第14回 思想および良心の自由

  第10回の「そもそも人権って何?」の中に出てきた「精神的自由権」を覚えていますか? 人権を自由権、社会権、参政権、受益権に分けて、そのまた自由権を3つに分けた中の一つでしたね。学問や表現などの精神的活動を行う権利と覚えたと思います。

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  「まだ、よく覚えきれていない」と感じた方は、もう一度、第10回を読んでから、ここに戻ってきてください。

  さて、今回は、学問や表現などの精神的活動を行う権利である精神的自由権について、具体的に見ていきたいと思います。前回の包括的基本権と違って、今回以降は、過去に、国家権力によって侵害された人権の一つひとつが出てきます。

まず手始めは、第19条「思想および良心の自由」についてです。

  我が国の明治憲法下においては、特定の思想を持つ人を反国家的なものとして国家権力で弾圧することが、日常的に行われていました。その反省として規定されたのがこの第19条です。また、思想や良心の自由を信教や表現の自由と区別して明文化しているのは、諸外国ではあまり見られません。ですから、第19条は、明治憲法下での弾圧がいかに悲惨だったかの表れとも言えます。

憲法14-1

  ここで謳ってている「思想及び良心の自由」とは、世界観や人生観、主義・主張のような個人の内面的な精神作用のことです。第19条では、国民がどのような世界観や人生観を持っていたとしても、心の内にとどまる限り制限されることはなく、絶対的に保障されることを意味しています。ですから、例えば、ある人が、現在日本がとっている民主主義制度を否定する考えを持っていたとしても、自分の中で考えたり、思ったりしているだけなら処罰されない、ということです。

  また、第19条は、国民がどんな思想を持っているか、国家権力が調べたり、推し量ったり、申告させたりすることができないことも意味します。例えば、江戸時代の踏み絵のようなことは許されない、ということです。さらに、特定の思想を持っていることで不利益な取り扱いを受けることも許されないことも意味しています。

 

  次の判例は、衆議院議員選挙で対立候補Yが汚職をしたと公表したⅩに対して、Yは名誉を毀損されたとして新聞紙上に謝罪広告を求める訴訟を起こし、裁判所はYの訴えを認めました。そこで、Ⅹはその判決に対して、新聞に謝罪広告の掲載を強制することは、憲法19条に違反するとして、提訴した事件です。

憲法14-2

  この事件で求められた謝罪広告の内容は、『放送(記事)は真相に相違しており、貴下の名誉を傷つけ御迷惑をおかけいたしました。ここに陳謝の意を表します』という内容のものでした。最高裁判所の判決は、この内容の謝罪広告を単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明するに止まる程度のものだから、良心の侵害には当たらず、憲法第19条には反していないと言う結論を出しました。

しかし、この判決に対しては、謝罪・陳謝は倫理的意思であり、その公表を強制することは良心の自由を侵害し違憲であるとする別の見解あるとも言われています。

  もう一つ、思想および良心の自由をめぐる事件を見てみましょう。

  この事件は、原告(裁判を起こした人)は、中学校在学中に学生運動に傾倒し、機関紙を発行したり、集会に参加するなどの政治活動を行っていました。担任教諭は内申書の「基本的な生活習慣」「公共心」「自省心」の欄にC評価(3段階の最下位)を付けるとともに、備考欄に「文化祭粉砕を叫んで他校生徒とともに校内に乱入し、ビラまきを行った。大学生ML派の集会に参加している」などの原告の学生運動に関する経歴を記述しました。

  高校受験では原告は受験したすべての高校で不合格になってしまいましたが、それは内申書に在学中の学生運動を記述されたからで、本人に内緒で政治活動のことを内申書に記載したことは憲法に違反するとして、東京都と千代田区に損害賠償を求めた事件です。

憲法14-3

  この事件の判例では、最高裁判所は、「中学校の担任は、内申書にその中学生が中学在学中に機関紙を発行したり、集会に参加したことを記載したが、そのことは発行したあるいは参加したという目に見える形の事実を記載しただけで、その中学生の思想信条、つまり目に見えない内心までを記載したものではない」としています。このことは、言い換えると、内申書に生徒の政治活動を記載することは、思想・良心の自由を侵害するものではないので記載してもいい、ということになります。

  この事件での争点のもう一つに、内申書に政治活動を記載することは、プライバシー権の侵害に当たらないかということがあります。このことについて判旨では、「本件調査書の記載による情報の開示は、入学者選抜に関係する特定小範囲の人に対するものであって、情報の公開には該当しない」と言っています。つまり、内申書は特定小範囲の人に対してのみ開示するものであるから、内申書に個人の私生活に関する情報を記載しても、プライバシー権の侵害には当たらないのです。

  実は、この原告(訴えた人)は、現在の世田谷区長の保坂展人氏です。2011年4月の区長選挙の際に、再びクローズアップされたのがこの事件なのです。

  精神的自由権の1つ「思想・良心の自由」について、行政書士試験によく取り上げられる判例を2例挙げましたが、毎年3月になるとマスコミを賑わす「君が代斉唱問題」なども、思想・良心の自由に関係する問題の一つなので、動向を注意深く見守ることが必要かもしれません。

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