判断する基準のことです。

★その行為の目的が世俗的なものであって宗教的なものでないこと
★その主要な効果が宗教を援助、助長する、または抑圧するものでないこと

以上の基準がクリアできれば、その行為は政教分離原則に違反しない=合憲と判断されます。
 

  津の訴訟では、宗教と関わり合いをもつものであるが、一般的慣習に従った儀礼に留まっており、合憲とされました。

まず、目的に着目します。地鎮祭の目的は土地をお払いして土地の平安を願ったり、工事が無事に完了するよう願ったりするものです。ここではあくまで土地の平安・工事の無事を願うのが目的なので、目的に宗教的意義はなく目的の基準はクリアです。

続いて、効果に着目します。効果は一般的な慣習にすぎないと判断しました。地鎮祭は、私たちが日常生活でクリスマスツリーを飾ったり、節分に豆まきをするのと同様の程度のことであるという意味です。つまり、地鎮祭をした神主さんに援助、助長、促進、圧迫、干渉、といった効果はもたらさないと判断されたのです。これにより、効果の基準もクリアです。したがって、地鎮祭に対する公金支出は合憲とされました。

 

  一方、愛媛の訴訟では、特定の宗教団体が主催する重要な宗教的色彩の強い祭祀において県が玉串料の支出しており、宗教に対する関心を呼び起こす危険性(助長等)が認められたため、違憲と判断されたのです。

まず、目的に着目します。玉串料とは、靖国神社・県護国神社の祭祀において神前に供えるものです。そして、奉納された玉串料は、祭祀の際に宗教上の儀式を行うために使われるので、玉串料奉納は宗教的意義を持つと判断されました。玉串料奉納は一般的な慣習とはいえず、地鎮祭とは区別すべきだ、としたのです。ですから、目的に宗教的意義があり、目的の要件はクリアできていません。


続いて効果に着目します。玉串料奉納のもたらす効果は、県知事が玉串料を奉納した宗教団体だけを援助・助長・促進したことになります。他の宗教団体には同様の支出をしていないので、他の宗教団体にとっては圧迫・干渉となります。
以上のことから、玉串料奉納は特定の宗教団体に援助、助長、促進、圧迫、干渉、といった効果をもたらす、としました。効果の要件もクリアできていません。
したがって、愛媛県知事の玉串料奉納は違憲とされました。

 

  2つの事件を比べて、内容の差が分かりましたか? なお、憲法第89条には、政教分離原則を財政面からフォローして規定が定められています。

憲法16-3

  現在に至るまで、政教分離原則違反とした判例は、記載の「愛媛県玉串料訴訟」と、市が町内会に対して市有地を無償で神社の敷地として利用させたことの合憲性が争われた「空知太神社訴訟」の2つしかありません。

  合憲となった判例とともに下表にまとめましたので、参考にしてください。

憲法16-4

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