第45回 憲法に保障された地方自治とは

  地方自治とは、地方における政治・行政をその地域の住民の意思に基づき、国からは独立した地方公共団体がその権限と責任において自主的に行うことです。

  日本国憲法では、民主主義の進展と広がり、中央政府への権力集中の弊害の防止などのため、地方自治が需要な意義を持つことを認めて、第8章として取り上げています。
第8章の条文を92条から95条まで順に解説していきます。

 

Ⅰ.地方自治の基本原理

憲法45-1

  地方公共団体とは、通常、国家の領土の一定の区域をその構成の基礎とし、その区域内の住民をその構成員として自治権に基づいてその区域内の行政を行う団体のことを指します。
地方自治法上の地方公共団体には、次の2種類あります。

①普通地方公共団体:都道府県、市町村

②特別地方公共団体:特別区、地方開発事業団

  この92条などで用いられている地方公共団体が具体的に何を指すかは、憲法には明記されていません。この点を巡り、①現在の都道府県・市町村という二段階制が憲法の要請するものか否か、また仮にそうであるとしたら府県をいくつかずつまとめた道州制の導入が許されるのか、②地方自治法上の普通公共団体はともかく、特別地方公共団体も憲法上の地方公共団体に当たるのか――が議論されています。

  ①については、主に2つの説があります。

➊二段階制は憲法上の要請ではなく、立法政策上の制度であるから、地方自治法の本旨に基づかないような地方公共団体の設置は認められないものの、二段階制を一段階制にすることも道州制をとり入れることも許される。

➋二段階制は憲法上の要請である。

  ②はさらに2つの説に分かれ、 

A憲法は現在の都道府県・市町村という固定した二段階制を要請し、道州制は許されない。

B憲法は二段階制を要請しているが、どのような二段階制にするかについては立法政策上の問題であるから、地方自治の本旨に基づいた道州制は許される。

 

  次に、条文にある地方自治の本旨とは、一般に次の2つの原則を指すものと解釈されています。

①住民自治:地方自治はその地域の住民の意思に基づいて行わなければならない。

②団体自治:地方自治は国から独立した団体に委ねられ、その団体自らの意思と責任の下で行わなければならない。

  ①の住民自治の原則は、憲法上、地方公共団体の長・議員は住民が直接選挙によって選ぶことや、条例の制定・改廃や地方公共団体の議員・長に対するリコール請求が認められていることなどが、示している民主主義的要素です。

  ②の団体自治の原則は、憲法上、地方公共団体に課税権が認められていることなどが、示している自由主義的要素です。

 

Ⅱ.地方公共団体の機関とその直接選挙

憲法45-2

  93条で特筆すべきは、首長制の採用です。首長制というのは、議決機関としての議会と長とを、ともに住民の直接選挙で選び、住民の代表機関としてそれぞれの権限と責任とを分け、互いの均衡と調和を図る制度のことです。

  国の政治を、間接民主制の一種である議院内閣制を採用しているのに対し、個々の国民にとってより身近である地方自治は首長制を採用して、相互に補完し合って民主主義をより充実させようという趣旨が読み取れます。

  地方自治法では、長として都道府県には知事が、市町村には市町村長が置かれ、それぞれの任期は4年とされています。

  また、地方自治でも、議事機関として議会が設置されます(1項)。地方議会は住民の代表機関で、中央の国会と同じような働きをします。ただし、議院内閣制の国会では内閣が国会のコントロールの下に置かれていますが、地方自治の長と地方議会は独立対等の関係にあります。

  2項で、議会の構成員である議員を住民の直接選挙で選ぶこととした趣旨は、地方公共団体では直接民主制度を採用するのが妥当と考えられるからで、規模の小さい地方公共団体では、必ずしも議会を置く必要はなく、選挙権者自身によって構成される総会を議決機関とすることも可能であると解釈されています。地方自治法では、「町村では、条例に基づき、議会の代わりに町村総会を置くことができる」と規定しています。

 

Ⅲ.地方公共団体の権能

憲法45-3

  地方公共団体の権能には①財産の管理、②事務の処理、③行政の執行、④条例の制定――の4つがあります。

  かつては地方公共団体が行うべき事務の中に、地方行政の本来的に必要な事務のほかに、国から地方公共団体に委任された機関委任事務がありました。
機関事務においては、地方議会の権限は大幅に制限され、国の包括的な指揮監督が行われていたにもかかわらず、量的な割合は非常に大きく、地方自治の観点から問題視されていました。

そこで、平成11年に地方自治法が改正され、機関委任事務は廃止されました。現在の地方自治法では、地方公共団体の行うべき事務は自治事務と法定受託事務とされています。個々についは、後ほど詳しく解説するとして、そのいずれもが、国が地方公共団体に対して関与を及ぼす範囲が必要最小限のものとなるように制限されています。

  今後も大きな流れとしては、地方分権の尊重に向かっていくと思われますが、地方自治団体が自主的財源を確保できるかなどの問題もあり、国と地方公共団体との権限の分配については、今後も変更されていくと思われますので、チェックが必要です。

  ところで、条例とは、地方公共団体がその自治権に基づいて制定する自主法です。地方公共団体が制定する自主法には、①議会が制定する条例、②長が制定する規則、③各種委員会が制定する規程――がありますが、憲法94条2項に規定されている条例の範囲は、どれを指すのでしょうか? 
通説では、①②③すべて認める最広義説が有力であるとされています。

  一方、条例制定権は、次の4つの点で限界を論じられています。

①「法律の範囲内」の意味

②条例により地域間で取扱いに差を生じさせることの可否

③条例による財産権規制の可否

④条例で罰則を定めることの可否

  まず、94条の明文上、条例の制定は法律の範囲内でのみ認められていることが分かります。ここで、よく問題になるのが、国の法令で定める基準よりも厳しい基準を定める条例(上乗せ条例と言います)や、国の法令では規制対象としていない事項について規制対象とする条例(横出し条例と言います)を定めることが「法律の範囲内」に当たるかどうかです。

  この問題を語るときによくリーディングケースとなる「徳島県公安条例事件」を見ていきます。この事件は、徳島市の公安条例と道路交通法との関係が問題になった事件です。

憲法45-4

  判例では、問題になっている条例と法令の対象事項と規定文言を対比することは当然として、それぞれの趣旨・目的・内容・効果を比較して、両者の間に矛盾があるかどうかを視点として判断しなければならないとしています。

  条例により地域間で取扱いに差を生じさせることの可否については、平等原則に反しないかが問われることになりますが、憲法が各地方公共団体に条例制定権を認めている以上、地域によって差別を生じることは当然に予測でき、この差別は憲法が容認していると言えるので、違憲ではないと解釈されています。

  また、条例による財産権規制の可否については、憲法29条2項の「財産権の内容は、……法律でこれを定める」の解釈として条例を法律に含むかどうかが問われることになります。29条2項の趣旨は、国民の代表者である国会の定める法律でなければ国民の財産権を規制できないということですが、条例は住民の代表である地方議会によって制定されるものなので、地方自治の事務として処理することが適当な場合には、必要な限度で条例をもって財産権を規制することも許されると解釈されています。

  さらに、条例で罰則を定めることの可否については、憲法31条の「法律の定める手続に…」と73条6号が政令で罰則を定めることを原則として禁じていることとの関係で、合憲性を問われる場合が生じます。判例によれば、条例は国の行政機関が定める命令とは異なり、住民の代表である地方議会が定めるものであるから、相当程度に具体的で限定された委任の状態であればよいとされています。

 

Ⅳ.特別法についての住民投票

憲法45-5

  まず、条文中の「一の」の意味は特定のという意味です。ですから、必ずしも一つの地方公共団体である必要はありません。

  95条の対象となる法律は地方特別法と呼ばれ、すでに存在している特定の地方公共団体に適用される法律です。具体的には、戦後一時アメリカ合衆国の領土であった小笠原諸島が日本の領土として復帰する際に「小笠原諸島の復帰に伴う法令の適用の暫定措置法等に関する法律」が制定されましたが、これが制定された時点では、小笠原諸島が日本の法律上の地方公共団体になっていなかったので、95条は適用されず、住民投票の必要はありませんでした。

  また、95条の趣旨は4つあります。

①国による地方自治権の侵害防止

②地方公共団体の個性の尊重

③地方公共団体の平等権の尊重

④地方行政における民意の尊重

  95条の特別法の意味は、特定の地方公共団体の本質にかかわる不平等・不利益な特例を設ける法律のことを指します。

  また、95条には、地方特別法の成立には、国会の可決のみではなく、適用を受ける地方公共団体の住民による投票の結果、過半数の賛成が必要と規定さているので、国会単独立法の原則の例外と言えます。

ページ上部へ戻る